第21話
◇
静寂が、逆に不気味だった。
さっきまで世界を引き裂いていた裂け目は消えたはずなのに、空気の“違和感”だけが残っている。
まるで、何かがまだこちらを見ているような感覚。
湊「……終わってないな」
ぽつりと呟くと、少女が小さく頷いた。
???「うん。さっきのは“接触の遮断”だけ」
ゼクト「だろうな」
ゼクトは地面に座り込んだまま、空を見上げている。
ゼクト「外側の連中が本気で引くときは、こんな綺麗に終わらねぇ」
ガルディア「……では、まだ来ると?」
騎士団長の声はかすれていた。
その問いに、少女はあっさり答える。
???「来るよ」
即答。
場の空気がさらに重くなる。
リリアナ「……わたしの、せいで」
リリアナが俯く。
金色の紋章はまだ弱く光っていたが、さっきほどの圧はない。
むしろ、疲弊しているように見える。
湊「違う」
即座に否定した。
リリアナ「でも……鍵って……」
湊「知らねぇけど、あれはお前だけの問題じゃない」
視界の端で、少女が少しだけ目を細める。
???「そういうこと」
軽く言う。
???「この世界そのものが“見つかった”の」
その一言が、やけに重かった。
見つかった。
それはつまり――
もう隠せないということだ。
ゼクト「で、どうするんだよ」
ゼクトが少女を見る。
ゼクト「管理者様はよ」
少女は少しだけ考え込む。
???「うーん」
???「一回、構造を“降ろす”しかないかな」
湊「構造を降ろす?」
???「この世界のレイヤーを一段落とすの」
さらっと、とんでもないことを言う。
ガルディア「……世界を、落とす?」
???「うん」
少女は当然のように頷く。
???「今のままだと“外側”から見つかりやすい構造だから」
???「一段下げて、観測難度を上げる」
言っている意味はなんとなくわかる。
でもスケールが狂っている。
湊「それ、世界壊れないのか」
???「壊れないようにやるのが仕事」
即答。
その時。
ゼクトが小さく笑った。
ゼクト「相変わらず無茶やるな、お前ら管理層は」
???「ゼクトくんも昔はこっち側だったでしょ」
ゼクト「やめろ、その呼び方」
少しだけ空気が緩む。
だがリリアナだけはまだ不安そうだった。
リリアナ「それをすると……どうなるんですか」
少女は少しだけ間を置く。
???「“今の世界”は一回リセットされる可能性がある」
その一言で、空気が止まった。
騎士「リセット……?」
ガルディア「記憶も……ですか?」
???「全部じゃないけど」
???「構造に関係するものは変わる」
曖昧な言い方。
でも要するに。
“今の関係性はそのままじゃいられない可能性がある”。
その瞬間。
リリアナの顔が少しだけ強張った。
そして、俺の方を見た。
リリアナ「神代……」
その声が、少し震えている。
俺は一度息を吐いた。
湊「……面倒な仕様だな」
???「仕様だからね」
少女は悪びれない。
その時。
空に、微かな“ひび”が入った。
今度は黒じゃない。
薄い灰色の線。
ゼクト「……早いな」
ゼクトが舌打ちする。
ゼクト「もう“調整開始”かよ」
少女「うん」
少女が空を見る。
???「外側が完全に諦めてない」
灰色の線が増えていく。
だが、さっきほどの圧はない。
もっと“静かな侵食”。
ゆっくりと世界を書き換えるような動き。
湊「これが……降ろすってやつか」
???「違う」
少女は首を振る。
???「これは“拒否された結果の反作用”」
嫌な言葉だった。
拒否。
さっき俺が選んだやつ。
全部拒否。
その結果。
世界そのものが“揺れている”。
リリアナ「わたしは……どうなるんですか」
リリアナが小さく問う。
少女は少しだけ視線を逸らす。
???「君は多分……残る」
???「でも“鍵”としてじゃなくなるかも」
曖昧な未来。
不確定。
その時。
俺の視界にまた表示が出る。
《再構築プロセス開始》
《観測者安定処理:未完了》
頭が重い。
まだ何かが続いている。
ゼクトが立ち上がる。
ゼクト「じゃあ決まりだな」
軽く言う。
ゼクト「しばらく忙しくなる」
湊「どこが“しばらく”だよ」
ゼクト「長いぞ、多分」
笑っているのに、目は真面目だった。
少女が最後に一言だけ言う。
???「湊」
湊「何だ」
???「君はもう“観測者候補”じゃない」
静かに。
???「半分は、もうそうなってる」
その言葉が、やけに重く落ちた。
空の灰色の線が、少しだけ増える。
世界が、ゆっくりと書き換わり始めている。
そして――
その中心に、俺はまだ立っていた。
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