第15話
◇
空が、割れていた。
黒い輪の向こう側。
そこから“降りてくる何か”を見た瞬間、騎士たちの顔色が完全に変わる。
戦意じゃない。
本能的恐怖。
騎士「……あれ、は……」
騎士「魔族……じゃない……」
違う。
あれはもっと別の存在。
“生き物”という枠ですら曖昧だ。
《上位存在反応》
《危険度:測定不能》
《直視非推奨》
直視非推奨ってなんだよ。
思わず笑いそうになる。
だが、本当に危険だった。
見ているだけで頭が軋む。
形が安定しない。
人型に見えた次の瞬間、巨大な獣に見え、さらに次には“空間の裂け目”そのものへ変わる。
認識が固定できない。
ゼクト「……最悪だな」
ゼクトが珍しく低い声を出した。
余裕が消えている。
それだけで異常さがわかる。
湊「知ってるのか、アレ」
ゼクト「“外側”の連中だ」
湊「外側……」
ゼクト「深層よりさらに外」
短く答える。
その間にも、“それ”は降りてくる。
世界そのものが拒絶反応を起こしていた。
空間が悲鳴みたいに歪む。
石畳が浮き、空中で崩壊する。
騎士たちの結界が次々と砕けていく。
ガルディア「結界維持!!維持しろ!!」
騎士「む、無理です!!」
バキィン!!
結界崩壊。
衝撃で騎士たちが吹き飛ぶ。
リリアナ「そんな……」
彼女の顔も青い。
だが。
その胸元の紋章だけは、強く光り続けている。
《封印鍵反応上昇》
また意味不明な表示。
だが、あの存在は明らかにリリアナを狙っている。
そして。
俺も。
???「観測者」
空から声が響く。
耳じゃない。
世界全体に直接書き込まれるみたいな声。
???「未成熟」
???「だが危険」
降りてくる“何か”が、こちらを見下ろしている。
顔はない。
なのに“見られている”感覚だけは強烈だった。
その瞬間。
《権能解放条件を満たしました》
視界が真っ白になる。
頭の奥で、鍵が開くような感覚。
次の瞬間。
《権能:《断界》を取得》
湊「……は?」
知らない言葉。
なのに意味だけは理解できる。
“境界を断つ力”。
その瞬間。
空から降りてくる存在が、初めて動きを止めた。
???「……権能?」
空気が変わる。
ざわついた。
“上位存在”が。
ゼクト「おいおいおい」
ゼクトが本気で引いた顔をする。
ゼクト「マジで取ったのかよ」
湊「いや、俺も意味わかってねぇ」
ゼクト「普通は百年単位だぞ」
百年?
聞き返す余裕はなかった。
なぜなら。
頭の中に、“使い方”が流れ込んできたからだ。
《断界》
・接続の切断
・空間境界の分離
・高次干渉の拒絶
――つまり。
“繋がり”を断つ。
その時。
黒い目が叫ぶ。
???「殺せ」
空の存在が動いた。
一瞬。
本当に“一瞬”だった。
だが、その瞬間だけで理解できる。
来る。
世界そのものを押し潰すレベルの何かが。
リリアナ「神代!!」
彼女が叫ぶ。
騎士たちはもう動けない。
ゼクトすら構えを崩していない。
全員、“対応不能”と理解している。
だから。
俺だけが前へ出た。
湊「……断て」
言葉と同時に、世界が静まる。
黒い線が見えた。
空の存在と、この世界を繋ぐ“接続”。
俺はそれへ手を伸ばす。
触れた瞬間、理解した。
これは本来、人間が触れていいものじゃない。
世界の境界線そのもの。
だが。
もう遅い。
湊「切断」
パキン。
小さな音。
次の瞬間。
空が“閉じた”。
黒い輪が消滅する。
降りてきていた存在が、世界から弾き出される。
???「――――ッ!?」
初めて、“悲鳴”が響いた。
そして。
世界が静寂に包まれる。
誰も動けない。
騎士も。
王も。
ガルディアも。
ゼクトですら、数秒固まっていた。
ゼクト「……は?」
呆然と呟く。
ゼクト「お前、今……」
俺は答えなかった。
答えられなかった。
なぜなら。
右目から、血が流れていたからだ。
リリアナ「神代!?」
視界が揺れる。
《権能使用反動》
《認識崩壊進行率:3%》
……たった一回でこれか。
笑えない。
だが、その時。
俺の耳元で、誰かの声がした。
???「――やっと見つけた」
知らない女の声。
でも。
なぜか背筋が凍った。
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