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魔法使いの魔法書  作者: 碧衣 奈美
第二章 飾りのみ

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08.魔法がかかったタペストリー

 サンシュコートのメモにはそう書かれていただけで、実際にはしっかり調べられているはずだ。

 それとも、ガイが言うように、突っ込んだ調べ方をしていなかったのだろうか。

 もちろん、魔法の気配が濃いことを気にする魔法使い達はいた。だが、元々魔法がかかっている物に、ライオストーンの魔法の気配が重なったためだろう、と考えられたらしい。

 実際、封印を解く魔法をかけても反応がなかったため、このタペストリーに関しての調査はここまで、となったようだ。

「リルレイアは、このタペストリーにかけられた魔法がどんなものか、知っているかい?」

「えっと……糸そのものに魔法がかけられていて、この中の人達が動くようになってるの。小さかった時、父が何度か見せてくれたわ」

「今でも小さいだろ」

 ジンが隣にいれば絶対はたかれるようなことを、ガイがさらっと言う。

「なるほどね」

 代わりにヴィズが、ガイを小突きながらうなずく。

 それから、タペストリーに向けて、手を軽く振った。

 すると、三人の女性達が動き出し、実をもぎ取り始める。それをカゴに入れると、少し移動して別の木の実に手を伸ばす……ということを、それぞれ繰り返した。

 現実とは違うので、いくら取っても木から実はなくならないし、持っているカゴが一杯になることもない。

「魔法使いの家なんかで、よく見るよな。主が席を外した時に少しでも客を楽しませて、時間稼ぎできるって奴だろ」

 それぞれ構図は違っても、ちょっとした動きをエンドレスで続ける仕組みになっているタペストリーである。

 魔法を使わなければ普通のタペストリーと変わらないが、そういった細工があるため、魔法使いの家で飾られることが多い。

 よその魔法使いの家と同じく、ロブラック家にもこうして応接室に飾られている。こういう物が好きな人は応接室だけでなく、リビングや階段の踊り場、客室などにも飾ったりするようだ。

 この家にあるのは、この一枚だけ。あとは普通の、絵が動かないタペストリーしかない。

「確かに、強い魔法の気配はするけれど……何かが封印されてるかまではわからないね」

 ヴィズがもう一度手を振ると、絵の中の動きが止まった。

「この前見付けた最初の糸口の紙からしてそうだけど、かなり巧妙なんだよな。隠す場所に、うまく溶け込ませるように封印してるんだ。それが大した大きさじゃないから、余計にわかりづらくなってる。だから、ちょっと魔法の気配がするってくらいだと、何かが封印されてることを見破れない。隠されてるのが本一冊丸ごとなら、もう少し見付けやすかったんだろうけどな」

