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第21話


 静寂が、逆に不気味だった。


 さっきまで世界を引き裂いていた裂け目は消えたはずなのに、空気の“違和感”だけが残っている。


 まるで、何かがまだこちらを見ているような感覚。


湊「……終わってないな」


 ぽつりと呟くと、少女が小さく頷いた。


???「うん。さっきのは“接触の遮断”だけ」


ゼクト「だろうな」


 ゼクトは地面に座り込んだまま、空を見上げている。


ゼクト「外側の連中が本気で引くときは、こんな綺麗に終わらねぇ」


ガルディア「……では、まだ来ると?」


 騎士団長の声はかすれていた。


 その問いに、少女はあっさり答える。


???「来るよ」


 即答。


 場の空気がさらに重くなる。


リリアナ「……わたしの、せいで」


 リリアナが俯く。


 金色の紋章はまだ弱く光っていたが、さっきほどの圧はない。


 むしろ、疲弊しているように見える。


湊「違う」


 即座に否定した。


リリアナ「でも……鍵って……」


湊「知らねぇけど、あれはお前だけの問題じゃない」


 視界の端で、少女が少しだけ目を細める。


???「そういうこと」


 軽く言う。


???「この世界そのものが“見つかった”の」


 その一言が、やけに重かった。


 見つかった。


 それはつまり――


 もう隠せないということだ。


ゼクト「で、どうするんだよ」


 ゼクトが少女を見る。


ゼクト「管理者様はよ」


 少女は少しだけ考え込む。


???「うーん」


???「一回、構造を“降ろす”しかないかな」


湊「構造を降ろす?」


???「この世界のレイヤーを一段落とすの」


 さらっと、とんでもないことを言う。


ガルディア「……世界を、落とす?」


???「うん」


 少女は当然のように頷く。


???「今のままだと“外側”から見つかりやすい構造だから」


???「一段下げて、観測難度を上げる」


 言っている意味はなんとなくわかる。


 でもスケールが狂っている。


湊「それ、世界壊れないのか」


???「壊れないようにやるのが仕事」


 即答。


 その時。


 ゼクトが小さく笑った。


ゼクト「相変わらず無茶やるな、お前ら管理層は」


???「ゼクトくんも昔はこっち側だったでしょ」


ゼクト「やめろ、その呼び方」


 少しだけ空気が緩む。


 だがリリアナだけはまだ不安そうだった。


リリアナ「それをすると……どうなるんですか」


 少女は少しだけ間を置く。


???「“今の世界”は一回リセットされる可能性がある」


 その一言で、空気が止まった。


騎士「リセット……?」


ガルディア「記憶も……ですか?」


???「全部じゃないけど」


???「構造に関係するものは変わる」


 曖昧な言い方。


 でも要するに。


 “今の関係性はそのままじゃいられない可能性がある”。


 その瞬間。


 リリアナの顔が少しだけ強張った。


 そして、俺の方を見た。


リリアナ「神代……」


 その声が、少し震えている。


 俺は一度息を吐いた。


湊「……面倒な仕様だな」


???「仕様だからね」


 少女は悪びれない。


 その時。


 空に、微かな“ひび”が入った。


 今度は黒じゃない。


 薄い灰色の線。


ゼクト「……早いな」


 ゼクトが舌打ちする。


ゼクト「もう“調整開始”かよ」


少女「うん」


 少女が空を見る。


???「外側が完全に諦めてない」


 灰色の線が増えていく。


 だが、さっきほどの圧はない。


 もっと“静かな侵食”。


 ゆっくりと世界を書き換えるような動き。


湊「これが……降ろすってやつか」


???「違う」


 少女は首を振る。


???「これは“拒否された結果の反作用”」


 嫌な言葉だった。


 拒否。


 さっき俺が選んだやつ。


 全部拒否。


 その結果。


 世界そのものが“揺れている”。


リリアナ「わたしは……どうなるんですか」


 リリアナが小さく問う。


 少女は少しだけ視線を逸らす。


???「君は多分……残る」


???「でも“鍵”としてじゃなくなるかも」


 曖昧な未来。


 不確定。


 その時。


 俺の視界にまた表示が出る。


《再構築プロセス開始》

《観測者安定処理:未完了》


 頭が重い。


 まだ何かが続いている。


 ゼクトが立ち上がる。


ゼクト「じゃあ決まりだな」


 軽く言う。


ゼクト「しばらく忙しくなる」


湊「どこが“しばらく”だよ」


ゼクト「長いぞ、多分」


 笑っているのに、目は真面目だった。


 少女が最後に一言だけ言う。


???「湊」


湊「何だ」


???「君はもう“観測者候補”じゃない」


 静かに。


???「半分は、もうそうなってる」


 その言葉が、やけに重く落ちた。


 空の灰色の線が、少しだけ増える。


 世界が、ゆっくりと書き換わり始めている。


 そして――


 その中心に、俺はまだ立っていた。

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