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魔法使いの魔法書  作者: 碧衣 奈美
第三章 竜の血

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04.期待されて

「夜に歩いてたっていうのは、たぶん帰る時のことだと思う。遅くなったから、ガイが家の前まで送ってくれたの」

「えー、竜に送ってもらったんだぁ」

 ディーナはかろうじて声のトーンを落としてくれているが、その瞳は興味津々だ。

「あの、ディーナ。本当に魔法の特訓をしてから、送ってもらっただけだからね」

「あら、つまんない」

「つまんないって……」

 ディーナの返しに、リルレイアは拍子抜けする。

「だって、数時間を二人きりですごした訳でしょ? それで何もないなんて、つまんないじゃない」

 何かあったらあったで、これまた周囲から色々と言われるのだろう。

「だけど、いいわねぇ。竜に直接魔法を教えてもらえるなんて、最高じゃない」

 最高……だろうか。確かに、憧れや尊敬の念を抱く相手から教えてもらえるのは、この上ない幸せな状況、と言えるのだろう。

 ディーナが期待したように、ずっと一緒にいればいい雰囲気になって……ということもありえる、かも知れない。

 ただ、怒鳴られることはなかったが、何度も「もう一回」と言われるのは、かなり怖かった。静かに言われると、なおさら。

「それで、特訓の成果はどうなの? できるようになった?」

「どうにか。でも、一人ではまだ試してないから、いざ使おうとしたらまた失敗するかも」

 帰ってからも、今朝セレカティアへ来るまでも、復習する時間も体力もなかった。なので、確認ができない。

「何言ってるの。夜遅くまで付き合ってくれた竜の苦労は、どうなるのよ。それで失敗してたら、俺が特訓に使った時間を返せって言われるわよ」

 ヴィズやジンならともかく、ガイなら言いそうだ。

 しかし、ディーナの言う通りでもある。

 リルレイアも疲れたが、教える方のガイだってそれなりに疲れているはずだ。それでも、彼は根気よく付き合ってくれていた。

 休憩は時々挟んだが、四時間前後はかかっているはず。

 帰り道で明日、つまり今日は「三人ともが仕事でいない」と言っていたから、ガイは今日仕事なのだ。眠くても、リルレイアのように授業中につい、という訳にはいかない。

 もっとも、リルレイア程の疲労感はないだろうが……。

「通信魔法って、水晶を使うあれ……じゃないわね。鳥とか?」

 リルレイアのレベルでは「水晶を使っての魔法は無理」とディーナも判断したのだろう。

「うん、超初心者用の魔法道具を渡されたわ」

 それがひよこなんて話したらディーナに笑われそうなので、そこは黙っておく。

 授業開始の予鈴が響いた。廊下でしゃべっていた他の生徒達も、それぞれの教室へ戻って行く。

 リルレイアとディーナも、自分達の教室へ向かった。

「ねぇ、リル。教えてくれるってことは、期待されてるんだよ。竜の期待を裏切ったら、たとえ竜が許しても、私が許さないからね」

 ディーナはウインクし、笑いながら歩いて行った。

 期待、かぁ。長らく縁のなかった言葉だけど……。でも、あたしがあの通信魔法を使いこなせなかったら、ガイが恥をかくのよね。ヴィズとジンに「ちゃんと教えなかったのか」とか何とか言われたりして。がんばらなきゃ。