 今回隠されているのも、恐らく数枚の紙。分厚い本を隠すよりずっと簡単だが、探す方は難しくなる。

「こうしている限り、メモにあったように、そう特別なものは感じられないね」

 これだ、と確信していた訳ではない。ただ気になったから、最初に調べてみよう、ということになっただけだ。

「一応、解呪を試してみようか。フーウエカリヒ」

 ヴィズが、封印を解く呪文を唱えた。しかし、タペストリーに変化はない。

「何も起きないけど……今、どこかで別の反応をしていなかった?」

 ヴィズが、ガイの方を振り返った。

「俺もわずかだけど、違和感があったぞ。タペストリーじゃなくても、この部屋に何かあるんじゃないか?」

 二人は首をかしげるが、リルレイアにはさっぱりわからなかった。

 近くで何となく魔法の気配がしたようには感じたが、それはヴィズが使った魔法のせいだと思っていたのだ。

「今度は、俺がやってみる。ヴィズは周りを見てくれ」

「了解」

「フーウエカリヒ」

 今度は、ガイが解呪の呪文を唱える。

 ヴィズがその間、部屋を見回して変化のある場所を探した。見付けられるとは思わなかったが、リルレイアも同じように探してみる。

「あっ」

 思わずあげたリルレイアの声に、ガイとヴィズがそちらを見る。

「どうした? 何か見付けたのか?」

「栞が光った……ような」

 二人がこの家へ来てからずっと、リルレイアは前回見付けた魔法書の表紙と、その日に引き抜かれた栞をしっかり持っていた。

 それらを胸に抱くように持っていたのだが、その栞がうっすらと光ったのだ。

 しかし、リルレイアが声をあげてすぐ、栞はすぐ元に戻ってしまった。なので「ほら、光ってる」と二人に見せることができない。

「ごめんなさい、気のせいかも……」

「本当に気のせいかな。失礼」

 ヴィズが、リルレイアの手から栞を抜き取る。

 栞には、今回のキーワードである「飾りのみ」という言葉があるだけで、他にこれと言う変化はなかった。

「リルレイア、表紙と一緒にそれを抱き締めるようにして持ってたろ。だから、ヴィズがやった時は、変化が見えなかったんじゃないか? で、俺がやった時はわずかでも身体から離れて、光が目に入ったとか」

「あ……そうかも」

 確かに、ヴィズが解呪していた時は、表紙をしっかりと抱き締めていた。でも、ガイが解呪した時は、周りを見ようと体勢がちょっと変わった気がする。

 光が見えたのは、そのせいだ。

「この栞、探す糸口が書かれているだけじゃないようだね。これがなければ、ページがある場所にぼく達がたどり着いても、封印場所が正しく反応してくれないんだ」

 栞はキーワードを示すだけでなく、これそのものが鍵なのだ。

 そのため、魔法使い達がこのタペストリーの前でどんなに解呪の呪文を唱えてみても、これまでは何も起こらなかった。

「最初に表紙ありき、だったんだな。こいつを先に見付けられなかったら、ページが見付かっても戻る場所がないから」

 今の時点では、魔法書は表紙のみ。つまり、外側部分だけしか存在しない。

 内側部分であるページの封印場所が見付かり、解呪すれば。恐らく、自動的に表紙の中へ戻るのだろう。

 そして、全てが見付かれば、ちゃんとした一冊の魔法書になる。

 だが、中身だけが見付けられても、戻るべき表紙がない。そうならないために、最初に表紙を見付ける必要があったのだ。

 先にページが見付け出されないようにするため、この栞が鍵としての役割を担っている。鍵がなければ、どんなに腕のいい魔法使いでも封印が解けないように。

「ライオストーンも、よく考えついたもんだよなぁ」

「だいたい、本をばらばらにしようって発想が、ぼくには思い付かない」

「本の扱いにはうるさいからな、ヴィズは」

「うるさい……かな。片付ける時は立てておくとか、ページは折らないっていうのは、ごく普通のことだと思うけれど」

 書籍の扱いについてはともかく、どうやら栞が封印を解く鍵になるらしいとわかったのだ。もう一度試してみない手はない。

「表紙の時みたいに、タペストリーからページが落ちてくるのかしら」

「どうだろうな。次に続く手掛かりを書いた紙ってのは、もうやめてもらいたいけど」

「だけど……この栞に書かれた言葉、どうも引っ掛かるんだよね。この『のみ』って部分。もしタペストリーに隠されているなら『飾り』だけでもいいと思うんだけれど」

「それについては、俺も気になるけどさ。……とりあえず、そいつを持って解呪してみようぜ。結果を見てから、細かいことは考えるってことでさ」

 今の時点であれこれ考えても、この先に進めることはなさそうだ。それなら、鍵となる栞をまずは使ってみるべきだろう。

 本当なら、最初から最後までしっかり推測し、ちゃんと解答を出した上で解呪したいところなのだが。

 初めての栞だし、法則性もわからないので、手探りでやってみるしかない。

「そうだね。じゃ、何かあったらその時ってことで。今度はうまくいくかな」

 ヴィズが、栞をタペストリーにかざす。

「さっきも思ったんだけど……今日は誰が封印を解くかって決めないの?」

 前に来た時、ジンも入れて三人の時はカードで誰がライオストーンの魔法を解くかを決めていた。二人の時は、コイントスをして。

 いつも誰か一人を選ぶ時にはそうすると聞いていたのに、今日はそれがないのでリルレイアは「あれ?」と思っていたのだ。

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