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それから半年。夏が過ぎ、実りの秋がやってきた。
王宮の庭にはコスモスが咲いている。
リンリンの最近のお気に入りは栗である。
焼き栗はもちろん、モンブラン、マロングラッセ、栗ごはん、東国の巫女姫からは栗入りのどら焼きが贈られてきた。
――これからはもっと、たくさん楽しいことをしよう。
ジルの言葉どおり、リンリンのこの夏は最高に楽しかった。
生まれて初めて海へ行き、沈む夕日に感動した。プールで泳ぎも覚えた。カキ氷の食べすぎでお腹も壊した。
義務教育を終えていなかったので、リンリンは王宮で家庭教師に勉強を教えてもらうようになった。
「コンニチワ ヨウカン ダイフク スシ マグロ アリガト」
東国の言葉も少し話せるようになった。いずれ、かの国を訪れたいと考えているので、授業にも自然と熱が入る。
ダンスの授業もある。パートナーはジルだ。いくら講師でもジル以外の男性をパートナーにする許可が下りなかったため、習う時間は少ないが、猫族は身のこなしが軽いので上達は早い。この調子だと舞踏会デビューはもうすぐかもしれない。
リンリンは王宮に来てから、たくさんの「初めて」を経験した。
あれからスピレル国では、ほどなくして王太子妃が元気な男の子を出産。それと時を同じくして、ゴタゴタ続きだった王家を一新させようと決意したオズワルドが譲位を発表した。
国内はお祝いムードに包まれ、新国王であるルネからいくつかの恩赦が与えられた。
その中にはレナード王子の名もある。母親の死による精神的ショックで療養中だった王子の回復が発表されたのだ。王位継承権は剥奪されたままであるが、成人になったら爵位を拝する予定である。それまでは勉強のため、帝国へ留学中だ。
セレーナは、聖教会の聖道女のもとにいる。しばらく奉仕活動に従事したいという本人の希望だ。奇しくも祖母と孫が巡り合ったわけだが、聖道女とマーガレットの面差しが似ているらしいので、もしかしたら何か感じるものがあるかもしれない。
その聖道女は今期での引退を表明している。高齢のため、後進に託したいとのことだ。
兄のルカは、落ち着いた頃に王都へ戻ってきた。ニャンコ好きのクレア姉さんとの結婚は本当で、たくさんの土産を手に帰ってきたときには、既に身重であった。来年には子どもが産まれる予定だ。
ルカはそれを機に危険な仕事から足を洗うつもりのようだ。
ジルの計らいで、魔女の万能薬は王宮預かりになった。今後は聖教会に渡すもの以外は、王宮より直接、医療機関に届けられる。
国に保護されていたローザだが、結局帰ってこなかった。
彼女は、薬草オタクなのだ。
だからこそ、今までどんな目に遭ってもブレることなく、秘薬を作り続けられたとも言える。
薬学研究所で「竜殺しの毒」の解毒薬の開発に携わることになり、職員たちと馬が合ったらしい。
「これこそ我がライフワーク! 残りの人生を捧げるわ」と闘志を燃やす。
つまり、娘は放置されているわけである。
(ま、いっか)
リンリンだってもう大人だ。会えないのは寂しいが、本人が楽しいのが一番だと思っている。
そして、今日はリンリンとジルの結婚式だ。
国王の結婚式とあって、国中が祝賀ムード一色だ。
「番」を隠したがる竜人の、しかも国王の挙式は例がない。
リンリンは純白のドレスに身を包み、ジルと共に神の御前へしずしずと歩いていく。
二人きりの式は、厳かな雰囲気に包まれていた。
女神マハマーティに愛を誓い、口づけを交わす。
竜人のみが持つ逆鱗の秘術で、花嫁は夫と同じ寿命を得た。
一連の結婚の儀が終わると、リンリンは感極まって涙ぐむ。
そんな最愛にして唯一を愛おしそうに見つめる琥珀色の瞳もまた、欣幸の涙に潤んでいた。
祝賀パレードは、式の厳粛さから一転して大いに盛り上がった。
滅多に姿を見せない竜人の「番」を一目見ようと、メイン通りは民衆でごった返し、パレードが見える通り沿いのレストランは軒並み予約で埋まったという。
なぜこんなことになったのかといえば、ジルに後悔していることはないかと尋ねられ、リンリンが「そういえば優勝パレード、見えなかったのよね」と答えたのが発端である。
楽しみにしていたパレードがほとんど見れなかったことと、王宮に来るとき吹っ飛んだ「一日限定八十個のタルトタタン」はリンリンの心残りであった。
それを聞いた補佐官レベッカが「パレードやっちゃいましょう」と発案したのだ。
彼女は、かつて国王が途中でパレードをすっぽかした黒歴史を忘れていなかった。
楽しみに集まっていた民衆の不完全燃焼をここで払拭したい思惑があり、なん何のかんのとやっているうちに、リンリンは見る側ではなく見られる側としてパレードに参加することになってしまったのだった。
竜人は「番」に甘い。パレードが見たいと言われれば、やらざるを得ないのが彼らの性分だ。
国王を決める武闘会の優勝パレードと同じように、鼓笛隊の先導で国王夫妻を乗せた車は進む。
キャァァァァ~!
ウォーォー!
タッタカ タン♪ ズンチャカ ズンチャカ ズン ズン♪ ドーン♪
リンリンとジルは車上から手を振り、歓声に応えていた。
(あっ、ミーナちゃんだわ!)
友人ミーナは、通り沿いのレストラン二階のテラス席でパレードを観覧している。親友のために手配した特等席だ。
リンリンが大きく手を振ると、ミーナも笑顔で手を振っている。
隣にいるのは犬族らしき白い耳をした誠実そうな男性だ。彼女も自分の唯一を見つけたようだ。
ズンチャカ チャ♪ ズンチャカ チャ♪ ズンチャカ ズンチャカ♪♪
タッタカ タン♪ タン タン タン♪
ピッ ピッ ピィ~♪
空一面に紙吹雪が舞っている。
ジルは秋風からリンリンをかばうように後ろに立つと、白い紙の欠片を一つずつ長い髪から取り除いた。
「リンリンのことは私が守るよ」
耳元でジルが囁く。
リンリンもジルの肩に積もった紙雪を優しく手で払い、同じ愛の言葉を返す。
「ジルのことは私が守るわ」
琥珀色の瞳が揺れ、花嫁に惜しみないキスを贈る。
キャァァァァ~!
ヒュー ヒュー!
民衆の歓声がひと際高くなった。




