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魔法使いの魔法書  作者: 碧衣 奈美
第二章 飾りのみ

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02.栞の謎

「おかしいな。どうして?」

 試しに、リルレイアは他の色の栞も引っ張ってみた。しかし、やはり抜けない。リボンが真っ直ぐに伸びるだけだ。

 何かに引っ掛かっている訳ではない。そもそも、ページがないのだから、引っ掛かりようもないはず。

 考えられるとすれば、ある程度の魔力がなければ、栞はここから抜けないようになっている、というくらいか。

 ジンは何でもないようにするっと抜いていたが、それだけ強い魔力がある、ということなのだろう。

 悔しいが、そんな事情なら納得してしまう。

「もう、何よぉ。あたしには栞を抜くことも無理ってことなのぉ? んー、それもそうか……」

 リルレイアは、大きなため息をついた。

 何度もどじをやらかして、格好悪いところもたくさん見せちゃったから今更だけど。もう少し、まともに魔法が使えるようになりたいな。基本中の基本って言われる術くらいは、普通にできるように。せめて、ガイに発音が悪いってまた言われたりしないように。

 ……ガイってば、あたしをからかって遊んでるみたいなんだもん。やたら楽しそうな顔してるように見えちゃう。遊ばれないように、がんばらなきゃ。

 魔法書が置かれた机の引き出しには、ガイがリルレイアのノートにかけた魔法の紐が入っている。

 リルレイアが間違った呪文を唱え続け、できてしまった結び目だらけの紐。ガイの手で根元部分から切られ、練習しろと放られた。

 言われた通り、今はヴィズに教えてもらった呪文で、その結び目をほどいてある。あんなに苦労してほどこうとしていたのが嘘のように、きれいにほどけていった。

 考えてみれば、当たり前。リルレイアはほどくつもりでいたが、逆に結び目を作る呪文を延々と唱えていたのだから。

 今は、一つだけ結び目を残した状態で、ごく普通の紐のようになっていた。

 たぶん、この残した最後の結び目をほどいてしまえば、この魔法の紐は消えるだろう。そういう魔法だから。

 つまり、ガイのかけた魔法が完全に消える。

 それが何となくいやで、リルレイアは全てを解かないでいるのだ。

 だって、竜から何か「もらえる」ことなんて、そうそうないと思うもん……。そりゃ、これはプレゼントじゃないけど。考えようによっては、黒歴史みたいなものかも。

 そんな何でもない魔法の紐であっても、リルレイアは消したくなかった。

 彼女にとっては、竜と話ができるきっかけになった大切な物だ。人が聞けば笑うかも知れないが、なかったことにはしたくない。

 このままにしておけば、たぶん半永久的に存在しているはず。

 それはそれとして。

 リルレイアは改めて、栞を眺める。

「それにしても……これって、本当にページを見付けるヒントになるのかしら」

 こんな短い言葉から、何をどう読み取れ、と言うのだろう。

 少しは「こういうことじゃないかしら」と彼らに自分の考えたことを伝えてみたい。

 ……とは思うのだが、まるでわからなかった。

 竜が封印を解いたのだから、実は解呪されずに残っている言葉がまだある、なんてことはないだろう。

 ということは、本当にこの栞に関してのヒントはこれだけなのだ。昔の魔法使い達がこれを見たとして、何か思い当たることはあっただろうか。

 もし魔法ができても、一人じゃ絶対に先へは進めなかったわね……。どこから手を付けていいのか、さっぱりだもん。まさか、魔法以外の力も必要になるなんて、思ってもみなかった。ひらめき? 推理? んー、どっちも無理だぁ。あの人達にお願いできて、本当によかった。魔法ができるようになれたとしても、手のつけようがなくて泣いてる自分が見えそう。

