第19話
◇
“管理権限継承候補”。
その文字を見た瞬間、脳が一瞬だけ空白になる。
湊「……何だよそれ」
声が出るまでにワンテンポ遅れた。
少女が振り向く。
その顔には、初めて明確な“焦り”が浮かんでいた。
???「それ、見ちゃダメなやつ」
湊「遅いわ!!」
空の裂け目。
“外側の王”と呼ばれた巨大な目が、ゆっくりとこちらを見下ろしている。
外側の王「候補……確かに存在する」
空間が歪む。
一言喋るたびに、世界の構造が軋む。
外側の王「欠落した管理者の代替として……」
少女が一歩前に出る。
???「やめて」
短い一言。
だが、世界が一瞬だけ従うように揺れた。
――止まる。
ほんの一瞬。
それでも異常だ。
ゼクト「……おいおい」
ゼクトが低く呟く。
ゼクト「“王”相手に押し返してるのかよ」
少女は振り返らずに言う。
???「今のうちに」
湊「今のうちにって何だよ」
???「決めて」
空気が変わる。
少女の声が、少しだけ真剣になる。
???「あなた、継ぐのか」
湊「は?」
???「管理者」
その単語で、背筋が冷えた。
王。
世界。
外側。
全部繋がる。
湊「ふざけるな」
即答だった。
管理?
こんなものを?
世界を?
冗談じゃない。
外側の王「否定するか」
巨大な目が細くなる。
外側の王「ならば、排除」
次の瞬間。
空間が“沈んだ”。
圧力じゃない。
概念ごと押し潰すような重さ。
ガルディア「ぐっ……!!」
騎士たちが一斉に膝をつく。
リリアナも息を詰まらせる。
リリアナ「っ……これ……!」
俺も同じだ。
呼吸が重い。
思考が鈍る。
《精神負荷:臨界》
《認識維持困難》
視界がブレる。
その時。
リリアナが俺の腕を強く掴んだ。
リリアナ「神代……!」
その瞬間。
また“戻る”。
世界が安定する。
この感覚。
やっぱり彼女が“鍵”だ。
ゼクト「やっぱりアンカーだな、それ」
ゼクトが舌打ちする。
ゼクト「観測者の暴走を止める錨」
湊「錨ってなんだよ……」
だが説明されている余裕はない。
空の圧力がさらに強くなる。
外側の王「拒絶は想定内」
外側の王「ならば直接移行する」
その瞬間。
空の裂け目から“手”が伸びてきた。
黒い。
巨大な。
世界のスケールに合っていない。
空間そのものを掴む手。
そして――こちらへ引き寄せる。
ガルディア「防げぇぇ!!」
騎士たちが魔法を放つ。
だが。
魔法が“意味を持つ前に”消える。
ゼクトが低く笑った。
ゼクト「無理だな」
ゼクト「ルールが違う」
その時。
少女が静かに言った。
???「断界、二重展開」
空気が変わる。
金色の線が、さらに重なる。
今度は“外側の手”に直接絡みつく。
外側の王「……管理者権限?」
初めて、声に揺らぎが出た。
少女は淡々と続ける。
???「まだ有効」
ギリギリの均衡。
だが、押し返せている。
その時だった。
俺の視界に再び表示。
《候補選択プロセス開始》
視界が強制的に切り替わる。
何かの“画面”。
選択肢。
逃げる。
拒否する。
継承する。
どれも、意味が重すぎる。
湊「……なんだこれ」
その瞬間。
外側の王の声が響いた。
外側の王「選べ」
外側の王「世界の外へ出るか」
外側の王「ここで終わるか」
シンプルな二択。
だが、どちらも死に等しい。
少女が小さく呟く。
???「湊」
初めて名前で呼んだ。
???「決めて」
空が割れる音がする。
限界が近い。
その瞬間。
リリアナが強く言った。
リリアナ「神代!!」
彼女の手が、強く握られる。
温度。
現実。
人間。
その全部が一気に戻ってくる。
湊「……っ」
息を吸う。
そして。
俺は選択肢を見たまま、ゆっくり口を開いた。
湊「全部拒否だ」
その瞬間。
世界が、静かに“跳ねた”。
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