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魔法使いの魔法書  作者: 碧衣 奈美
第三章 竜の血

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02.呼ばれた理由

 ガイにうながされ、リルレイアは職務部の棟へ向かった。入ると、階段を上がって二階へ行く。

 授業によって実験があったり映像を観たりするために、学舎全体が大きく三階まである修学部と違い、職務部の棟は二階建て。

 一階は事務局と職員室、医務室と食堂がある。二階は来客用の談話室や、進路相談室の他に、小会議室が数室と大会議室。

 魔法使いの仕事は魔物退治以外にも色々とあるが、従事する場所は別に配置されている。いわば、セレカティアの支部がアムシーチェスの街のあちこちにあるようなもの。

 よその地域の魔法使い協会は、一つの敷地内にまとめている所が増える傾向にあるようだ。

 最初にできた魔法使い協会であるセレカティアは、魔法使い育成と魔物退治に特化していたため、よその施設と比べると建物がこじんまりしている。

 ガイに連れられてリルレイアが入ったのは、廊下の一番奥にある小さな会議室だった。

 ちなみに、突き当たりは大会議室になっている。

 中へ入ると、長机が一台と向かい合わせでイスが数脚置かれているだけの、シンプルな部屋だった。

 ここでどういった会議が行われるのか、リルレイアには知るべくもない。

 そんなことより、自分がガイに呼び出された理由が何なのか、という方がずっと重要だ。

 扉に「使用中」の札をかけたガイは、適当に座るように言う。リルレイアは、出口に一番近いイスに座った。単に何となく。

「ガイ……あの、用事って何?」

 かなりどきどきしながら、リルレイアは尋ねた。

 扉に鍵はかけられなかったが、仮にリルレイアが逃げようとしたところでガイが何かしらの魔法をかければ、すぐに動けなくなるだろう。鍵など、無意味だ。

 ……何かって、ガイがおかしなこと、する訳ないわよね。あたしってば、何考えてるのかしら。

「これ、見たことあるか?」

 リルレイアの隣に座りながら、ガイはポケットから何か取り出した。テーブルに置かれたのは、ひよこの置物だ。

 薄茶の色や見た目からして、木で作られた物だろう。

「わ、かわいい」

 ガイの手の中に、すっぽり収まる大きさ。リルレイアの小さな手でも、馴染みそうだ。

 小さな子どものおもちゃにも見えるが、まさかここでそんな物を出しては来ないだろう。

「見たことはないけど、このひよこが……何?」

「教科書で見たことはないか?」

「……教科書?」

 ひよこが登場する教科書なんて、あっただろうか。

 実技はともかく、ペーパーテストはそんなに悪い点数ではないリルレイア。一生懸命思い出そうとするが、出て来ない。

「ああ、ひよこじゃ無理かな。普通、鳥の形だ」

 そう言われれば、思い当たるふしがある。

「鳥……もしかして、魔法道具?」

「当たり。これは、超初心者用だ」

「えっと……あたし用ってこと、よね」

 超初心者と言われているのだから、なかなか進級できないリルレイア向けに違いない。

 竜と呼ばれるガイが、こんなかわいい道具を使うはずがないのだから。

「何の魔法道具か、わかるか?」

「通信魔法よね。遠くにいても、同じ物を持ってる人と会話ができる道具」

 魔法を使えない人々が遠くの人と会話をする場合、遠話(えんわ)機と呼ばれる道具が使われている。

 だが、外に出ている魔法使い達は、遠話機など使えない場所にいることも多い。そういう状況では、当然魔法を使う。

 鳥の形に作られたこの道具は、誰かから連絡が入って来ると鳴いたり身体が光ったりするのだ。

 受け取る側が魔力を注ぐと、連絡を入れて来た相手と会話ができるようになる。

 ただ、ガイが「超初心者用」と言うように、道具にもレベルがある。

 初心者用では、あまり遠くの相手と会話することはできない。上級者用になると遠くの相手と会話できるが、注ぐ魔力がその分多く必要になってくる。

 さらに上級になれば、水晶を使って相手の顔を見ながらでの会話も可能だ。水晶なら他にも用途は色々あるので、持ち運ぶ道具がその分減って移動も楽になる。

