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第20話


 世界が跳ねた。


 その瞬間、音も光も一拍だけ遅れる。


 まるで現実そのものが「今の発言」を理解できずに停止したようだった。


外側の王「……拒否、だと?」


 巨大な目がわずかに揺れる。


 その“揺れ”だけで、空の裂け目が軋んだ。


???「……ふふ」


 少女が、ほんの少しだけ笑った。


???「いいね」


湊「いいわけあるか」


 喉が焼けるように痛い。


 呼吸も重い。


 それでも、選択は終わっている。


湊「全部拒否だ。管理も継承も知らねぇ」


 視界にまだ残る選択UIが、ゆっくりとノイズを出し始める。


《候補選択プロセス:異常終了》

《再選択不可》


 エラー。


 その瞬間。


外側の王「ならば、“空席”のままか」


 空気が冷えた。


外側の王「管理者不在の世界は、必ず崩壊する」


 重い声。


 それは脅しというより“事実”だった。


 少女が小さく舌打ちする。


???「うるさいなぁ……」


 だが、その声にも余裕はない。


 金色の境界線が、少しずつ削られている。


 押されている。


 外側の圧は、確実に強くなっていた。


ゼクト「……まずいな」


 ゼクトが初めて一歩下がる。


ゼクト「拒否したのはいいけどよ」


ゼクト「“代わりが必要な状態”なのは変わってねぇ」


湊「代わりって何だよ」


ゼクト「世界の鍵だよ」


 短く言う。


ゼクト「この箱を閉じる役目」


 嫌な例えだ。


 その時。


 外側の王の“手”が再び伸びる。


 今度は一点を狙っている。


 俺じゃない。


 リリアナだ。


リリアナ「……え」


 空間が歪む。


 金色の紋章が反応するより速い。


???「っ……!」


 少女が動く。


 だが一瞬遅い。


外側の王「鍵を回収する」


 手が伸びる。


 リリアナへ。


 その瞬間。


湊「やめろ」


 無意識だった。


 言葉が出るより先に“見えていた”。


 あの手の“接続点”。


 リリアナと世界を繋ぐライン。


 そして外側の王がそこへ“侵入している経路”。


 理解。


 理解してしまった。


湊「断界」


 小さく言う。


 次の瞬間。


 パキン、と音がした。


 世界ではなく。


 “概念”。


 リリアナへ伸びていた接続そのものが、断ち切られる。


外側の王「……っ」


 初めて明確な動揺。


 手が止まる。


 リリアナがその場で崩れかける。


リリアナ「……え、今の……」


 彼女自身も、自分に何が起きたのか理解できていない。


 ただ一つ。


 “引っ張られなかった”という事実だけが残る。


ゼクト「おいおいおい……」


 ゼクトが呆れたように笑う。


ゼクト「もう“使ってる”じゃねぇか」


湊「使わされたんだよ」


 息が荒い。


 頭が熱い。


 だが、理解は止まらない。


 見える。


 切れる。


 繋がるものと、切れるものが。


外側の王「……観測者」


 声が低くなる。


外側の王「やはり、危険因子」


 空がさらに割れる。


 裂け目が“増える”。


 今度は一つじゃない。


 複数の世界から覗かれている。


 その時。


 少女がゆっくり振り返った。


???「ねぇ」


 初めて、感情が乗る声。


???「これ以上やると、本当に壊れるよ」


外側の王「構わない」


 即答。


外側の王「この世界は“代替可能”」


 その言葉で、空気が変わった。


 騎士たちの誰かが呟く。


騎士「……代替?」


 世界が、消耗品扱いされている。


 その時。


 リリアナが小さく震えながら立ち上がった。


リリアナ「違う……」


 かすれた声。


リリアナ「この世界は……そんなものじゃ……」


 胸の紋章が強く光る。


 金色が揺れる。


 その瞬間。


 外側の王の動きが止まった。


外側の王「……鍵が、応答した」


 空気が沈む。


 少女が息を呑む。


???「まさか……」


 リリアナの身体から、金色の光が“柱”のように立ち上がる。


 そして――


 世界そのものに、一本の“線”が通った。


《世界固定構造:再起動》


 システム音のようなものが響く。


 次の瞬間。


 空の裂け目が、一斉に閉じ始めた。


外側の王「なぜだ」


 初めて、明確な“焦り”。


 リリアナが震えながら言う。


リリアナ「わたしは……」


リリアナ「この世界の……」


 言葉が続かない。


 だが、金色の光は確かに世界を繋ぎ直している。


 少女が小さく笑った。


???「思い出したんだね」


 その言葉と同時に。


 空の裂け目が、次々と閉じていく。


 外側の王が引き剥がされる。


外側の王「……観測者」


外側の王「次は必ず」


 その声を最後に。


 世界は、静かになった。


 黒い空が消え。


 塔に光が戻る。


 風が吹く。


 そして――


 全員が、その場に崩れ落ちた。


 静寂。


 完全な静寂。


 数秒後。


ゼクト「……生きてるか?」


 誰もすぐに答えなかった。


 俺はゆっくり息を吐く。


湊「……ギリな」


 リリアナが隣で座り込んでいる。


 涙が少しだけ浮かんでいた。


リリアナ「……終わった、んですか」


 少女が空を見上げる。


???「うん」


???「一旦は」


 その言葉だけが、妙に引っかかった。


 そして、俺の視界に最後の表示が出る。


《管理権限状態:未確定》

《観測者進行度:上昇中》


 終わっていない。


 むしろ――


 ここからが始まりだと、はっきり理解してしまった。

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