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君だけに恋を囁く  作者: 煙々茸
君恋 第一章
6/9


「日野。状況は?」

 階段の下で俺を待っていたのか、おろおろしている日野が目に入って声を掛けた。

「あ、店長! それが、全然状況は変わらなくて……」

 フロアにいる他の客も、困惑した面持ちでトイレの方へ視線を向けていた。

「受け取るくらいイイじゃないですか! 折角ミホが頑張って作ったのに!」

「そうですよ! 昨日から徹夜で作ったんですよ!? この子の努力を無下にするつもりですか!?」

 死角になっているトイレの入り口に近付くと、同じ制服を着た女子高生が三人、小笠原を取り囲んで訴えるような文句を投げかけていた。

 一人は泣いているのか目元にハンカチを押し当てている。

「ごめんね。でもお客様からの差し入れは受け取れない決まりになってるから……」

 彼女等の気迫にさすがの小笠原も思い切り困り果てているようで、言い聞かせるはずの言葉がどことなく弱い。

 受け取らないではなく、受け取れないと言い回す辺り、彼らしい優しさだと思うが、それを聞き入れてくれる事はどうも無さそうだ。

「だから! 今回だけでいいって言ってるんですよ!」

「受け取ってくれるまで、私たち動きませんから!」

 二人の友人の後ろで泣いている彼女の手には、可愛くラッピングされた包みのような物が握られていた。

 許可してやりたいが、これを許したら他の客に示しがつかない。

(――仕方ねぇ……)

 俺は状況を瞬時に把握し、ある考えを頭に浮かべで騒ぎの中心へ歩を進めた。

「小笠原」

 彼を呼ぶと、一斉に視線が俺に向けられた。

 珍しく救いを求めるような小笠原の視線に、つい苦笑を零してしまいそうになる。

「店長……」

「お前、休憩に行って来い」

「え……? や、でも……」

「いいから」

「……」

 自分が招いたこの修羅場を、放り出していくことに納得がいかないのだろう。

 普段のお調子者が苦痛に眉を寄せているのを見るのは、俺だって気持ちのイイもんじゃない。

 それでも覆らない俺の命令に、渋々ながらも納得したようで、小さく頷いてこの場から離れて行った。

 近くまで来ていた日野に背中を押されて歩く小笠原を一瞬視界に入れてから、俺は未だ納得のいっていない様子の女子高生たちに視線を向けた。

 店の長である俺が出てきたことで、バツの悪そうな表情を浮かべている。

「――それ、こちらに渡してもらえますか?」

 ハンカチを握り締めている彼女に、俺は右手を上へ向けて差し出した。

 すると、それを悪い方へ捉えたのか右側に立つ女子高生が彼女の前に一歩踏み出した。

「ちょ、もしかして……捨てるつもりですかっ?」

 そう来るだろうと思っていた俺は、薄く浮かべた笑顔を絶やさないまま首を横に振る。

「いいえ。私が預かって彼に渡しておきます」

 言われた事が良く理解できないのか、彼女等は互いに顔を見合わせている。

「で、でもさっきは受け取れないって……」

「ええ。ルール違反です」

「じゃあどうして……」

「もちろん、今後はありません。今回のみ、私を仲介役とさせて頂けるのであれば特例で認めるということです。――どう致しますか?」

 友人の後ろに隠れている彼女に視線を向けて、努めて優しく問い掛けた。

「ミホ! 折角だし渡してもらいなよ!」

「うんうんっ。絶対その方がいいって!」

 友人等に説得されながら、涙で目元を赤くした彼女が遠慮がちに視線を向けてきた。

「……じゃあ、すみません……お願いします」

 か細い声で紡ぎながらそろそろと差し出された包みを、俺は丁寧に受け取った。

「はい。確かに」

 そして腰を軽く曲げ、彼女の視線の高さまで顔を持ってくると、俺は諭すように囁きかけた。

「それじゃあ、今後は気をつけて。彼をあまり困らせないようにね」

「は、はいぃ……」

 目を丸くして、彼女の上擦ったような返事には心中で首を傾げたが、承知してくれたなら良しとしよう。

(説得成功。――アイツは大丈夫か……?)

 俺はスタッフルームで休憩しているはずの小笠原に意識を向けつつ、戻ってレジ打ちをしている日野と、心配そうに様子を見ていた客達に声をかけながら二階に舞い戻った。



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