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リンリンが暮らすこのシベンナ王国は、竜族が治める獣人の国である。
強者に従うことは獣の血を持つ者の性であり、そのヒエラルキーのトップに君臨するのは、なんといっても竜族だ。
どの種族よりも長寿で強靭な肉体を持ち、知能が高いからである。そのうえ毒耐久があり、竜化したときの鱗は刃で貫けないほど硬く、魔術が使える。竜人の中には、天候を操る者さえいるという。まさに規格外だ。
獣人の国は、ほかにも狼族が中心のラウル国と獅子族が王のバレン王国があり、移民の多いシベンナ王国は、さまざまな種族が暮らす大国家である。
自由気ままな猫族、無節操なネズミ族、気弱なウサギ族、真面目で賢い馬族、のんびりマイペースな羊族、等々。
気質も寿命も婚姻の風習も異なる多種多様な……身も蓋もない言い方をすれば、しっちゃかめっちゃかなこの国を束ねるには、やはり絶対的強者が必要だ。
というわけで、十年に一度、国王を決める武闘大会が開催される。
この国は実力主義であり、王家や貴族といった世襲による身分制度は存在しない。国王以外は、皆平民。よって、国王も平民から選出され、要職には、その適性に応じた優秀な者が登用される。
武闘大会の準優勝者は将軍に、頭脳明晰なら宰相や大臣職、専門分野があるなら研究職といった具合だ。やる気と能力次第で、誰にでもチャンスがある国なのだ。
今年はその開催年にあたり、先日、現国王が防衛戦に勝利して、王位続投が決まったばかりである。
祝賀行事は諸外国の貴賓を招いて盛大に執り行われ、優勝パレードの日は国中がお祭り騒ぎとなるのだ。
パレードの日、リンリンは早起きして、新調したばかりの若草色のワンピースに袖を通した。
普段は家にいるか、ルカの薬局に行くかという単調な生活を送っているせいか、おしゃれをするのは久しぶりだ。ついソワソワしてしまう。
一緒に屋台を見て回るのは、白ウサギの獣人ミーナである。リンリンと同じ十五歳、気軽に話せる親友だ。
年頃の娘二人、会えば自然と恋愛談議に花が咲く。
「私は生涯一人の男性と添い遂げたいなぁ」
強い男性に守られたいと語るミーナの結婚観は、自由を重んじるリンリンとは正反対である。
(うんうん。ミーナちゃんらしいよね)
屋台で買ったリンゴジュースをきゅっと唇をすぼめて飲む仕草、恥ずかしそうにモジモジ動かす指、少しタレ目な幼い顔、すべてが可愛らしいとリンリンは思う。自分が守ってあげたいくらいだ。
「強いといえば、竜族と狼族、あとはクマ族、獅子族かしら?」
思いつくまま挙げてみる。
「う~ん。あの人たちは『番』にしか興味がないから。獅子族は一夫多妻制だしね」
「つがい?」
「彼らの伴侶は一生のうちでたった一人だけ。本能で引き寄せられる、運命の相手なんだって。一目会っただけで『この人だ!』ってわかるらしいわ。『番』は生涯、とーっても大切にされるって話よ」
ロマンチックよね~と、ミーナはうっとり頬を染める。
一方、リンリンはすぐさま彼らを結婚相手候補から除外した。
(『つがい』かぁ~。すぐに出会える確率が低いし、こっちからアピールするだけ時間の無駄よね。それと獅子族みたいな一夫多妻制は都合が悪いわ)
やっぱり無難に同族がいいのかしら、と悩み始める。しかし、基本的に猫族は気まぐれなので、できればもう少し誠意のある殿方を希望したい。
「それなりに強くて忠実なのは、やっぱり犬族かな」
(犬族!)
リンリンは忘れないように、しっかりと頭に刻みつけた。
今日はさっそく白い犬の獣人さんを探してみることにしよう。
「リンリンはどんな人がいいの?」
「私は白い耳としっぽの可愛い子どもが産みたいから、一夫多妻制じゃない種族の白い耳としっぽの人と結婚するつもりよ」
「えっ、もう子ども!? 恋愛に興味はないの? す、好きな人とかは?」
ミーナが目を丸くする。
リンリンはこてんと首を傾げた。
「恋はしたことないからよくわからないの。母親は二回も恋愛結婚して、両方ともすぐ離婚したし。私を産んだときは結婚前に別れちゃったみたいで、父親が誰かも知らないわ。だから恋愛にあんまり夢がないっていうか……それよりも子どもが欲しいの。結婚してちゃんとした家庭で子どもを育てたいのよ」
「リンリン……ずっと寂しい思いをしてきたのね」
ミーナは同情したようにしんみりとするが、リンリンは寂しさから「ちゃんとした家庭」を築きたいわけではない。
(お料理ができないから、離乳食は夫に作ってもらわないとダメね。洗濯も掃除も、きっと一人じゃこなせないわ。手伝って……いえ、全部やってもらわなければ、私に子育てはムリよね!)
これがぐうたらリンリンの本音であり、ルカに生活態度を指摘されて出した結論だ。
家事と子育てを押しつけるためには、誠実で責任感のある男性が理想である。よって、一夫多妻制の種族や気まぐれな猫族は対象外なのだ。
リンリンは、親友の勘違いに気づいてはいたが、あえて正すのをやめた。
世の中には、言葉にしないほうがいいこともある。
リンリンとミーナは、出店でアクセサリーを見たり、屋台でホットドックを食べたり、焼き菓子を買いながらあてどなく歩き、やがて噴水広場にたどり着いた。
至るところで大道芸人や踊り子たちがストリートパフォーマンスを披露し、たくさんの人で賑わっている。
(犬の獣人さん……なかなかいないわね)
リンリンは歩きながら、さりげなく広場に集う人々の「耳」をチェックするのを忘れない。
しっぽやほかの部分は服に隠れて見えない場合があるので、外見から獣人の種族と色柄を見分けるには、耳を確認するのが一番なのだ。
そのうちに噴水脇のベンチに座る憧れのリリアナの姿を見つけ、リンリンの目が輝いた。
(キャー! リリアナ嬢だわ。いつ見ても美人ね!)
大きな商家の娘のリリアナは、白猫の獣人で猫族の憧れの的である。
白いフサフサの耳、ウェーブがかったプラチナブロンドの髪、サファイヤの瞳、色白の肌に映えるバラ色の頬、優しい微笑みは聖母のようだ。
隙あらば彼女とお近づきになろうと青年たちが群がっている。日焼けしないように日傘を差しかける者、飲み物を差し出す者、荷物持ちをする者といろいろだ。
リリアナの美貌は、リンリンの理想そのものだ。
(ああっ、あんな娘が欲しいわ! やっぱり白よっ。私、絶対に白猫ちゃんを産んでみせるわ!)
そう決意を新たにするのであった。




