【番外編】補佐官レベッカの恋 6
たっぷり十日間も陛下を焦らして茶番を楽しみ、王宮の温室の花がすっからかんになった頃にリンリンさんは帰ってきた。ミンミンちゃんが少しゲッソリしていたので、どうやら魔女教育で厳しく鍛えられたようだ。
私はミンミンちゃんを労わり、キャンディを手渡す。
「違うよー。ママンが薬草を散らかすから、ミンミン、掃除が大変だったの。いつもはパパンがあっという間に片づけてくれるの。もー、疲れちゃった」
コロンと飴玉を口の中で転がしながら、ミンミンちゃんはヒソヒソと私に耳打ちする。そして、大変だったけど薬は上手に作れるようになったと、次代の癒しの魔女は頼もしそうに胸を張った。
陛下がリンリンさんにベッタリと抱きついて離れようとしないので、私は彼らの後ろをミンミンちゃんと一緒に歩きながら、王の居住区へと向かっている。
リンリンさんは、スンスンと自分の匂いを嗅ぎ幸せを噛みしめる陛下を見て「変態……」と呟いているが、まんざらでもなさそうだ。
ああ、やっと元どおりだ! 身内のしでかした不始末だから致し方ないとはいえ、疲れたわ。
明日から、ちょっとは楽できるかしら?
私は、肩の荷が下りたような晴れ晴れとした気分になった。
私たちが国王居住区の入口に差しかかると、王の代理として陛下のフォローをしていたイーサンと出くわした。
彼は昨日までこの居住区で寝泊りしていて、ちょうど私物を持って引き払うところだったようだ。
「イーサン、迷惑をかけたな」
陛下が笑顔で声をかけた。
イーサンは、それには答えずに顔を真っ赤にして荷物を落としてしまった。ガラガラと何かが壊れた音がするが、気にも留めずに一目散にこちらに近づいてくる。
「お嬢ちゃん! お名前は?」
イーサンは私の隣のミンミンちゃんに跪き、その手を取った。
「わ、わたし、ミンミン。おじさんは?」
ミンミンちゃんが、イーサンの迫力に気圧されながらも気丈に答える。
竜人の九十代はまだひよっこだが、猫族の子どもから見ればおじさんに違いない。
するとイーサンは涙目で「そうか、ミンミンちゃんか。名前まで可憐だ……ミンミン、ミンミン、ミンミンミンミンミンミ…………」と名前を連呼し始めてしまった。まるで蝉だ。
「ちょっと! どうしたんですか、将軍!」
私はデジャブを感じながら、すぐに止めに入る。もう嫌だ、この展開。
陛下とリンリンさんは、あんぐりと口を開けて固まっている。
イーサンはハッとして我に返ると、コホンと咳払いをしてからミンミンちゃんを見つめた。
「おじさんは……いや、私はこの国の将軍を務めるイーサン・ブランジェと申します。ミンミン嬢、あなたは私の『番』です。どうか私に、あなたの人生と共に歩む栄誉と権利をいただけませんか?」
「えいよ? えいよが欲しいの? ミンミン、あげてもいいよ?」
ミンミンちゃんはキョトンとしながら、とんちんかんな返事をする。
これは絶対に何も理解していないってば!
「ちょっとイーサン! 子どもに栄誉なんて言ってもわかるわけないでしょ」
私が割って入ると、彼は言い直す。それはプロポーズと言うより哀願に近かった。
「お願いです、なんでもします。おじさんと将来、結婚してくださいっ! あなたがいないと生きていけないんですっ」
いい大人が泣きそうな顔で、子どもに縋りついている。
「なんでも?」
ミンミンちゃんの耳がぴょこんと反応する。
「あなたのためなら、なんでも」
ミンミンちゃんは少し考えてから、にんまりと笑う。
「ミンミンねぇ、王都で人気のタルトタタンが毎日食べたぁ~い」
「それぐらいお安い御用です」
「それとねぇ、栗ヨウカンも」
「仰せのままに、愛しい人」
「あとねぇ」
ミンミンちゃんの欲望、いや、食欲はまだまだ尽きないようだ。しかし、彼女は意外なことを口にした。
「ミンミンね、強いひとの奥さんになりたいのね。ママンがね、強いひとと結婚しなさいって言うの。おじさん、強い?」
それを聞いた将軍イーサンは、キリリとしたいつもの勇壮な顔に戻る。深碧の瞳がメラッと燃え、雄志が宿った。
「では、このイーサン。次の武闘大会で優勝し、必ずやこの国最強の名をあなたに捧げてみせよう」
うわっ、言った! この男、次期国王になるつもりだ。まあ、この国最強、すなわち世界最強だもんね。強さを証明するには手っ取り早い。
ミンミンちゃんは、よくわかっていないような表情だったが、イーサンの決意に満ちた迫力に納得したのかコクンと頷いた。
「あー、うん。じゃあ、いいよ?」
次の瞬間、イーサンは、顔と耳はおろか指の先まで真っ赤になった。