☆☆☆

 家に帰ると、リルレイアは「ライオストーンの部屋にある物リスト」作成の続きをした。大まかながら、ずいぶん進んだ……ような気がする。

 これを別の人が見て、わかるかどうかは知らない。でも、前に作った「飾り物リスト」は竜達にも丁寧だとほめてもらったので、そんなにひどくはないはずだ。

 しかし、書き方をどんなに丁寧にしても、調べ方が悪くて必要な物が抜け落ちていては意味がない。

 あれこれ言い出すとキリがないのでその辺りは開き直り、リルレイアのできる範囲で少しずつリストが仕上がってきた。

 棚の何段目には何があって……ということを走り書きしたメモを見ながら、リルレイアが自分の机で書き写していた時。

「きゃっ」

 突然、ひよこがぼんやり光りながら鳴き始めた。

 不意打ちだったので、持っていたペンを思わず放り投げてしまう。幸い、清書していたリストが汚れることはなかったが、ペンは机から転がり落ちていった。

 でも、今はペンどころではない。ひよこが鳴いているのだ。対応しなければ。

「えっと、えっと……」

 誰からの連絡かはわからないが、自分がひよこに魔力を注がないと、相手も話ができないのだ。

 リルレイアは、ガイに教え込まれた呪文を思い出しながら唱えた。

「ルエアトック」

「……リルレイア?」

 ひよこが鳴くのをやめ、そのくちばしから聞き覚えのある声がした。

「……ガイ?」

 小さく丸いひよこから男性の声がするのは、ひどく違和感がある。が、そんなことなどはどうでもいい。

 ちゃんとリルレイアの魔法が作用して、通信できているのだ。

「すっごい。ガイの声が聞こえてるっ。本当にガイよね?」

 久々に自分の魔法が成功して、リルレイアは少なからず興奮していた。

 昨日も最終的にはちゃんとつながって、ガイの声も聞いているのだが、今は自分一人で、場所も違う。

 それでも、当たり前のようにちゃんとできて、リルレイアは感動していた。

「思ったより、早くつながったな。特訓の成果ありだぜ」

 顔は見えないが、その口調から彼が笑っているのがわかる。

「よかったぁ。あたし、ちゃんとできてるー」

「俺が教えたんだから、当然だ」

 その自信の半分でいいから欲しい、と心底思うリルレイア。

「いきなりひよこが鳴くから、驚いちゃったわ」

「これから鳴きますって言われても、それはそれで驚くだろ」

「まぁ、そうだけど……」

 ひよこが鳴いたことと、自分の魔法がうまくいったことで胸がどきどきしている。まともにはできなかったが、落ち着こうと何度か深呼吸した。

「あの、何かわかったこととか、あるの?」

「ん? いや、ない」

「……え」

 その返事に、ちょっと肩すかしを食らう。

 確か「何か思い付くことがあった時、リルレイアにすぐ調べてもらえるように」と、この魔法を特訓したのではなかったか。

「間があくと、忘れそうになるだろ。これは試験通信だ。リルレイアがちゃんと対応できるかを確認しておかないと、本当に連絡があった時に用をなさなかったら困るからな」

「ああ……そういうことね」

 魔法書の話とは関係なく、リルレイアの魔法が通用するかを確かめたかったのだ。やらせたからには最後まで面倒をみる、ということらしい。律儀だ。

「これで、成功したってこと?」

「ああ。リルレイアが呪文を忘れたりしなかったら、次もちゃんとできる。じゃ、一度切るから、今度はそっちから俺を呼び出してみろ」

「ええっ」

「ええ、じゃない。昨日さんざんやっただろ。呼び出しの呪文で、最後に俺の名前を入れればいいだけだ」

 そう言うと、ガイは通信を切ってしまった。

「リアウォ」

 リルレイアも一旦終了の呪文を唱え、黄色く光っていたひよこは元の置物に戻る。

「大丈夫……よね。だって、今もすぐに対応できたもん」

 昼間、ディーナに言われたことがよみがえる。


 教えてくれるってことは、期待されてるんだよ。


 期待という言葉は少し大袈裟すぎるような気もするが、これからも魔法書探しを続けるなら、必要な魔法には違いない。この魔法は、今後の行動において、絶対に必須なのだ。

 あたしが魔法書探しを言い出したんだもん、ちゃんとやらなきゃ。

 リルレイアは一つ深呼吸をして、呪文を唱える。ガイを呼び出すため、彼の名前を呪文に入れて。

「レアガヌット ガイ」

 ひよこがまた、ぼんやりと光る。練習中の時のように途中で消えることなく、淡い黄色に。その光が、はっきりした黄色になる。

「……ガイ?」

 ひよこの色を確認し、リルレイアはガイの名を呼んだ。

「聞こえるぜ、リルレイア」

 間違いなくガイの声がして、リルレイアは思わずひよこを握り締めた。

「本当っ? 本当に聞こえてる? ちゃんとつながってるのねっ!」

 叫び出さないのが、自分でも不思議なくらいだ。興奮しすぎて、逆に声が出ないのかも知れない。

「よかったぁ。通じてるのね」

「ああ。これで、受ける方も送る方もいけるな」

「うん……うん……。ガイ、ありがとう」

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