■ 7
国王居住区は、国王とその家族が住むプライベート空間である。許可のある者しか立ち入りできない、警備が最も厳しいエリアの一つだ。
国王が独身で竜族である彼の両親は竜の谷にいるため、現時点で住んでいるのはジル一人である。
大きな天蓋付きベッド、ふかふかなソファ、食事ができそうなテーブルなど、生活に必要な家具が一とおり揃えられた豪奢な部屋に入ると、ジルはリンリンをソファに下ろした。
「怖がらせて悪かった」
隣に腰かけたジルは、リンリンの頭をなで謝罪する。
リンリンは真っ赤になりながら、コクコクと頷くことしかできない。
何せ男性に頭をなでられるのも、抱き上げられるのも人生で初めてなのだ。
びっくりするやら恥ずかしいやら、ずっと心臓のドキドキが止まらなかった。
「『番』を気遣えないなんて、私は愚かだな。レベッカの言うとおりだ。しばらくは王宮の生活に慣れることを優先しよう。それではリンリン……ああ、名前まで可愛いな……リンリン、リンリ……」
「陛下、気を確かに!」
名前で念仏を唱えそうになったジルを、すかさずレベッカが阻止する。
(竜人って、『番』の名前を連呼する癖でもあるのかしらん?)
リンリンの頭に素朴な疑問が浮かぶが、誰かに聞ける雰囲気でもない。
「スケジュールが押しています。そろそろ公務にお戻りください」
貴賓に迷惑をかけると淡々と告げられ、ジルは名残惜しそうにリンリンの手にチュッとキスを落とした。
「それではリンリン、ゆっくりしていてくれ」と言い残して、護衛のため部屋の外で待機していたアーサーを伴い出て行った。
扉が閉まった直後……。
「はぁ~」
レベッカは大きなため息を吐き、リンリンは脱力した。
(キ、キスされた! て、手にチュッて……!)
もはや脳の処理能力が限界を超え、思考が完全に停止している。
「あー、見てるこっちが恥ずかしい。でも『番』に対する男の態度なんて、どの種族も大なり小なりあんな感じだから……」
これがその日、リンリンが覚えているレベッカの最後の言葉である。
いつの間にかソファに身を沈め、意識を手放していたからだ。
「少しだけ王宮の説明をして、私は業務に戻……あら? リンリンさん?」
リンリンがスースーと寝息を立てているのに気づき、レベッカは綿毛布をかける。
「ごめんなさいね。本当はここまで厳重にする必要はないの。竜人の、しかも国王の『番』を害そうなんて、余程のバカか命知らずだけだもの。でも、あなたをここに引き留めておかないと、陛下が使いものにならなくなっちゃうから、ね」
レベッカの謝罪は、リンリンの耳には届かない。
やがてパタンと扉の閉まる音がして、部屋は静けさに包まれた。




