第17話
◇
沈黙。
本当に、誰一人声を出せなかった。
騎士たちも。
ガルディアも。
王ですら。
全員が、目の前の少女を理解できずにいる。
だが。
俺だけは、本能的にわかってしまった。
――嘘じゃない。
この存在は、本当に“世界側”だ。
《解析不能》
《観測限界超過》
《直接接触注意》
警告が並ぶ。
なのに、不思議と恐怖は薄かった。
さっきの“外側”とは違う。
あれは純粋な異物。
だが、この少女は――
“この世界の内側”だ。
???「ふふ」
少女が小さく笑う。
???「ちゃんと理解できるんだね」
その視線が俺へ向く。
透明な瞳。
底が見えない。
湊「……お前、何者だ」
???「さっき言ったよ?」
少女は首を傾げる。
???「この世界そのもの」
ゼクト「いやいや」
ゼクトが引きつった顔で笑う。
ゼクト「それ本人が出てくるの反則だろ……」
軽口のようで、本気で困惑していた。
つまりゼクトでも想定外。
少女はそんな周囲を気にせず、ゆっくり歩いてくる。
足音がない。
いや、空間が彼女を“拒否していない”。
存在そのものが自然すぎる。
その時。
リリアナの紋章が反応した。
金色の光。
少女はそれを見ると、少し嬉しそうに目を細める。
???「あ、やっぱり鍵だ」
リリアナ「……鍵って、何なんですか」
少女は少し考える仕草をする。
???「封印装置?」
リリアナ「装置!?」
王女への説明じゃない。
軽すぎる。
だが少女は平然としている。
???「昔ね、外側のものが入り込みすぎたから、境界を固定するために作ったの」
作った。
つまり。
リリアナの力は“人工的”?
王が険しい顔になる。
王「……王家の秘術か」
???「ううん、もっと前」
少女が笑う。
???「あなたたちの文明が始まる前」
空気が凍る。
規模が違う。
その時。
俺の視界に新しい表示。
《世界管理者個体を確認》
《接触許可状態》
管理者。
マジで世界運営側じゃねぇか。
湊「……なんで今出てきた」
???「君が“断界”を使ったから」
少女は当然みたいに言う。
???「あれ、世界の管理権限に近い力なんだよ?」
湊「は?」
ゼクト「は?」
俺とゼクトの声が重なる。
少女はきょとんとした。
???「知らなかったの?」
湊「知らねぇよ!!」
思わず叫ぶ。
少女は少し困った顔をする。
???「でも適合率高いし……」
ゼクト「待て待て待て」
ゼクトが額を押さえる。
ゼクト「適合率って何%だ」
少女はサラッと言った。
???「今はまだ18%くらい?」
ゼクト「……終わった」
頭を抱えた。
その反応、やめろ。
怖い。
湊「何なんだよ、その反応」
ゼクト「普通、1%でも化け物なんだよ」
真顔だった。
ゼクト「観測者ってのは、本来“世界を理解する側”で終わる」
ゼクト「でも権能持ちは違う」
ゆっくり俺を見る。
ゼクト「“世界に干渉する側”になる」
嫌な汗が流れる。
その時。
少女が俺の前でしゃがみこんだ。
視線が近い。
???「でも安心して」
湊「何を」
???「まだ人間だから」
にこっと笑う。
その言葉が、逆に怖い。
湊「……人間じゃなくなるみたいに言うな」
???「実際そうだし」
即答。
空気が止まる。
リリアナが不安そうに俺を見る。
リリアナ「神代……?」
少女は続ける。
???「観測者はね、理解し続けると、だんだん“世界側”になるの」
???「個人じゃなくて、概念に近づく」
頭が痛い。
つまり。
最後には“人”じゃなくなる?
ゼクト「俺は途中で止めた」
ゼクトが静かに言う。
ゼクト「だからまだ自我がある」
その顔には、少しだけ影があった。
つまり、完全に止められたわけじゃない。
その時。
少女が突然、空を見上げた。
???「あー」
???「もう来た」
次の瞬間。
《超高密度観測反応》
《世界境界震動》
空間が揺れる。
さっき閉じたはずの空に、“亀裂”が走った。
今度は一つじゃない。
何十本も。
そして。
その向こうから、“目”が覗いていた。
無数の。
世界の外側から。
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