玄関
ここはどうやら異空間らしかった。ビッグベンはあるけれど、テムズ川のほとりには日本語で大きく書かれた「文具協会」の看板を掲げたおかしな建物だけが建っていた。
僕は後ろを振り返ったけれど、そこには砂漠もなければクローゼットもない。隣には奇妙な風貌の日系人がニヤニヤしながらこちらを見つめていた。
「もうこんなのじゃ驚かないよ。」
僕がそう言ったのは強がりにしか聞こえなかったのだろう。
「そうかい。」と言って顔を背けたものの、まだニヤニヤしているのがわかる。
とある日系人は「文具協会」の入り口に向かって歩き出したので僕も後ろをついて行く。こうなったら後戻りできない。それに定子は「通う」と言っていたのだからどの道今日中には帰れるはずだ。
そう思って僕は腹を決めて「文具協会」に入っていった。
受付には日本人と思われる美女がいて、こちらも見ずに
「先程定子から連絡があり、お待ちしておりました。」
なんて言うものだから、苦笑いするしかなかった。いつの間に連絡をとったのかはわからないが、
きっと能力に関係してるんではないだろうか。
「貴方───『シャープペンシル』と『黒鉛』は奥へ進んでください。ヒロシはここより先に立ち入る事はできません。」
「わーってるよ。」
ヒロシはブスッと答える。
「なにぼさっとしてんの。さっさといってきなよ。」
それでも僕らがぽかんとしたから
「早く行け。帰りも俺が送ってやるから安心しろ。」
別にそんな保証が欲しかったわけじゃないけれど、それでようやく僕らは奥へと続く廊下へ踏み出した。




