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「英店長は何飲みます?」
「あ……?」
先を行く津田を見ると、自動販売機の前に立って小銭をそれに入れていた。
「今日は奢って差し上げますよ。ホットがいいですか?」
「あ、あぁ……じゃあ、レモンティーで」
「了解です」
暗がりの中に佇む自動販売機の明かりを頼りに、奢ってもらった飲み物を受け取る。
津田はスポーツドリンクを買ったようだ。
「ふぅ……。コレ、久し振りに飲みました」
「そうなのか? まあ、お前のイメージじゃないもんな」
「ハハ。俺ってどんなイメージを持たれてるんですかね」
「コーヒーとか、紅茶。ワインも似合いそうだな」
「それは英店長でしょう」
レモンティーと他愛の無い話に、すっかり落ち着きを取り戻した。
今なら冷静に考えられそうだ。
津田もそのつもりだったのか、慎重に言葉を選ぶように静かに口を開いた。
「昔がどうだったかとか、俺には分かりません。でも、今の榊店長のことまで否定しないであげて下さい」
「……」
否定、していただろうか。
自販機の明かりに照らされる手の中の缶に視線を落とす。
(確かに、あの人の気持ちを知った時はビックリしたけど、否定したつもりはないはず。拒んできたのだって俺の気持ちが追いつかなくて、どうしたらいいのかさえ分からなくて混乱してて……。それが、端から見たら否定しているように見えたってことなのか? ――分からん)
「要は、自分の内に入れるか入れないかですよ」
俺の思考を読み取ったかのように津田が柔らかく告げた。
「内に……?」
「はい。好きか嫌いかで考えるのではなく、自分が張っている結界の中に、入れてもイイ人間かどうかです」
「俺って結界張ってるように見えるか?」
「見えますね」
(即答!?)
「というか、誰でも張っているものですよ。ただ、英店長の場合はそれが少し厚いというか……。厄介なものではありますね」
「……そんな風に見えるのか、俺」
「きっと、プライドの高い人は特にそうなのかもしれません」
(内に入れても良いか否か、か……。仕事では信頼できる人ではある。それは認める。けど、れ、恋愛とか……? そういう気持ちで考えると……っ)
顔が熱いのはホットレモンティーのせいだと思い込むことにして、俺は小さく息を吐いた。
「分かった。ちゃんと話してみる」
「英店長……」
「だからって、心境が変わるとは限らないけどなっ。……それでも、まあ…向き合うことくらいはする」
そうしないと、気持ちが晴れないままだ。
「はい、是非! お願いします」
「お前にお願いされることじゃねえと思うけどな……」
津田が妙に嬉しそうで、なんだか照れ臭い。
首の後ろを擦って視線を彷徨わせる。
「――そういえば、神条さんとは話せたのか?」
結局、午後合流するはずの神条さんは夕方になってしまい、夕飯を一緒にとることしか出来なかった。
「はい。まあ、まだ物足りない感はありますが、そこそこお話できましたよ」
「良かったじゃねえか。一応明日も一緒に帰る予定だから、また話せるといいな」
そうですね、と笑う津田は少し控え目に見えた。
やはりオーナーを前にすると緊張するということだろうか。
(そいやあ俺、前ほど神条さんと話しても何とも思わなくなったな。もちろん嫌いになったわけじゃないし、凄い人だと今も思ってるけど……。なんでだろうな)
少し前までは気恥しさや変に嬉しくなる気持ちがあったのだが、久し振りに会ってみてその感情がぶわっと出て来ることがなかったことに驚いている。
(時間が解決してくれることもあるんだな)
今は気持ちが凄く軽く感じる。
「そろそろ戻るか」
「そうですね。お風呂に入りそびれてしまいますから」
飲み終わって空になった缶をゴミ箱に捨て、来た道を二人で引き返した。




