エピローグ
リンリンは、今日も薬草をクツクツと煮ている。
「あなたは私の『番』です」
そう言われて連れてこられた。
リンリンは、一般市民である。
本来ならば王宮なんて、一生足を踏み入れるはずのない無縁の場所だ。
しかし今、その王宮の片隅で魔女の秘薬を作っている。
それは、愛と癒しの女神マハマーティと契約した魔女――癒しの魔女にしか作れない、どんな病も癒す薬だ。
若き黒猫獣人の魔女は、この国の王と結婚をした。
二人はいつも一緒だ。
黒竜の竜人である王は、愛する「番」と離れない。
リンリンが煮立つ鍋をゆっくりとかき混ぜている間、ジルは白いエプロン姿でせっせと後片づけをしている。
彼女は、手先が不器用な娘に育った。
薬草を切り刻めば大きさは揃っていないし、辺り一面に散らばってしっちゃかめっちゃかだ。
以前は後片づけに悪戦苦闘していたが、なんでも巧みにこなすジルのお陰で無駄な作業に悩まされることがなくなった。
集中力が増して、一度に作れる秘薬が五本から六本に増えた。
「…………コロ フル コロフル コロコロコロ………………」
リンリンがまじないの言葉を紡ぎ始めると、ペリドットの瞳は緋色に変わる。
薬湯に赤い光が降り注ぎ、匙をかき混ぜて生じた渦の中に吸い込まれていった。
「……古の契約にしたがい 我にその力 与えたまえ……パドゥ マハマーティ………」
しばらくして緋色の瞳が緑に戻った。
リンリンのドッと疲れた身体をジルが受け止める。
癒しの魔術は消耗が激しい。
ジルは心配そうに、でも愛おしそうに「番」を抱き上げてベッドへ運んでいった。
すやすや眠るリンリンの頬に優しく口づけ、艶やかな黒髪をなでる。
二人はこうして長い年月を共に歩む。
その後、ジルは二十年間この国の王であり続け、リンリンも魔女の万能薬を作り続けた。
二人は、可愛い黒猫獣人の娘と凛々しい黒竜の竜人の息子に恵まれ、幸せに暮らしたのだった。