 リルレイアは一つくしゃみをし、自力で答えを導き出すことは早々にあきらめた。

☆☆☆

 次の日の月曜日。

 リルレイアがセレカティアへ行くと、門の所でガイに会った。

 修学部と職務部の建物は敷地内で分かれているが、門は一つ。なので、見習い魔法使いが修学部へ向かう時、仕事へ向かう魔法使いとすれ違うことは別に珍しくない。

 だが、リルレイアが竜の三兄弟とすれ違うことはこれまでなかった。

 それが、昨日の今日でこうして顔を合わせたりすると、嬉しい反面どこか恥ずかしい気もする。

「よっ。おはよ」

「お、おはよう」

 挨拶を交わしているだけなのだが、ガイが普通の魔法使いではないため、通り過ぎる他の見習い達の目がリルレイアに突き刺さる。

 口にはしなくても「あ、黒の竜だ。……で、あの子、誰?」と言っているような視線である。

「昨日の栞だけど」

「あ……うん」

 結局、昨日は頭が働かなくて、すぐに推理を放棄してしまった。こんなすぐに顔を合わせるなら、もう少しでも考えて自分の意見が言えるようにしておけばよかった……と後悔しても遅い。

 もっとも、どれだけ考えたところで、推測の一つも出て来ないような気がした。あまりにも雲をつかむような言葉だから。

「仕事が入ったから、ゆっくり考える時間が取りにくいんだ。ヴィズもジンも。悪いな」

 ガイと一緒に、数人の魔法使いも一緒に門から出て来ていた。彼らは少し先へ行き、ガイが来るのを待っているようだ。これから仕事へ向かうのだろう。

 リルレイアは、慌てて首を横に振る。

「悪いなんて、そんな……。こっちの方は、全然急ぐ必要なんてないもん。ガイ達の仕事の方が、絶対絶対大切なんだし」

 ガイの仕事は、魔物退治。それはつまり、魔物のために迷惑をこうむっている人がいる、ということ。

 軽いいたずらをされるくらいならまだしも、傷付けられたり、最悪だと殺されたり喰われたり、といったことも起こりうる。当然ながら、最優先事項の仕事だ。

 片や、魔法書探しはあくまでも私用だし、期限を設けている訳でもない。仕事ではないし、義務でもないのだ。

 そもそも、最初に探し始められてから二百年近く経っている。期限など言い出したところで、本当に「今更」なのだ。ガイ達が恐縮する必要など、どこにもない。

 しかし、そうして気にしてもらえるのは嬉しかった。

「ま、ちゃっちゃと片付けて来るから、ちょっと待ってろ」

 自信を持って言い切るガイを見ていると、彼なら本当に「ちゃっちゃと」片付けるんだろうなぁ、と素直に思える。

「次にこの話をする時は、リルレイアの意見も聞くからな」

「ええっ」

 ついさっき、考えておけば、と反省したばかりなのに。本当に聞かれるとなったら、拒否反応みたいな声が出てしまった。

「……何、素っ頓狂な声出してるんだよ。リルレイア中心の話だろ」

「え~」

 確かに、この話を言い出したのはリルレイア。ガイ達は単に興味を持って「手伝う」と言っただけで、この件に関してはリルレイアが主になって動くべきなのである。

 だが、世の中には「できることと、できないこと」が存在するのであって……。

 情けない声を出すリルレイアに、ガイは思わず吹き出した。

「とりあえず、今はしっかり修行して来い。じゃな」

「あ……気を付けてね」

 仲間の魔法使い達がいる方へ駆けて行くガイの背中に、リルレイアは小さく声をかけた。

 あたし中心って言われても……。

 急に、ずっしりと肩が重くなった気がした。

 こんなことではダメだ、と一応わかってはいる。自分がやり始めたことなのだから。

 しかし、何をどう頼りにして解けばいいのか、本当に皆目見当もつかないのだ。意見と言われても、やはり困ってしまう。

 だいたい、謎というものは何かしらの手掛かりを得てから解くもの……ではなかったか。

 あの栞の言葉のどこに、手掛かりがあるのだろう。ライオストーンにすれば、あの言葉そのものが手掛かりだ、となるのだろうが……。

 おかしな暗号みたいな言葉を書かれても困るが、あんな短すぎる言葉もいかがなものか。

「リル、どうしたのよ~。またテストがダメだったの?」

 そんな失礼な声をかけて来たのは、以前クラスメイトだったディーナ。鮮やかな色の赤毛をポニーテイルにした、目鼻立ちがはっきりしている女の子だ。

 クラスメイト「だった」と言うのは、彼女はリルレイアより後にセレカティアへ入ったが、先に進級してクラスが変わったため。

 歳が同じということもあり、気が合う。クラスが変わっても、彼女はこうしてリルレイアによく声をかけてくれるのだ。

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