6
入って早々、弱り切った顔で小笠原が駆け寄って来た。
「優ちゃんごめんっ。女の子達は? 大丈夫だった??」
「ちゃんと注意してきたぞ。問題ねーからそんな顔すんな」
必要以上に近付けてくる小笠原の顔を、俺は塞がっていない方の左手で制して右手に持つ包みを彼に差し出す。
それを見下ろす小笠原の目が見開いた。
「コレ……」
「預かって来た。どうしてもお前にもらってほしいんだと」
「え? でもそれじゃあ……――」
「ルール違反だな。ま、今回は特例を出したから、これっきりだぞ?」
「優ちゃん……」
安堵したのか、それとも何か感動でもしているのかジーンとした表情を浮かべて視線を寄こす小笠原の額を、俺は指先でピンと弾いた。
「だから、店長だっつってんだろッ」
「イタタ。てんちょー酷い」
「うるせー。――それより、なんでああなったのか聞かせてもらおうか」
額を押さえながら唇を尖らせる小笠原の横を通り、ガタッと椅子に腰かけた。
(どうせ、忠告を無視して客用のトイレを使ったんだろうが……)
「て、てんちょーもしかして誤解してる!?オレあの時トイレには行ってなかったんスよ!」
「……そうなのか?」
「やっぱり誤解されてた!」
ショックを受けながらも俺の隣にガタガタと椅子を引きずってきて座る小笠原に視線を投げる。
「じゃあ、なんであそこで揉めてたんだ?」
「バスコーナーで商整してたら急に声掛けられて、そしたら腕掴まれてそのままズルズルと……」
「拉致られたのかよ」
「うん……」
バス雑貨コーナーはトイレに一番近い場所にある。
そこで狙われたのなら仕方がないが……。
「油断しすぎだろ。今度からはちゃんと抵抗しろよ?」
「したっスよ」
「お前は、女の子に甘過ぎるからなあ」
受け取った可愛らしい包みを開きにかかる相手に溜息を零す。
「何言ってんスかー。心配しなくても、オレは優ちゃんにも全力投球っスよ♪」
「誰も心配してねーって。全力投球って何だ」
「お。プチタルトだ。優ちゃん見て見てタルトっスよ!」
プレゼントの中を覗いて嬉しそうに声を上げる小笠原。
(まあ、あの女子高生には申し訳なさもあっただろうから、はしゃいでも無理はねーけど……)
「お前は、いつまでそう呼ぶ気だ? コラっ」
相手の頭へ片手を伸ばし、ガシガシと髪を乱してやる。
「ちょわ!? セットが崩れる! たんまたんまー!!」
慌てて髪を庇う小笠原を、ざま―見ろと鼻で笑ってやりながら、俺はガタッと椅子から腰を上げた。
「あれ。てんちょーは休憩しないんスか?」
「する。けど、まだ仕事の途中なんだよ。誰かさんのお蔭で食い逃すかもなあ」
「うっ」
しょぼくれる相手の頭を見下ろす。
「あ、そいやあ」
「ん?」
「事務室のノーパ、あるだろ。あれのデスクトップ画変えてんのお前か?」
きょとん。
小笠原も日野と同じ表情を浮かべている。
「え、違うのか?」
「うん。オレじゃないっスよ? それにオレ、店のパソコン使う機会あんまないっスから」
言われてみればそうだ。
小笠原にはパソコンでの処理仕事は任せていない。
メールチェックくらいならたまに頼むが、それだけだ。
(じゃあ、誰が……)
俺は眉を顰める。
オーナーである神条さんは地方へ飛び回っていて不在だ。
料理長の木村はあまり事務室に足を踏み入れない。
(ちょっと待て。誰が……って、もう一人しかいねーじゃねぇか!)
しかし、腑に落ちない。
消去法で導き出された人物こそ、一番あり得ないと思っていたからだ。
(ああいう趣味だったのか? そいやぁ俺、あの人のことあんま知らないな……)
プライベートのことを話したのは数える程度な気がする。
「てんちょー? どうしたんスか?急に黙っちゃって」
「……ああ、悪い。大したことじゃねえから。――俺今日通しでいるから、四時までに休憩もらうな」
「りょーかいです」
夕方からのカフェ開放時間に合わせて、少し遅めの昼休みを――事務処理が終わったら取ることにした。
A帯P帯の通しはキツイが、人員不足を補うためには仕方ない。
プチタルトを頬張っている小笠原を残して、俺は再び事務業に勤しむために隣の部屋へと向かった。




