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魔法使いの魔法書  作者: 碧衣 奈美
第二章 飾りのみ

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01.竜が帰った後で

「ふぅ……」

 リルレイアはぱたっと倒れるようにして、ベッドに仰向けに横たわった。

 しばらくそのままの格好で、ぼんやりと天井を眺める。ふと思い出したように、その姿勢のままで濡れた髪を少し乱暴にタオルでこすった。

「よっと」

 足を上げ、振り下ろす反動で身体を起こした。頭からタオルが落ち、現れた明るい茶色の髪はぼさぼさになっている。

 いつもなら、ここですぐにブラシをかけるのだが、今日は何だかすぐに次の行動へ移れない。頭の中がまだぼーっとしているせいだ。

 夕食をとり、お風呂に入ってそれなりに時間が経っているはずなのに。

 リルレイアはゆっくりと、自分の机へ視線を動かした。

 そこには、暗い緑の革でできた本の表紙が置かれている。そう、表紙だけだ。

 大魔法使いと謳われ、リルレイアの先祖でもあるライオストーンの魔法書である。

 もっとも、中身であるページは見事に一枚もない。これはいわば本の皮だけで、肉がついてない状態だ。

 しかし、ハードカバーのように、ちゃんと本の形を保っている。背表紙だけを見れば、厚めの本が普通に置かれているように見えるのだ。

 しかも、ページがないのに栞が存在している。

 まるでそこにちゃんとページがあるかのように挟まれた格好で、様々な色のリボンが上部から出ていた。

 透明のページがあるようにすら思える本。挟まれた紙の部分は見えなくても、このリボンの本数だけ、そこにはちゃんと栞が実在しているのだ。

 数えてはいないが、かなりの本数が見えている。リボンは赤や青などできれいなのだが、ちょっとわさわさした感じ。事情を知らずにこれを見たら、かなり不思議な状態で「何、これ?」となりそうだ。

 本当に……見付かったのよね。ごく一部だけど。

 その表紙を何度見ても、リルレイアはどこか信じられない思いが消えないでいる。

 自分が生まれるよりはるか昔に生きていた、大勢の魔法使い達。どれだけの人数が、どれだけの時間をかけて探し回ったのだろう。

 その彼らがいくら探し続けても、どうしても見付けられなかったライオストーンの魔法書。

 それが、たった一日で見付かったのだ。

 セレカティアの竜達によって。

 ずっとそばにいて、見付かる瞬間も一緒にいたけど……本当にこれって、お父さんやおじいさん達が昔からずっと探してた魔法書、なのよねぇ? 中身がないから、そもそも魔法書なのかすらもわかんないけど。竜の三人はそうだって言ってるし、この栞も次のヒントが書かれてたりするし……本物、なのよね。

