階層
帰還直後の医療ブース。
アウロはベッドに寝転がったまま天井を見ていた。
「二十九発だぞ。ボーナス出ないの?」
『公務員に歩合制はありません』
「夢がねえな国家機関」
ガラス越しにりんが端末を叩く。
『レヴァンが呼んでいます』
「ほら来た」
「次の任務だ」
レヴァンの執務室。 壁一面のモニターに層構造図が浮かぶ。
「おいおい、ねぎらいもないのかよ、ダディ」
「その呼び方をやめろ」
「第一階層、救出成功。ロールコイン一割解放」
「二割いけた」
「不要だ」
レヴァンは書類から目を上げない。
「第一層は浅層。記憶の残滓だ」
モニターが切り替わる。
十段の構造図。
「フォレストは十層構造」
「第一層は後悔や未練」
「若年層ほど深く沈む」
「知ってるよ。で、深層は年齢関係なく夢を選んだやつが行く場所、だろ?」
「そうだ。夢の住人だ」
「ファンシーだな」
アウロはタバコをくわえる。
「ここは禁煙だ」
「ちょっとくらい――」
「規律が乱れる」
仏頂面のレヴァン。
アウロは渋々しまう。
「続けろよ」
「現在、フォレスト感染者は三万を超える」
地図に赤い点が増える。
「自然発生だけではない可能性も出てきた」
「ばらまいてるやつがいるって?」
「確証はない」
わずかな沈黙。
「だが、動きはある」
「面倒くせえな」
「だからVIGILがいる」
「で、詳細は」
「第七層」
アウロの動きが止まる。
「対象は四十二歳。沈下速度が異常だ」
「……七層か帰還率三割だな。」
「第七層は“理想の固定”」
「本人にとって都合のいい世界が完成する」
「だから帰りづらくなる」
アウロは鼻で笑う。
「幸せな地獄ってわけだ」
「そうだ」
「それと」
レヴァンが画面を拡大する。夢の内部映像。
「未登録ジョブ反応を確認」
「ジョブコインか」
「回収できれば戦力だ。回収をしてきてくれ」
アウロは立ち上がる。
「三枚で足りるかね」
「拳闘士。カウンター」
「スペシャルは?」
「任せる」
「優しいな」
「無駄撃ちはするな」
「了解、パパ」
「やめろ」
アウロがドアへ向かう。
「それと」
レヴァンの声が少し低くなる。
「アカネは、特に変化はない」
空気が止まる。
「……そりゃ良かった」
沈黙。
「……勝手に行くな。私は許可しない」
アウロは振り返らない。
「わかってる」
「俺は命令違反しねえ」
少しだけ間を置く。
「今はな」
廊下。
窓の外は夜明け前。
自販機でコーヒーを買う。
「七層ね」
グローブを手のひらで転がす。
「幸せなやつほど面倒くせえ」
歩き出す。
静かな病室。
眠ったままの女性。
アウロは椅子に腰を下ろす。
「今日は浅層だった」
返事はない。
「七層だってよ」
手を握る。
「まだ迎えに行けねえ」
少し笑う。
「もう少しだけ夢を見ててくれ」
窓の外。
空が白み始める。
「迎えに行くまで」




