現実で使え
拍手が消えた。照明が落ちる。空間が静止する。社長の笑顔が止まる。
「……なんだ、これは」
客席が消えていく。壇上が崩れる。成功の演出が、音もなく剥がれ落ちる。
残ったのは、暗い部屋。散らかった机。割れたスマホ。止まった時計。
そして、一人の男。
「……戻した」
アウロが肩を回す。
『フォレスト侵食成功。対象意識の単一化を確認』
「だろうな」
社長は周囲を見回す。
「違う……これは……」
足元に転がる書類。“倒産通知”。
机の上、写真立て。裏返されている。
「やめろ……」
声が震える。
アウロはゆっくり歩く。
「ここが現実だ」
「違う!」
「私は成功している!」
拳が振るわれる。鈍い。
アウロは避けない。受ける。
「軽いな」
一歩踏み込む。腹へ一発。
社長の体が折れる。
「夢の中じゃ最強でもよ」
「現実じゃ、こんなもんだ」
膝をつく社長。
「……違う……私は……」
言葉が続かない。
アウロは写真立てを拾う。裏返す。家族写真。
社長の肩が震える。
「……これも、捨てたのか」
「……やめろ」
小さな声。
アウロはしゃがむ。
「なあ」
「まだ間に合うぞ」
社長が顔を上げる。
「……は?」
「失敗しても、生きてる」
「やり直せる」
沈黙。
その瞬間。
社長の胸元が、淡く光る。
『ジョブコイン生成反応、確認』
「……出たか」
光は小さく、不安定に揺れる。
社長の目に涙が浮かぶ。
「……いやだ」
「戻りたくない」
光が強くなる。
「失敗したままなんて、終われるか……!」
アウロは立ち上がる。
「いいね」
拳を握る。
「その意地があるなら」
「現実で使え」




