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【電子書籍化】黒猫魔女リンリンの結婚 ~白猫に憧れる黒猫魔女は竜王さまに愛されてます (再掲)  作者: ぷよ猫


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19/54

■ 18

 リンリンが白猫にこだわる理由は「猫族の憧れの的であるリリアナ嬢への羨望」という個人的な好みの問題もあるが、人種差別ならぬ猫種差別が根底にある。

 人間の世界では「黒猫は不吉」という迷信があるらしく、ものを投げられたり、水をかけられそうになったことが何度もあるのだ。

 さらに黒猫は、魔女の使い魔というイメージもある。

 魔女といえば姫を呪ったり、毒リンゴを作ったり、物語の中ではいつだって悪役だ。

 リンリンも獣化せず普通に獣人のまま過ごすのであれば、酷い扱いを受けることはない。

 だが、黒猫姿で外を闊歩(かっぽ)するのはリンリンの生活の一部なので、猫種差別は他人事ではないのだ。

 その点、白猫はよい。小説の中の高貴な主人公のペットは、決まって毛足の長い白猫だったりする。

 猫ではなくて、白い犬だったり、白馬だったりすることもあるけれど、共通するのは白い毛が皆から愛され大切にされているということだ。

 ただ白いというだけで愛され、ただ黒いというだけで嫌われる。


(ほーんと、やってられないわぁ~)


 さっきも、国賓として王宮に滞在中の貴族らしき令嬢たちが南のガゼボで茶会をしている場面に出くわし、お茶をかけられてしまった。よけ損ねてしっぽの先が濡れている。せっかくいい気分で散歩していたのに台無しである。

「ひっ」と、その人間の令嬢はリンリンを見るなり、咄嗟に手に持っていたカップを振りかぶったのだ。


「まあっ、大丈夫ですの? お顔が真っ青ですわ」


 口々にその場にいた令嬢たちが、お茶をかけた令嬢を気遣う。

「大丈夫じゃないのはこっちだ!」とリンリンは声を大にして言いたい。

 しかし、このような人間ばかりではなく、黒猫にも親切な真のニャンコ好きに出会うこともある。


「どうなさったの?」


 鈴を転がすような声がしたかと思えば、不意に黒猫をかばうように前に立つ人影があった。

 その声の主はパニエで広がったドレスの裾をフワリと持ち上げ、中にリンリンを隠したのだ。

 視界がふさがれ声の主の細い足しか目に映らないが、ドレスの外側では、皆が立ち上がり礼をとる衣擦れの音がする。どうやら、声の主の身分は相当高いようだ。


「セレーナ様。大したことではございませんわ」


「そう? ならばよいのだけれど」


「どうぞこちらへ。ただいまお茶をお持ちしますわ」


 乱れたテーブルを整えようとしているのか、キビキビと動く侍女らしき人の気配を感じるがすぐに止まる。声の主が何か合図をしたようだ。


「ちょうど東国の巫女姫様から『モナカ』というお菓子をいただきましたの。それに合う緑のお茶もございますのよ。用意させますから、今からわたくしの部屋へいらっしゃいませんこと?」


「まあ! セレーナ様のお部屋へ?」


 令嬢たちから歓喜の声が上がる。声の主に招待されることは、彼女たちにとって名誉なことであるらしい。

 そのうちゾロゾロとガゼボから出て行く足音がして、フワリとドレスの裾が持ち上がると、セレーナ様と呼ばれた声の主はゆっくりと歩いていった。

 リンリンには彼女の横顔しか見えなかったが、腰まで伸ばした豊かな金髪、青い瞳、小柄ながら背筋を伸ばして扇を手にする優雅な所作は、物語に登場する姫さながらであった。


(いい人だったなぁ)


 彼女がスピレル国の王女セレーナであることは、すぐにわかった。

 今年二十歳になったが、まだ独身で婚約者もなく、王女としてはめずらしいとジルから聞いたばかりだ。

 かの国の結婚適齢期は十八から二十歳。個人の感情よりも家門の繁栄を重要視する貴族の間では、幼少から婚約者がいることも普通にある。

 ましてや王女ともなれば、政略の駒として他国か有力貴族へ嫁ぐことが常識であるとも言える。

 しかし、スピレル国はずっと国内が落ち着かなかったこともあり、王女の縁談にまで手が回らなかった。

 今回、各国の要人が集まるこの祝賀行事で、国益になるような結婚相手を探す意向なのだろうと、ジルは推察しているようだ。


(そういえば、ジルにも縁談の打診があったって言ってたっけ)


 先日のジルとロロの会話が頭に浮かぶ。

 この国には王妃もいないし、王の世襲もない。お互いに利はないのだ、と。


 その夜、愛しの「番」の身体(しっぽ)に茶をかけられたと知ったジルの額に青筋が立っていた。


「毛ほどの傷もつけさせないんじゃなかったのか?」


「面目次第もございません」


 腕が鈍ったんじゃないの? と詰られてプライドを傷つけられたロロは、耳をピクリと反応させつつも素直に謝っている。彼に表情がないのは相変わらずだ。


「ジル、ジル……そんなに怒らないで。黒猫が人にお茶をかけられるなんてよくあることよ。よけられなかったのは私なんだから」


 久しぶりに感じる竜人の威圧に慄きながら、リンリンはジルを必死に宥めた。


「そのお茶が熱湯だったら? お茶じゃなくて硫酸とか劇薬だったらどうするんだっ」


 いや、ご令嬢の皆さんはそのとき既に和気あいあいと紅茶を啜っていたから、熱湯ってことはないだろうし、カップの中身がお茶であることくらい、ロロだって遠目に確認できていたに違いない。

 しかし、結果がすべてだとジルはプンプン怒っていて、もはやお手上げである。


(はぁ~、ほーんと、やってられないわぁ~)


 リンリンは、そっとため息を吐く。


 ――竜人の「番」とはそういうものなんです。


 どこからともなく参謀マクシム・カルネの声が聞こえた気がした。



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