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君だけに恋を囁く  作者: 煙々茸
君恋 第六章
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 三十分ほど走って二号店の駐車場にマイクロバスは停車した。

 開いたドアから外に出ると、丁度店から榊さんたちが姿を現した。

「おはようございます」

 そう声を掛けると、先に出て来ていた津田が挨拶を返してきた。

「英店長、おはようございます。三日間宜しくお願いします」

「こちらこそ、騒がしい連中も一緒ですが、どうぞ宜しく」

「あはは。賑やかでいいじゃないですか」

 軽く笑い飛ばしてくれる津田には救われることが多い。

 荷物はどうしたらいいかという問いには、座席に余裕があるからそのまま持って乗り込んで構わないと伝えた。

 次に声を掛けて来たのは高屋だった。

 しかも、目が合うなり駆け寄って来る始末。

(朝から元気な奴だな……)

 吐き出しそうになる溜息をなんとか飲み込む。

「朝から目の保養♪」

「……第一声がそれか」

「言いたい事は言わないと、ストレス溜まるでしょ?」

「そういうことじゃないだろ……。観賞代でも貰うか」

「え……。俺が買っちゃっていいんですかあ!?」

 急に身を乗り出してきた高屋から、一歩引いて眉を寄せる。

 これは確実に飛躍されている。

 俺は今度こそ溜息を吐いた。

「――さっさと乗らないと、どうなっても知らないぞ」

「どうなっても知らないなんてっ、大胆!」

(ダメだコイツは……)

 小笠原よりも厄介な人種かもしれない。

 頭を抱えたくなるのを堪えて、俺は彼の後ろに人差し指を向けた。

「ん? なになに? ……――あ」

 振り返った瞬間、高屋の肩がビクリと跳ねた。

 そこには無表情のまま佇む榊さんが居たからだ。

「何をやっているんだお前は」

「……は、英店長に……挨拶を……です……」

 高屋には悪いが、ライオンに追い詰められた子鹿の様で笑えた。

「乗らないなら置いて行くまでだ」

「やっ、待って下さいって! 乗りますからぁ!」

 慌ててマイクロバスに乗り込む高屋をクスクスと声を顰めて笑う。

「さすがですね、榊さん」

「俺は上司だ。これくらい当然だろ。お前はなめられ過ぎじゃあないのか」

「嫌われてるよりマシですよ」

 俺の言葉に榊さんが目を眇めた。

「嫌われてる? それは誰のことだ」

「すみません、失言でした」

 両手を胸の前で広げながら苦笑混じりに謝罪すると、榊さんは顎をバスの方へクィと軽く癪った。

「俺達もさっさと乗るぞ」

「そうですね。今日から三日間、宜しくお願いします」

 宜しく、と返す榊さんの後を追って、俺もバスに乗り込んだ。

「それじゃあ出発しまーす。忘れ物があっても引き返すことはできないんで、その時は諦めて下さーい」

 皆が座席につき、そう声を掛けたところでバスは走り出した。

「隣いいか? 少し打ち合わせをしておきたい」

 少し走ったところで榊さんが声をかけてきた。

 俺は座席に乗せていた荷物を足元に移動させた。

「どうぞ。――あ、そういえばニ号店のシェフは不参加なんですね」

 名簿にも載っていなかったから分かってはいたが、少し気になって訊いてみた。

 空っぽになった座席に、榊さんが腰を下ろしながら頷いた。

「やっと店を閉められるってことで、家族で旅行だそうだ」

「あぁ、なるほど」

 それは不参加で当然だ。

 本当なら会社の行事ということで参加は義務のようなものだが、ここのオーナーの方針は自由参加がモットー。

 親睦なら十分できているし、無理に参加する必要はないという考えの人だ。

(とはいえ、自由過ぎるよな)

 これ以上は突っ込むまいと決め、一度仕舞った予定表を再度取り出した。

「お前はどうして参加したんだ?」

「え……」

 また唐突な質問に何て答えようかと一度口を閉じる。

「えーっと、俺の役職ご存知です?」

 小笠原辺りが破目を外し過ぎないように監視する必要がある。

 片山さんや木村さんもいることだし、大丈夫だとは思うが……。

 そもそも、店長なのだから参加しないわけにいかないだろう。

 たとえオーナーの方針を半分背くことになってもだ。

 今度は榊さんが呆れたように呟いた。

「当たり前だ。……理由はそれだけなのか?」

「と、言いますと?」

「……いや、それだけならいい」

 眼鏡を押し上げて自分の手元の資料に視線を落とした榊さんに、俺は小首を傾げた。

(いまいち掴めない人だな。他に理由って……みんなとわいわいしたいから、とか? 俺はそんな柄じゃねえっつの)

 心中で突っ込みを入れたところで榊さんとの打ち合わせが始まった。


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