 残念ながら、今のリルレイアのレベルでは、まず使えない道具だ。

「そう。それがわかってるなら、これからすることはわかるよな」

「え、あたしにこれで通信魔法を使えってことぉ?」

 ガイはすまして、うなずいている。

 将来、魔物退治の仕事をしようと考えている者なら、必ず習得する魔法の一つだ。

 ただ、初級クラスの授業で一応習うが、すぐに使う場面が来ない、ということで、習得は個人の自由に委ねられている。

 修学部では、それぞれのクラスに必須の魔法があり、それ以外は「こういう魔法がある」と習うだけで、後は個人任せ、というものが多い。

 現存する魔法を全て必須にしてしまうと、習得にとんでもなく時間がかかってしまうからだ。通信魔法も、その一つである。

「魔法書探しを続けるなら、これが必要になってくる。栞の言葉について何か思い付いたら、すぐに連絡ができるだろ。これが怪しいと思うけど、家にあるかって聞きたい時なんかに使える。俺達は仕事で、セレカティアどころかアムシーチェスの街を出てる時も多いからな。何かあっても、すぐに伝えられないんだ」

「うん……」

 リルレイアは休みの日以外、毎日魔法使い協会セレカティアの修学部へと通っている。

 だから、今日のガイのように時間を見計らい、彼女を掴まえることは簡単だ。

 しかし、仕事によってあちこち場所を移動する竜達は、いつもそうすることができない。

 当然、リルレイア側から三人に接触したくても、いつ彼らが戻るかわからないので、すれ違いが何日も続いて……という状態になってしまう。

「事務局の受付に、ローゼって人がいるんだけどさ」

「あ、あの若い女の人ね。青くて丸い瞳の人」

 ちょうど一週間前、飾り物リストを作って竜達に渡そうと事務局へ向かい、彼女に頼もうとしたことがある。

「そう、その彼女。何か頼む時、一番言いやすいんだよな。歳が俺達に一番近いってこともあるし。リルレイアに何か連絡したい時は、ローゼを頼るつもりでいたんだ。だけど、魔法書探しについては、完全に個人的な案件で動いてることだろ。ローゼに甘えるのは、ちょっとまずいと思うんだ。俺達にとっては、ライオストーンの魔法に直に触れられる絶好の機会だし、栞の言葉について真面目に考えてるつもりだけど……。他の奴らからすれば、遊んでるように見られても仕方ないかなって部分もあるんだよな。かと言って、リルレイアからの依頼、なんて話になると仕事扱いになって、依頼料が発生するし」

「うん、そうよね……」

 魔法書についての価値観は、人それぞれだろう。

 ただ、少なくともこの魔法書については、宝探しのように思う人だって、中にはいるかも知れない。

 それなのに、仕事と同じように事務局の人間を勝手に連絡係にしては、それを知った上層部がいい顔をしないのでは、と考えられる。

 頼んだ自分達が咎められるのならいいが、関係のないローゼに迷惑がかかっては申し訳ない。

「彼女抜きで話を進めようと思った場合、どうしてもリルレイアに直接連絡を入れる必要が出て来るんだ。そうする方が早いってのもあるしな。人を介すると、どうしても時間がかかって辛気くさい。仮にローゼに頼めたとしても、早退だの休みだのになったりしたら、ますます時間がかかるだろ。その点でも、不安があるからな。彼女の場合、そうなる可能性が高いから」

「ローゼって、そんなに早退とかが多いの? 身体が悪いとか?」

「いや、そうじゃない。子どもがいるから」

「ええっ。あの人、結婚してるのっ?」

 歳が近いとは言っても年上には違いないし、家庭があってもおかしくない年齢。だが、とてもお母さんには見えなかった。

 年上の人に失礼かも知れないが、かわいい雰囲気の人だと感じていたので。

「一歳半って言ってたっけ。そういう絡みもあって、勤務時間も基本的に短いんだ。そういった事情で、仕事のことなら他の人にも頼めるけど、この件に関しては自分達だけで何とかしようぜって話になった。その方が、苦情も出ないからな」

 事情は理解した。リルレイアが、通信魔法を使えるようになる必要性も。

 一番問題なのは、この魔法道具をリルレイアが使いこなせるか、である。

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