06.リスト作成
エルサリアの言うことも、もっともだ。
確かに、アンティークなんて呼ばれる物は、作られてどれだけの年月が経っているかわからない。
物によっては、あえて古く見えるように加工されていたりもする、なんてことを聞いた気がする。
「それはありえるだろうけど……じゃあ、どうしたらいい?」
「全部書きなさい」
「ええっ?」
母の言葉に、リルレイアは目を見開く。
「その方が確実でしょ。実際に必要かどうか、古い物かの判断は、彼らにまかせればいいことよ」
リルレイアが判断するより、確かに竜達が見た方がいいだろう。
母の意見は正しい。
「だけど、ただでさえたくさんあるのに」
「それは仕方ないわ。あなた、お父さんやおじいさん達がずっと探して見付けられなかった物を、楽して見付けられると思ってるの?」
「う……」
それを言われてしまうと、つらい。
あの三人が関わった途端、一日で表紙部分が見付かった。もちろん、見付かるまでに紆余曲折はあったが、過去に誰も見付けられなかった物を見付けられたのだ。
それに気をよくして、これからも次々と簡単に見付けられると思っている……と言われても仕方ないだろう。
「誰かに頼まれた訳じゃない。無理する必要はないのに、あなたは始めたの。だったら、手抜きせずにやりなさい」
「……はーい」
エルサリアの言うことは、いちいちもっともだ。
魔法書探しは、ライオストーンの子孫に科せられた義務などではない。リルレイアが絶対に探さなければいけない、と誰かに強要されたことでもない。
それでも探し始めたのは、リルレイアの意思。過去の話を聞いていて、この作業が困難だというのは最初からわかっていたことだ。
そこを指摘されると、耳が痛い。
リルレイアは母の言葉に従い、部屋にある装飾品全てを書き出していった。それを見ながら、エルサリアが口を挟む……もとい、助言する。
「リルレイア、カーテンも書いた方がいいんじゃない?」
「え、カーテンって飾りになる? それに、そこまで古いかなぁ」
「私が嫁ぐ前からあったわよ、これ」
「二百年も経ってないと思うけど」
疑問に思いつつも、リルレイアはリストにカーテンを追加する。
「このジュータンは、どうかしらね。敷物も、飾りとしての用途はあるわよ」
「……わかった」
えーん、ガイがくれたメモより項目が増えていくよぉ~。
☆☆☆
ガイから「宿題」を渡されたのが、木曜日。
リルレイアはその日から、セレカティアでの授業が終わってから真っ直ぐ帰り、家にある物を書き出していく、という生活を五日間続けた。
途中で休日が挟まったのでしっかり書き出し、最後の日となる月曜日は清書だ。
何年前から存在していたのか、と考えればキリがない。飾りと当てはまる物、怪しいと思える物を全部書き出したが、それこそキリがなかった。
あのクッションも、実はそうかも知れない。さすがに二百年以上も、とは思うが、魔法使いの持ち物なら、意外と……ということも。
冬は暖房器具として使われている暖炉も、他の季節は部屋のインテリアの一部になりえるから、飾りの中に入るのでは……など、次々に新しい項目が登場してくる。
結局、各部屋で目に付く物ほとんど全てがリストアップされることになった。
多少の差はあるが、一部屋につき紙二枚ぎっしり。
メモを渡された時、ガイには「ライオストーンが生きていた頃の物」って言われたんだけどなぁ。これを見たら、叱られそう。部屋の物全部なんて言ってないだろって。
宿題、などと言われたから、提出するのが怖い気がしてきた。もう少し整理をしてから提出しろ、と突っ返されそうだ。
しかし、整理と言われても、リルレイアにはもう無理だ。エルサリアに言われたように、彼らに判断してもらわなければ。
叱られないか不安に思いつつ、リストを紐で綴じる。魔法ではなく、文房具店などで売られているような、しっかり実在している文書整理用の紐を使った。