 だけど、やっぱり信じられない。二百年近く探してずっと見付からなかった物なのに、それがあの三人だと一日で探せちゃうなんて……。

 父達が探していた魔法書を自分も探す、と決めて、母のエルサリアにセレカティアへ通わせてもらうことにした。

「たとえ成績が悪くても、魔法が使えるようになれば何とかなるはず」と考え、未だに最初のクラスから一つ進級しただけの状態だが、魔法使いの勉強を続けている。

 こんな体たらくでは、とてもじゃないが見付からないだろう、とは頭の隅で思いつつ。

 だが、初めて会話をしたその日のうちに、セレカティアの竜達に言われてしまう。

 無理に魔法使いになろうとしているように見える、と。

 確かに、魔法書のことがなければ「魔法使いになれなくてもいい」などと思っている部分はある。

 リルレイアは魔法使いになりたいのではなく、魔法書を見付けたい、というのが目的だから。

 たぶん、そんな気持ちがあるから、なかなか腕が上がらないのだ。

 絶対に見付けてやる、という突き動かされる何かがある訳でもないのに、なぜ続けようとしているのか、自分でもわからない。

「本当に今日、一緒にいた……のよね」

 思い出すだけで、どきどきしてくる。

 セレカティアの竜と呼ばれる魔法使いヴィズ、ジン、そしてガイ。

 三人はセレカティアでもトップレベルの魔法使い達で、他の魔法使い達から一目置かれる存在だ。

 修学部の見習い魔法使いの中にも、腕と外見のすばらしさに強い憧れを抱く者は多い。いや、外見については、魔法使いに限ったことではないだろう。

 そんな彼らに魔法書探しを手伝ってもらうことになり、正直なところ、リルレイアは今朝になってもガイ達が自分の家へ来ることが信じられなかった。

 彼らにとっては、正確にはリルレイアの家ではなく「ライオストーンが住んでいた家に来た」という気持ちだったかも知れないが。

 聞かれた流れで、ついついライオストーンの名前を出しちゃったけど、本当によかったのかなぁ。……よかったのよね。だって、こうして魔法書の一部は、現実の物として、あたしの前にあるんだもん。

 本当に存在するのか、などと言われたことも過去にはあったようだが、こうして魔法書は見付かった。

 少なくとも、父達は「ない物を探していた」訳ではない、とわかり、その点でリルレイアはほっとしている。

 魔法書の横には、白いリボンの付いた一枚の栞が一緒に置かれていた。

 今日、この魔法書の表紙が見付かった際、ジンが一枚抜いた物だ。

 特に何かを感じた訳ではなく、わさわさしたリボンの中でたまたまそれが抜きやすい位置にあったから、というだけらしい。

 これにも封印の魔法がかけられていて、その魔法をジンが解いた。誰が魔法を解くかは、彼ら流にカードで決めて。

 そこには、短い言葉が書かれていた。


『飾りのみ』


 たったそれだけで、他にヒントとなるような物は何もない。

 まさに「飾りのみ」のみだ。

 ジンがその言葉を読み上げた後、しばらく沈黙がおりた。さすがに、誰の口からも「これのことじゃないか?」という意見は出ない。

 恐らく、三人の頭の中で「飾りって、何の?」といった疑問が浮かんでいたことだろう。もちろん、リルレイアの頭にも。

 魔法書の表紙を見付けるまでも色々頭を使ったことだし「これについては、後日ゆっくり考えよう」ということで、今日の魔法書探しは打ち切られる。

 その後、三人の竜達はまるで昔からの友達のように、笑顔でロブラック家を後にした。

 最初は話をしていてちょっと怖い感じもしたけど……ガイって子どもっぽいところもある人でびっくり。竜って呼ばれるくらいの魔法使いなんだから、もっと大人っぽい人だって思ってた。一つしか違わないけど、もっと遠い存在の人だって。

 ヴィズやジンもそうよね。三人とも頭がよくて、魔法の腕もすごいけど、それ以外は普通で優しくて気さく。

 あたしがライオストーンの子孫だからじゃ……ないわよね? 三人はあたしがそうだから、この魔法書探しを手伝ってくれてるのかしら。……それでもいいや。

 彼らの気持ちを考えようとして、すぐにやめた。

 リルレイアがライオストーンの子孫ではなかったら、そもそも魔法書を探すなんてことはしていない。魔法使いになろう、なんて思わなかっただろう。

 しかし、それでは彼らと会えないままで人生を過ごすことになる。

 だとしたら、やっぱりライオストーンの子孫でよかったってことになるのよ。セレカティアに入ってからずっと、この名前が肩どころか全身にのしかかってつらい思いはしたけど。こうして竜の三兄弟と顔見知りになれて、これまでのつらさはチャラって気になるかも。あたしって、かなり現金だなぁ。

 しかし、見習い魔法使い、特に女子にとっては憧れの対象である三人。リルレイアが彼らと知り合えて嬉しい、と思ってもおかしくはない。

 リルレイアと同じ立場なら、大抵の人は多少のことをなかったことにできるだろうから。

 まだあたしには、一緒にいられるチャンスがある。少なくとも、この栞が全部なくなるまでは、ガイ達とずっと一緒にいられるし、話ができるんだわ。

 そう考えると、またどきどきしてくる。

「他のリボンも、同じ形の栞なのかな」

 リルレイアは、革の表紙から出ている栞のリボンを一本つまむと、そぉっと引っ張ってみた。

「……あれ?」

 栞が抜け出てくる様子がない。リルレイアが無作為につまんだ青のリボンはぴんと張っているが、それ以上動かないのだ。

 ジンがやっていたように、栞が現れる様子はなかった。

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