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魔法使いの魔法書  作者: 碧衣 奈美
第二章 飾りのみ

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04.好み

 話が妙な方へと流れて行く。いや、女子の会話なんて、こんなものだ。

 特に、気になる男性の話になれば、だいたい盛り上がる。

「三人とも素敵な人達だけど、見た目も性格も違うから人によって好みが分かれるでしょ? 金の竜は、人当たりが柔らかくて穏やか。銀の竜は、一見クールそうに見えて実は人懐っこい。黒の竜は、ちょっとやんちゃで母性本能をくすぐるタイプね。大雑把にまとめれば、だいたいこんなところでしょ。黒の竜も好きだけど、私の本命は銀の竜かなぁ」

 胸まで伸びた髪は、少しくせがある明るい金色。瞳の色は紫水晶のヴィズ。

 腰まで届く、青みがかった銀色の真っ直ぐな髪。コバルトブルーの瞳のジン。

 少しはねている緑の黒髪は短く、翠玉(すいぎょく)の瞳を持つガイ。

 三者三様の見た目は、修学部の女子達を騒がせるのには十分な麗しさだ。背が高く、均整の取れた身体も注目度は高い。

 そんなものなのか、とディーナの話を聞いていたリルレイアは思う。

 他の人達は、やはりそういう目で彼らを見ているのだ。もちろん、リルレイアも三人を遠目で見て「素敵だな」と思ったことは何度もある。

 だが、その一方で。

 もしも大魔法使いと言われるライオストーンの才能が、ほんのかけらでも自分に受け継がれていれば。

 彼らと同じように、もしくは一緒に魔物退治などに向かっていたのかな、などということを、厚かましくも「魔法使い目線」で思う。

 そこは、有名すぎる先祖を持つ者の感覚だろうか。

 もっとも、彼らがうらやましい、と思う程に自分のレベルは高くない。それくらいわかっている。

 もう少し実力があればよかったが、ライバル心を燃やせるような位置に自分は立っていない、と自覚していた。

 あまりにも実力に雲泥の差がありすぎれば、うらやましいだの追い付いてやるだのといった感情など、芽生えようもないのだ。

「リルには、金の竜がお似合いじゃない? 彼なら、ぜーんぶフォローしてくれそうだもん」

「そ……そだね」

 確かに、フォローしてもらっている気はする。だが、それを言い出すと、全員にフォローしてもらっているようにも思えるが……。

 それぞれの教室へ別れる時、ディーナが言った。

「ねぇ、今度会ったら竜のサイン、もらってくれない?」

「え……あ、頼んでみる」

 そんな余裕があるかな、と思いながら、リルレイアはあいまいな約束をしてディーナと別れた。

☆☆☆

 ガイと話をしてから、三日が経った。

 その間、リルレイアとしても栞に書かれた「飾りのみ」という言葉の意味を一生懸命考えたが、やはり何も浮かばない。

 穴があく程に栞を見ても、そこにある言葉以外にヒントらしきものがないので、もしかしたらという推測の「す」の字も出てこなかった。

 最初の紙があぶりだしで文字が浮かぶ仕掛けだったので、この栞にも何か別の仕掛けがあるのではないか。

 ふとそんなことを思いつき、でも火であぶるのは怖いので、逆にぬらしてみた。

 水にぬらした布を、少しずつ栞に当てていく。文字がにじんでしまったら、と少し心配したが、まるで変化がなかった。

 紙ではなく、リボンの部分では、と思ってこちらもぬらしてみたが、やはり何も起きない。

 考えてみれば、ヴィズがやってみせたあぶりだしは魔法の火によるもの。もし、水にぬらすのが正解だったとしても、それは魔法の水でなければならないのだろう。

 リルレイアには、そんな器用に水を出すことはできない。調節できるくらいなら、とっくに上のクラスに進級できている。

 火にしろ水にしろ、魔法によるものでなければ意味がないとすれば、今のリルレイアには解けない。

 それ以前に、これに何か仕掛けがあったとすれば、竜の三人が気付かないはずはないだろう。水や火を近付けなかったのは、そういう仕掛けがないとわかっているから。

 つまり、リルレイアの思い付きは、最初から的外れだったのだ。

 そのことに気付き、リルレイアはしばらく落ち込んでしまった。考えるべきは、栞に書かれた言葉の意味であり、栞をぬらすことではない。