下手な結び目を見られたら恥ずかしい……と言うより、ちゃんとできないと紙がばらばらになってしまう恐れがあるからだ。
それを封筒に入れると、火曜日の放課後にリルレイアは職務部の事務局へ向かった。
事務局と書かれているプレートが張られた扉を開けると、十人前後の大人達がそれぞれ机に向かって仕事をしている。
ここは魔物退治など、魔法使いに仕事を依頼したい人が来る所だ。修学部への入会希望など、事務手続きをする部署でもある。
見たところ、中年のおじさんもいれば、若い男性もいた。エルサリアくらいの年代であろう女性もいる。
修学部の教師達がいる職員室とは違う、微妙な緊張感が漂っていた。いや、リルレイアが勝手に緊張しているだけだ。
入ってすぐの所にカウンターがあり、受付らしい若い女性が座っている。青く丸い瞳の、かわいい女性だ。
リルレイアは、その彼女に声をかけた。
「あの……すみません」
「はい、何でしょう」
二十代前半くらいだろうと思われる女性は、にこやかに対応する。
いかつい顔をしたおじさんの対応でなかったのが、リルレイアにはありがたい。それだけで、腰が引けてしまいそうだから。
「これを渡していただきたいんです」
リルレイアは受付嬢に、持って来た封筒を渡す。
封筒には三人の竜の名前があり、下には差出人であるリルレイアの名前が書かれていた。
「えーっと……これは、誰に渡せばいいのかしら」
名前は三つだが、封筒は一つ。彼女の疑問も、当然だった。
「誰でもいいです。仕事から最初に戻られた三人のうちの誰かに。あ、あの、中身は変な物じゃありません。頼まれていたもので、彼らが見ればすぐにわかる物ですから」
もうちょっとで「宿題なんです」と言いそうになり、それは何とか押しとどめる。
先生でもない彼らに「宿題を渡す」なんて言っても、相手に怪訝そうな顔をされるだけだ。
そうでなくても、奥にいるおじさん達がちらちらとこちらを見ている。
「そう……ちょっと待ってね」
受付嬢は封筒を持って、立ち上がる。そして、奥にある扉から隣の部屋へ行ってしまった。
隣は職員室。つまり、修学部の教師も含め、魔法使い達の控え室となっている。まさかとは思うが、リルレイアの担任に報告するのだろうか。
も、もしかして、検閲とかしてるのかしら。リビングにはピアノやカーテンやジュータンが、なんてことが書いてあるだけだけど「これは何ですか」なんて言われたら、どう答えたらいいのよぉ。
もしくは「ちょっと来なさい」とか言われて、進路指導室とかへ連れて行かれたりして、尋問とか? あたし、まだ進路指導室に入ったことはないけど(進路がどうこう言える成績じゃないから)名前だけで緊張しそう。
やっぱり、直接渡した方がよかったのかなぁ。だけど、みんながいつ仕事から戻って来るかなんてわかんないし、少しでも早く目を通してもらっておいた方が、何か思い付くことだってあるかも知れないもん。
リルレイアには、受付嬢が行ってしまってからの時間がひどく長く感じられた。たかが書類の束を一冊持って来たくらいで、こんなに緊張するのは初めてだ。
なので、後ろの扉が開いて、誰かが入って来たことにも気付かない。
「そんなに縮こまって、どうしたの?」
いきなり声をかけられて、リルレイアはびくっとなる。
慌てて振り返ると、そこには金の竜が立っていた。
「ヴィズ……」
「ああ、ごめんね。そんなに驚かれるとは思っていなかったから」
彼の顔を見た途端、リルレイアはほっとしたと同時に泣きそうな顔になり、事情がわからないヴィズが慌てる。
「ううん……」
ヴィズのせいじゃない、と言いたいが、うまく言葉が出て来ない。リルレイアは首を横に振るだけだ。
知っている人がそばにいるだけでこんなに安心できることなんて、今までなかった。まだ彼らと出会って、二週間なのに。
まるで、迷子が親に見付けてもらったような心境だ。
そのヴィズの手には、見覚えのある封筒があった。間違いない、さっき受付嬢が持って行ったリルレイアの封筒だった。





