04.好み
話が妙な方へと流れて行く。いや、女子の会話なんて、こんなものだ。
特に、気になる男性の話になれば、だいたい盛り上がる。
「三人とも素敵な人達だけど、見た目も性格も違うから人によって好みが分かれるでしょ? 金の竜は、人当たりが柔らかくて穏やか。銀の竜は、一見クールそうに見えて実は人懐っこい。黒の竜は、ちょっとやんちゃで母性本能をくすぐるタイプね。大雑把にまとめれば、だいたいこんなところでしょ。黒の竜も好きだけど、私の本命は銀の竜かなぁ」
胸まで伸びた髪は、少しくせがある明るい金色。瞳の色は紫水晶のヴィズ。
腰まで届く、青みがかった銀色の真っ直ぐな髪。コバルトブルーの瞳のジン。
少しはねている緑の黒髪は短く、翠玉の瞳を持つガイ。
三者三様の見た目は、修学部の女子達を騒がせるのには十分な麗しさだ。背が高く、均整の取れた身体も注目度は高い。
そんなものなのか、とディーナの話を聞いていたリルレイアは思う。
他の人達は、やはりそういう目で彼らを見ているのだ。もちろん、リルレイアも三人を遠目で見て「素敵だな」と思ったことは何度もある。
だが、その一方で。
もしも大魔法使いと言われるライオストーンの才能が、ほんのかけらでも自分に受け継がれていれば。
彼らと同じように、もしくは一緒に魔物退治などに向かっていたのかな、などということを、厚かましくも「魔法使い目線」で思う。
そこは、有名すぎる先祖を持つ者の感覚だろうか。
もっとも、彼らがうらやましい、と思う程に自分のレベルは高くない。それくらいわかっている。
もう少し実力があればよかったが、ライバル心を燃やせるような位置に自分は立っていない、と自覚していた。
あまりにも実力に雲泥の差がありすぎれば、うらやましいだの追い付いてやるだのといった感情など、芽生えようもないのだ。
「リルには、金の竜がお似合いじゃない? 彼なら、ぜーんぶフォローしてくれそうだもん」
「そ……そだね」
確かに、フォローしてもらっている気はする。だが、それを言い出すと、全員にフォローしてもらっているようにも思えるが……。
それぞれの教室へ別れる時、ディーナが言った。
「ねぇ、今度会ったら竜のサイン、もらってくれない?」
「え……あ、頼んでみる」
そんな余裕があるかな、と思いながら、リルレイアはあいまいな約束をしてディーナと別れた。
☆☆☆
ガイと話をしてから、三日が経った。
その間、リルレイアとしても栞に書かれた「飾りのみ」という言葉の意味を一生懸命考えたが、やはり何も浮かばない。
穴があく程に栞を見ても、そこにある言葉以外にヒントらしきものがないので、もしかしたらという推測の「す」の字も出てこなかった。
最初の紙があぶりだしで文字が浮かぶ仕掛けだったので、この栞にも何か別の仕掛けがあるのではないか。
ふとそんなことを思いつき、でも火であぶるのは怖いので、逆にぬらしてみた。
水にぬらした布を、少しずつ栞に当てていく。文字がにじんでしまったら、と少し心配したが、まるで変化がなかった。
紙ではなく、リボンの部分では、と思ってこちらもぬらしてみたが、やはり何も起きない。
考えてみれば、ヴィズがやってみせたあぶりだしは魔法の火によるもの。もし、水にぬらすのが正解だったとしても、それは魔法の水でなければならないのだろう。
リルレイアには、そんな器用に水を出すことはできない。調節できるくらいなら、とっくに上のクラスに進級できている。
火にしろ水にしろ、魔法によるものでなければ意味がないとすれば、今のリルレイアには解けない。
それ以前に、これに何か仕掛けがあったとすれば、竜の三人が気付かないはずはないだろう。水や火を近付けなかったのは、そういう仕掛けがないとわかっているから。
つまり、リルレイアの思い付きは、最初から的外れだったのだ。
そのことに気付き、リルレイアはしばらく落ち込んでしまった。考えるべきは、栞に書かれた言葉の意味であり、栞をぬらすことではない。
