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君だけに恋を囁く  作者: 煙々茸
君恋 第七章
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 * * *


 夜になると少し肌寒く感じる。

 俺は宿を出て暗い夜道を一人で歩いていた。

 他のメンバーは今頃風呂や部屋で寛いでいるだろう。

(あの人の傍にいると、息が詰まるんだよな。正直片山さんとも顔合わせ辛いし……。てか、どんな顔したらいいのかわっかんね)

「いや、いつも通りでいいんだろうけど。でも……」

 そう簡単にはできそうにない。

「はぁ……」

 溜息をついたとき、背後で靴音と砂利の擦れるような音が聞こえた。

(! ……なんか、前にも同じような事あったな)

 嫌な記憶が脳裏を掠めた時、聞き覚えのある笑い声が届いた。

「一人で溜息なんかついて、どうしたんですか?」

「――なんだ、お前か。驚かせるなよ」

「へえ? 驚いたんですか。普通に声をかけたつもりなんですが。失礼しました」

 ストーカー被害に遭った記憶が新しい俺にとっては、十分過ぎる恐怖だ。

「津田こそ、こんな時間にどうしたんだ?」

 暗がりから現れた津田が俺の隣に並ぶ。

「ちょっと外の空気を吸いに。昨日はこの辺りあまり歩かなかったもので、一人散歩ですよ」

 一人散歩とは、らしいといえばらしいが……。

「それで」

「ん?」

「溜息の原因はなんです?俺で良ければ話、聞きますよ」

 忘れてくれて良かったのに。と俺は顔を顰めた。

「……大したことじゃない」

「そうですか? 俺には深刻そうに聞こえましたけど。――もしかして、」

「……?」

「気になる人のことで悩みでも? 同じ立場の……」

 隣を優雅に歩く津田に目を剥く。

「何で俺があんな人の……――っ」

 口にしてシマッタと眉間に皺を寄せた。

「ハハっ。直ぐ誰だか思い当たるなんて、相当気にされてるんですね。榊店長のこと」

 そうだ。

 津田という男はこういう奴だった。

 勘が妙に働くというか、人間観察に長けているというか……。

 押し黙る俺に、何かに気付いたように津田は眉を上げた。

「言っておきますけど、少し見ていれば分かることですからね? 勘とか観察眼はほとんどなくても気付きます」

「え……?」

「とは言え、英店長のことを知っている人間にしか分からないことかもしれませんが」

(そんなに俺って分かりやすいの!? なんかショックなんだけど……)

 片山さんに続いて津田にも見抜かれていたなんて……。

 軽く自分の額を押さえる。

 恥ずかしさと情けなさで眩暈がしそうだ。

(いや待てよ? 前に小笠原にも似たような事突っ込まれたんだし、当然なのかコレ。それはそれで嫌な事に変わりねーけど……)

「ね? 話してみませんか?」

 声を弾ませて言う津田は、どこか楽しそうだ。

「他人事だと思って……」

 と呟くと、それは少しばかり真剣なトーンに変わった。

「そんなわけないじゃないですか。同じ仕事をする仲間の問題ですよ? 影響が出ないとは言い切れないでしょう」

「それは……そうだけど……」

「あの人の何が不満なんです?」

「いや、不満とかそういう問題じゃ――」

「ならどうしていつも顔を顰めてるんですか?彼ほどイイ男、そういないと思いますけど」

(ああそうだ。コイツは榊さん贔屓だったッ)

 折角の散歩が説教タイムと化しそうだ。

「仕事だって誰よりも完璧にこなしますし……まあ極稀に失敗することもありますけど、そんなもの人生の内二、三回程度ですから失敗した内に入りません」

(……ああ、前俺が体調崩した時に珍しく何かやらかしたって言ってたやつか)

「それに、大学だってレベルの高いところ出ていますし」

(それは俺も同じ出だけどな。入れ違いではあったけど)

「何より! プライベートでも清潔感があって朝食は毎日ブレンドコーヒーを欠かさず飲んでいるんです!」

(あの人、簡単な物しか作れないから朝はコーヒーとかトーストで済ませてるんだよ。――つか、そこまで熟知してんならもうお前が貰ってやれよ)

 というか、そんなプライベートを聞かされてもどうなんだって話だが。

 もう突っ込む気も起きない。

「ま、冗談は置いておいて」

(本当に冗談だったのか……?)


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