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君だけに恋を囁く  作者: 煙々茸
君恋 第六章
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 今は秋。

 ――の、はずだ。

「九月だってのに、あっついっスね~」

 小笠原の言うとおり、九月に入っても残暑が厳しい。

 少しはマシかと思うのは、見上げた先にある太陽が僅かながら遠く感じられるからだ。

「ま、ここを離れればもっとマシになるだろ。早く乗れ」

「はいは~い」

 私服姿の小笠原をマイクロバスへと追い立て、俺も最後に乗り込んだ。

 アンティークショップ&カフェ【アヴェク-トワ】一号店四名。

 今日から社員旅行。

 行先は……――。

「旧軽井沢って、僕初めてなんですよ。店長は行った事あります?」

 俺の後ろに座った日野が声を掛けて来た。

 鞄から予定表を取り出しながら俺は首を振る。

「長野自体初めてだな」

「そうなんですね。あとからオーナーも来るんでしょう?」

「ああ。今回ばかりはあの人も来るだろ」

「オーナーの御親戚の方が経営している民宿でしたよね。でも良く貸し切りにしてもらえましたね~」

「先月までは書き入れ時だったみたいだからな。それをずらしてくれさえすれば、いいってことになったらしい」

「さすが避暑地。相当混むってテレビで見た事ありましたよ」

 うんうんと深く頷く日野に、俺は小さく笑いを零した。

「……何です?」

「いや、楽しそうだなと思って」

「当たり前ですよ! 店長は楽しくないんですか?」

「楽しいっていうか……、やっと仕事から解放されるなとは思うかな」

「アハハ。フェア終わっても少し忙しかったですもんね」

 日野の同情からの苦笑いに、まったくだと俺は冗談混じりに肩を落とした。

 そう、行先は長野県軽井沢。

 少し遅れての避暑地巡りだ。

 予定は二泊三日。

(無事に帰って来られるといいけどな……)

 なんせ、あの二号店と合同旅行なのだ。

 何も無い、と言い切ってしまえたらどんなに楽か。

「……はあ」

「ちょっとちょっと! 優ちゃん暗~い!」

(!?)

 隣に置いておいた鞄が持ち上がり、代わりに腰を下ろしてきた小笠原に俺は目を丸くした。

「……吃驚させんな。お前の席はもっと後ろだろ」

「え~、いいじゃん♪ 折角の旅行なんだし、楽しく行こうよ」

 俺の鞄を膝に抱えて、ニコニコと心底楽しそうな顔に目を眇める。

「楽しく、ねぇ……。俺を解放してくれたら、全力で楽しめると思うんだけど」

「ちょ、ひっど! オレそんな束縛してないっスよ!? ……ちょ~っぴりだけ独占したいなーと思うくらいで……」

「思ってんなら同じことだろうが」

 溜息混じりに呟きながら、手元にある予定表に視線を落とす。

 これから二号店の連中を拾ってから軽井沢へと向かう。

 宿に着くのは夕方になるため、本格的な観光は明日からになる。

(そいやぁ、部屋割ってどうなってんだろうな)

 宿に関しては現地に行けば分かるとしか知らされていない。

(個室か、大部屋か……。できることなら一人でゆっくりしたいよな)

 団体行動に反する思考であることは、口に出さなければ問題ないだろう。


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