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第16話


 女の声。


 耳元で囁かれたはずなのに、誰も反応していない。


 つまり――俺にしか聞こえていない。


湊「……誰だ」


 小さく呟く。


 だが返事はない。


 代わりに。


《異常接続を確認》

《高次観測者反応》


 また意味不明な表示。


 頭痛が酷い。


 右目から流れる血が止まらない。


リリアナ「神代!!」


 リリアナが駆け寄ってくる。


 その手が俺の頬に触れた瞬間、少しだけ世界が安定した。


《精神安定》

《認識固定率上昇》


 完全にアンカー扱いだな、これ。


 ゼクトがそんな俺たちを見ながら、深いため息を吐いた。


ゼクト「……ありえねぇ」


湊「何がだよ」


ゼクト「権能だ」


 ゼクトは本気で信じられない顔をしていた。


ゼクト「普通、観測者は“理解”に何十年もかける」


ゼクト「その先にようやく権能の入口がある」


 俺を見る。


ゼクト「なのにお前、召喚されて数日だろ」


 言われてみればそうだ。


 成長速度がおかしい。


 いや、“進みすぎてる”。


 その時。


 倒れていた王が咳き込んだ。


王「……ぐっ」


リリアナ「お父様!」


 彼女が慌てて駆け寄る。


 王の身体から黒い魔力は消えていた。


 顔色は悪いが、さっきまでの異様さはない。


ガルディア「陛下、ご無事ですか!」


 騎士団長も駆け寄る。


 だが王はそれを手で制した。


 そして。


 ゆっくりと俺を見る。


王「……神代 湊」


 その目は、さっきまでと違っていた。


 恐怖。


 そして、理解。


王「貴様は……本当に」


王「“観測者”なのだな」


 沈黙。


 騎士たちの空気が変わる。


 もう“怪しい異界人”じゃない。


 得体の知れない災害を見る目だ。


 その時。


 ゼクトが肩をすくめる。


ゼクト「だから言ったろ」


ゼクト「囲うのは無理だって」


ガルディア「黙れ魔族!!」


 剣を向ける。


 だがゼクトは気にしない。


ゼクト「王様、忠告しとく」


 珍しく真面目な声。


ゼクト「今後、“外側”は本格的に動く」


 空を見る。


 さっき閉じた裂け目の痕跡が、まだ残っていた。


ゼクト「世界が観測者を認識した」


ゼクト「つまり、“向こう”にもバレた」


 嫌な予感しかしない。


湊「……向こうって何なんだよ」


ゼクト「世界の外側にいる連中」


 簡単に言う。


 でも内容が重すぎる。


ゼクト「この世界はな」


ゼクト「閉じた箱なんだよ」


 静かな声。


ゼクト「で、お前はその箱に“穴”を開けられる」


 空気が重くなる。


 騎士たちも、リリアナも黙って聞いていた。


ゼクト「だから狙われる」


ゼクト「世界にも、“外”にも」


 その時。


 リリアナが王へ向き直った。


リリアナ「お父様」


王「……なんだ」


リリアナ「もう、神代を拘束するのはやめてください」


 真っ直ぐな声。


 王は黙る。


リリアナ「この人がいなければ、今頃お父様は……」


 言葉が止まる。


 王も理解しているのだろう。


 自分が助けられたことを。


 長い沈黙のあと。


王「……好きにしろ」


 小さく呟く。


ガルディア「陛下!?」


王「もう管理できる段階ではない」


 苦い声。


 騎士団長も反論できない。


 実際、さっきの戦闘で全員理解した。


 俺は“普通の戦力”じゃない。


 その時。


《新規接続要求》


 また表示。


 しかも今度は、妙に柔らかい文字だった。


《個体識別:未登録》

《接続希望》


湊「……は?」


 次の瞬間。


 俺の背後の空間が、ふわりと揺れた。


 全員が警戒する。


ガルディア「何だ!?」


 だが現れたのは、予想外の存在だった。


 少女。


 銀色の長髪。


 白いワンピース。


 年齢は十歳くらいに見える。


 裸足。


 そして。


 彼女には“情報表示”が一切出なかった。


《解析不能》


 初めてだ。


 完全に何も見えない。


 少女は俺を見ると、ふわりと笑った。


???「こんばんは」


 その声を聞いた瞬間。


 俺は理解した。


 さっきの声の主だ。


リリアナ「……誰?」


 少女は小さく首を傾げる。


 そして。


 とんでもないことを言った。


???「あなたたちの世界で言うなら――」


???「“世界そのもの”かな」

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