フォレストコイン
視界が歪む。拍手が止まない。社長の笑顔が増殖している。
「私は成功している」
壇上。客席。通路。すべてに同じ顔。同じ声。同じ笑み。
「……ほんと、気持ち悪ぃな」
アウロはゆっくり息を吐く。
『対象意識、完全分散状態です』
「だろうな。核がねえってことは――」
拳を軽く鳴らす。
「全部壊すしかねえってことか」
床が波打つ。社員たちの影が伸びる。
「社長は正しい」
「社長は成功している」
影が形を持つ。人型。無数。
「数で来るか」
アウロは踏み込む。一歩。床が沈む。影が一斉に飛びかかる。右拳。一体を粉砕。返す左。二体目。だが、砕けた影は床へ溶ける。次の瞬間、別の席から同じ顔が立ち上がる。
「社長は失敗しない」
「……無限湧きね。女の子ならいいのにな。」
『構造再生成を確認。中心核は対象の意思そのものです』
「つまり――」
アウロは跳ぶ。壇上へ。社長が手を広げる。
「なぜ邪魔をする」
「邪魔?」
拳を振り下ろす。直撃。社長の体が砕ける。だが、客席中央に同じ男が立っている。
「私は成功している」
アウロは舌打ちする。
「めんどくせえな」
「失敗は存在しない」
「私は正しい選択をした」
「私は必要とされている」
その言葉に、わずかな歪み。アウロは気づく。
「……必要と“されたかった”んだろ」
一瞬、拍手が乱れる。照明が揺れる。
「違う」
社長の声が低くなる。
「私は成功している」
胸元の光が強く脈打つ。
『ジョブ生成率、九十パーセント』
「リンちゃん」
『はい』
「あと少しで、完成だよ。帰ったら褒めてね。」
『……』
「つれないねぇ」
アウロは肩を回す。
「じゃあ、その前に終わらせる」
社長たちが叫ぶ。
「私は正しい!」
「私は成功している!」
「私は失敗していない!」
空間が歪む。天井がひび割れる。社長の一人が手を振り下ろす。空間ごと圧し潰すような一撃。
「――っ」
アウロは受ける。床が砕ける。骨が軋む。
『アウロ、ダメージ増加』
「……七層、なめてたわ」
血を吐く。だが、笑う。
「いいね、やっと“殴り合い”だ」
社長が迫る。今度は逃げない。アウロは拳を構える。
「ロールスキル――」
「……いや」
小さく息を吐く。
「今回は、こっちだな」
右手のコインに光が宿る。
『アウロ、それは――』
「わかってる。まだ早いのはな」
握り込む。
「でもまあ、早く帰らないと、残業申請出さないといけなくなるしな」
『事後申請はNGですよ』
「世知辛いね」
社長が叫ぶ。
「私は――」
その言葉を遮るように、アウロは踏み込む。
「フォレストコイン」
空気が軋む。世界が一瞬、止まる。
コインが低く鳴る。
「解放」
次の瞬間――
拍手が、消えた。