 次に会った時に、とガイから言われていたので、申し訳ないが「いっそのこと、三人の仕事がしばらく続いてくれれば」などと思ったりもしたくらいだ。

 本当に意見を求められても、結局何も出てこない状態である。もし「俺達が仕事をしている間、何やってたんだ」と言われたら怖い。

 ヴィズやジンはそんなことは言わないだろうが、ガイなら言いそうだ。もちろん、彼だって本気で怒ることはないだろうが……。

 なので、授業が終わって帰ろうとした時、門のそばにガイの姿を見た瞬間に心臓が飛び跳ねた。

 そのまま回れ右をして逃げようか、とさえ思ったが、実行する前に見付けられてしまう。

「あ、リルレイア。今、帰りか」

 ガイに声をかけられ、その場でリルレイアは彫刻と化してしまった。

 ど、どうしよう……。

 背中にだらだらと冷や汗をかきながら、リルレイアはガイがこちらへ来るのを待った。ほとんど、死刑執行を待つ囚人状態だ。

「……どうした? 変な顔して」

「へ、変なは余計なお世話よっ」

 こんなこと言われて、誰が母性本能をくすぐられるのかしら。

 緊張している割にしっかり言い返していることに、リルレイアは気付いていない。

「これ、宿題な」

 ガイは四つ折りにした紙をポケットから出し、リルレイアに渡した。

「宿題?」

 意外な言葉に、リルレイアは思わず聞き返した。

 てっきり「あれから何か思い浮かぶことはあったか」などと言われるかと思ったのに。それにしても「宿題」なんて言葉が出るとは。

「ああ。三人で栞の言葉を考えてたんだけど」

「え、だってみんな、それぞれ仕事でしょ?」

 休み明けに会った時、そう聞いたはず。

「四六時中、仕事をしてる訳じゃないからな。通信手段だってあるし」

 水晶だのその他の魔法だの、離れた場所にいる相手とも話ができる手段はいくらでもある。

 彼らは栞の言葉を見てからずっと、連絡を取りながら意味を考えていたのだ。

「とりあえず、素直に考えてみようって話になった。で、飾りって言葉があるから、家にある飾り物のどれかってことで」

 リルレイアが受け取った紙を開いてみると、タペストリーだの絵画だのといった言葉が並んでいた。

「思い付く限り、家にありそうな飾り物を書き出してみた。で、宿題ってのは、この中であの家にある物、さらにライオストーンが生きてた頃からある物を、それぞれ書き出してほしいんだ。わかる範囲でいいから」

「だけど、ガイ……ここに書かれてる物、すごくたくさん……」

「ああ、思い付くままに書いたから。走り書きで悪いけど、読めるよな? なければない、でいいんだ。彫刻って、あったっけ? 家の中を見て回った訳じゃないから、わからないんだけど。なければ、その項目は削除な。数が多いし、急がないから」

 急がない、とは言われたものの、リルレイアは書かれた項目を見てげんなりする。ざっと見ただけでも、軽く二十は超えているのだ。

 タペストリー、うちに何枚あるかしら。

 それを考えるだけでも、気持ちが疲れる。

 今でこそ、リルレイアは母のエルサリアと二人暮らしだが、昔は弟子が数人同居していたと言われるライオストーンの屋敷に住んでいるのだ。つまり、部屋数が多い。

 さらに、こういった飾り物もたくさんある。これまで気にしたことがないのでわからないが、リストアップするのが容易ではない数になるはずだ。

 しかし、仕事中にも三人は、こうして魔法書のことをずっと気にかけてくれていたのだ。リルレイアだけが楽をする訳にはいかない。

「わかった。がんばってみる」

「頼むぜ。さっきの様子じゃ、何も思い浮かんでなかったんだろ?」

「!」

 何一つ答えらしいものを導けなかったことを、しっかり見抜かれていた。

「あの後、まずいこと言ったって思ったんだよな。考えすぎて、リルレイアの頭が沸騰するんじゃないかって。そうなったら、さすがに俺達でも修復できないし」

「ふ、沸騰なんてしないわよっ。あたしは……」

 沸騰する前に考えるのをやめる、と言いそうになり、かろうじて口を閉ざす。

 本当なら、沸騰したとしても、自分がもっとしっかり考えなければいけないのだ。

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