第16話
◇
女の声。
耳元で囁かれたはずなのに、誰も反応していない。
つまり――俺にしか聞こえていない。
湊「……誰だ」
小さく呟く。
だが返事はない。
代わりに。
《異常接続を確認》
《高次観測者反応》
また意味不明な表示。
頭痛が酷い。
右目から流れる血が止まらない。
リリアナ「神代!!」
リリアナが駆け寄ってくる。
その手が俺の頬に触れた瞬間、少しだけ世界が安定した。
《精神安定》
《認識固定率上昇》
完全にアンカー扱いだな、これ。
ゼクトがそんな俺たちを見ながら、深いため息を吐いた。
ゼクト「……ありえねぇ」
湊「何がだよ」
ゼクト「権能だ」
ゼクトは本気で信じられない顔をしていた。
ゼクト「普通、観測者は“理解”に何十年もかける」
ゼクト「その先にようやく権能の入口がある」
俺を見る。
ゼクト「なのにお前、召喚されて数日だろ」
言われてみればそうだ。
成長速度がおかしい。
いや、“進みすぎてる”。
その時。
倒れていた王が咳き込んだ。
王「……ぐっ」
リリアナ「お父様!」
彼女が慌てて駆け寄る。
王の身体から黒い魔力は消えていた。
顔色は悪いが、さっきまでの異様さはない。
ガルディア「陛下、ご無事ですか!」
騎士団長も駆け寄る。
だが王はそれを手で制した。
そして。
ゆっくりと俺を見る。
王「……神代 湊」
その目は、さっきまでと違っていた。
恐怖。
そして、理解。
王「貴様は……本当に」
王「“観測者”なのだな」
沈黙。
騎士たちの空気が変わる。
もう“怪しい異界人”じゃない。
得体の知れない災害を見る目だ。
その時。
ゼクトが肩をすくめる。
ゼクト「だから言ったろ」
ゼクト「囲うのは無理だって」
ガルディア「黙れ魔族!!」
剣を向ける。
だがゼクトは気にしない。
ゼクト「王様、忠告しとく」
珍しく真面目な声。
ゼクト「今後、“外側”は本格的に動く」
空を見る。
さっき閉じた裂け目の痕跡が、まだ残っていた。
ゼクト「世界が観測者を認識した」
ゼクト「つまり、“向こう”にもバレた」
嫌な予感しかしない。
湊「……向こうって何なんだよ」
ゼクト「世界の外側にいる連中」
簡単に言う。
でも内容が重すぎる。
ゼクト「この世界はな」
ゼクト「閉じた箱なんだよ」
静かな声。
ゼクト「で、お前はその箱に“穴”を開けられる」
空気が重くなる。
騎士たちも、リリアナも黙って聞いていた。
ゼクト「だから狙われる」
ゼクト「世界にも、“外”にも」
その時。
リリアナが王へ向き直った。
リリアナ「お父様」
王「……なんだ」
リリアナ「もう、神代を拘束するのはやめてください」
真っ直ぐな声。
王は黙る。
リリアナ「この人がいなければ、今頃お父様は……」
言葉が止まる。
王も理解しているのだろう。
自分が助けられたことを。
長い沈黙のあと。
王「……好きにしろ」
小さく呟く。
ガルディア「陛下!?」
王「もう管理できる段階ではない」
苦い声。
騎士団長も反論できない。
実際、さっきの戦闘で全員理解した。
俺は“普通の戦力”じゃない。
その時。
《新規接続要求》
また表示。
しかも今度は、妙に柔らかい文字だった。
《個体識別:未登録》
《接続希望》
湊「……は?」
次の瞬間。
俺の背後の空間が、ふわりと揺れた。
全員が警戒する。
ガルディア「何だ!?」
だが現れたのは、予想外の存在だった。
少女。
銀色の長髪。
白いワンピース。
年齢は十歳くらいに見える。
裸足。
そして。
彼女には“情報表示”が一切出なかった。
《解析不能》
初めてだ。
完全に何も見えない。
少女は俺を見ると、ふわりと笑った。
???「こんばんは」
その声を聞いた瞬間。
俺は理解した。
さっきの声の主だ。
リリアナ「……誰?」
少女は小さく首を傾げる。
そして。
とんでもないことを言った。
???「あなたたちの世界で言うなら――」
???「“世界そのもの”かな」
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