次に会った時に、とガイから言われていたので、申し訳ないが「いっそのこと、三人の仕事がしばらく続いてくれれば」などと思ったりもしたくらいだ。
本当に意見を求められても、結局何も出てこない状態である。もし「俺達が仕事をしている間、何やってたんだ」と言われたら怖い。
ヴィズやジンはそんなことは言わないだろうが、ガイなら言いそうだ。もちろん、彼だって本気で怒ることはないだろうが……。
なので、授業が終わって帰ろうとした時、門のそばにガイの姿を見た瞬間に心臓が飛び跳ねた。
そのまま回れ右をして逃げようか、とさえ思ったが、実行する前に見付けられてしまう。
「あ、リルレイア。今、帰りか」
ガイに声をかけられ、その場でリルレイアは彫刻と化してしまった。
ど、どうしよう……。
背中にだらだらと冷や汗をかきながら、リルレイアはガイがこちらへ来るのを待った。ほとんど、死刑執行を待つ囚人状態だ。
「……どうした? 変な顔して」
「へ、変なは余計なお世話よっ」
こんなこと言われて、誰が母性本能をくすぐられるのかしら。
緊張している割にしっかり言い返していることに、リルレイアは気付いていない。
「これ、宿題な」
ガイは四つ折りにした紙をポケットから出し、リルレイアに渡した。
「宿題?」
意外な言葉に、リルレイアは思わず聞き返した。
てっきり「あれから何か思い浮かぶことはあったか」などと言われるかと思ったのに。それにしても「宿題」なんて言葉が出るとは。
「ああ。三人で栞の言葉を考えてたんだけど」
「え、だってみんな、それぞれ仕事でしょ?」
休み明けに会った時、そう聞いたはず。
「四六時中、仕事をしてる訳じゃないからな。通信手段だってあるし」
水晶だのその他の魔法だの、離れた場所にいる相手とも話ができる手段はいくらでもある。
彼らは栞の言葉を見てからずっと、連絡を取りながら意味を考えていたのだ。
「とりあえず、素直に考えてみようって話になった。で、飾りって言葉があるから、家にある飾り物のどれかってことで」
リルレイアが受け取った紙を開いてみると、タペストリーだの絵画だのといった言葉が並んでいた。
「思い付く限り、家にありそうな飾り物を書き出してみた。で、宿題ってのは、この中であの家にある物、さらにライオストーンが生きてた頃からある物を、それぞれ書き出してほしいんだ。わかる範囲でいいから」
「だけど、ガイ……ここに書かれてる物、すごくたくさん……」
「ああ、思い付くままに書いたから。走り書きで悪いけど、読めるよな? なければない、でいいんだ。彫刻って、あったっけ? 家の中を見て回った訳じゃないから、わからないんだけど。なければ、その項目は削除な。数が多いし、急がないから」
急がない、とは言われたものの、リルレイアは書かれた項目を見てげんなりする。ざっと見ただけでも、軽く二十は超えているのだ。
タペストリー、うちに何枚あるかしら。
それを考えるだけでも、気持ちが疲れる。
今でこそ、リルレイアは母のエルサリアと二人暮らしだが、昔は弟子が数人同居していたと言われるライオストーンの屋敷に住んでいるのだ。つまり、部屋数が多い。
さらに、こういった飾り物もたくさんある。これまで気にしたことがないのでわからないが、リストアップするのが容易ではない数になるはずだ。
しかし、仕事中にも三人は、こうして魔法書のことをずっと気にかけてくれていたのだ。リルレイアだけが楽をする訳にはいかない。
「わかった。がんばってみる」
「頼むぜ。さっきの様子じゃ、何も思い浮かんでなかったんだろ?」
「!」
何一つ答えらしいものを導けなかったことを、しっかり見抜かれていた。
「あの後、まずいこと言ったって思ったんだよな。考えすぎて、リルレイアの頭が沸騰するんじゃないかって。そうなったら、さすがに俺達でも修復できないし」
「ふ、沸騰なんてしないわよっ。あたしは……」
沸騰する前に考えるのをやめる、と言いそうになり、かろうじて口を閉ざす。
本当なら、沸騰したとしても、自分がもっとしっかり考えなければいけないのだ。





