第23話:灰色の回答、沈黙の契約。
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一番隊の管理官・ゼノンが仕掛けた異形討伐を経て、ついにガドル隊長から厳しい追及を受けるケンジ。
「掃除屋」としての矜持を盾に、ケンジはこの絶対絶命の危機をどう切り抜けるのか?
そしてレオからの宣戦布告。一番隊という「組織」と、レオという「ライバル」。二つの重圧の中で、ケンジは次の戦いへ向かう!
【異世界:聖教国 一番隊作戦室】
作戦室の扉が閉まる音が、やけに重く響いた。
ガドル隊長はいつもの豪快な笑みを消し、その鋭い眼光を俺に向けたまま動かない。横では副隊長のサハクが、冷ややかな沈黙を守っている。一番隊の隊長室は、逃げ場のない密室と化していた。
「……佐藤。禁忌の森での戦い、報告書には『高圧洗浄機型・魔導銃の出力調整による奇跡的な一点突破』とある」
ガドルが机を叩く。その音は、俺の鼓動のように激しい。
「だがな。俺の目は誤魔化せねえ。あの異形を仕留めた際、お前の魔力は一瞬だけ、人界の理を逸脱した。まるで……深淵そのものが立ち上がったかのような、悍ましい気配だったぞ」
俺は魔導銃の冷たい感触を腰のホルスター越しに確かめながら、努めて冷静に言葉を紡ぐ。ここで否定すれば「隠し事がある」と認め?ことになる、認めればすべてがバレてしまう。
「……隊長。俺の力については、以前の審問で凛……国立異世界資源研究所が証明済みです。あれは試作兵器のバグであり、調整不足による出力過多です。俺自身には、魔神を超えるような力などありません」
俺は真っ直ぐにガドルの瞳を見つめ返す。嘘ではない。これは凛と構築した「盾」だ。
「バグ、か。……ならば聞く。なぜ、魔神の残滓に蝕まれていたあの森で、お前だけが平然と立ち回れた? あそこは本来、人間の魔力回路が焼き切れる場所だぞ」
サハクが穏やかな口調で追い打ちをかける。
「ケンジさん。私はあなたのことを信じたいんです。ですが、一番隊という組織は、隊員の秘密が隊の破滅に繋がることもあります。もし、何か隠しているのなら、今のうちに共有してください。私たちは、あなたの『共犯者』になる準備があるかもしれません」
その言葉は、救いか、あるいは罠か。
一番隊の面々に対する信頼は、少しずつ芽生えていた。だが、俺の力の正体が「魔神」であると知れば、彼らの忠誠心は憎悪に変わるだろう。
「……俺は、魔物清掃員でした。死に損ないの魔物や、呪われた遺物の『掃除』だけをして生きてきた。その過程で、汚れに対する耐性が普通の人より少し高いだけです。それ以上のことは、俺にも分かりません」
俺はあえて、嘘の中に真実を混ぜた。俺にとっての「魔神の力」は、かつて清掃員として培った経験の延長にあるという、俺自身の認識そのものだ。
ガドルはしばらくの間、俺を無言で見つめていた。やがて、彼は深く溜息をつき、椅子に深く腰掛けた。
「……そうか。お前もそう言うか」
その言葉には、失望とも諦めともつかない響きがあった。
「いいだろう。今のところ、お前の力が一番隊にとって不可欠であることは事実だ。だが覚えておけ、佐藤。お前が一度でもその力で『人道』を外れるような真似をすれば、俺がこの手で、その銃ごと貴様を地獄へ送る」
「……光栄です、隊長」
俺は敬礼し、作戦室を退出した。
扉の外に出た瞬間、俺は力が抜けて壁に手をついた。全身から噴き出る冷や汗。一番隊の監視の目は、これからさらに厳しくなるだろう。
その帰り道、訓練場の廊下でレオが待っていた。彼は無言で俺の横を通り過ぎる際、一瞬だけ足を止めた。
「……俺は納得していない。貴様の力も、技術も、そしてその瞳の奥にある『何か』も」
レオは顔をこちらへは向けず、背を向けたまま言葉を続けた。
「だが、次のランキング戦で、俺が貴様を正々堂々と叩き潰してやる。その時、貴様が隠している全てを暴いてやるからな」
それが、レオなりの「戦友への宣戦布告」だと分かった。
ランキング戦という名の戦場は、魔神災害よりも過酷なものになりそうだ。
控室に戻ると、マナトが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ケンジさん! ランキング戦の次の課題が決まったみたいです! 次は……魔神の力が隠された『地下迷宮』の攻略だって噂ですよ!」
俺は端末を握りしめる。
凛からの警告が、頭の中でリフレインする。――『次は、あなたの魔神の力を引きずり出すような、エグい仕掛けがくるわ』
俺の掃除仕事は、まだまだ終わりそうになかった。
第23話をお読みいただきありがとうございました!
ガドル隊長との緊迫した駆け引きを描きました。完全に信じ切ってはいないけれど、ケンジの実力を認めて「見守る」という、一番隊らしい厳しい距離感を出せていれば幸いです。
そしてレオの宣戦布告により、ランキング戦はさらにアツい展開へ。
次回、地下迷宮編がスタート。そこはケンジにとって、自分の正体と向き合わざるを得ない「最悪の舞台」となります。
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