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「優ちゃん飲んでるー?」
「ああ。お前程じゃあないけどな」
「いやいや、オレは酔い易いだけ。まだほんの二、三本しか開けてないっスもん」
「十分だろうが」
俺の隣が空いたところで小笠原が上機嫌に腰を据えた。
「さっき話してた人って、二号店の新顔くんと津田さんっスよね」
「ああ。……って、見てたのか」
「つい視界に入っちゃうんスよ。優ちゃん目立つから、いろいろと」
「いろいろって何だ」
それには答えずにケタケタ笑う小笠原。
(コイツ、かなり酔ってんな……。また日野に迷惑かけるんじゃないだろうなあ)
もちろん、俺は御免だ。
面倒だし、家に送るにしても方向が違う。
「小笠原、もう程ほどにしとけよ」
「えー。オレまだ優ちゃんと飲んでないっスも~ん」
「ちょ、重い……!」
くてんと俺の肩に頭を乗せて来た。
「オレと飲んれくれるまで、離れないっスよ」
「呂律回ってねーじゃねえか!」
押し退けようとするも、更にグリグリと頭を押しつけられて、体重を支え切れずに俺の体が傾いた。
――トンっ。
そのままドミノ倒しのように片山さんの肩に頭をぶつけてしまった。
「あ、すみません」
「いえいえ。大変ですね、お守も」
「ははは。まぁ、いつものことですが」
小笠原に聞こえないように小声で話す。
空笑いの俺に対して、片山さんはどことなく楽しそうだ。
「片山さんもちゃんと飲んでます?」
「飲んでますよ。――あ、注ぎます。店長」
「え……ああ、すみません」
片山さんが傾けて来た物に、俺は一瞬目を丸くした。
「……烏龍茶?」
「ええ。そろそろ、休憩したいんじゃないかと思いまして」
確かに、さっきからビールばかり飲んでいる。
全然酔ってはいないが。
「気が利きますね。さすが片山さんだ」
「そんな褒めることじゃないですよ」
グラスのビールを綺麗に飲みほしてから、片山さんに烏龍茶を注いでもらう。
「ありがとうございます」
「いいえ」
片山さんと微笑み合った俺の後ろで、小笠原が唸りを上げた。
「優ちゃんオレのことも構ってよー。構ってくれないとぉ……チューするよ」
ぴくりと俺の片眉が跳ねた。
肩越しにある小笠原の顔をチラリと見遣る。
「お前は、構わなくたってしようとしてくるじゃねえか」
「なぁんだぁ。分かってくれてるなら、遠慮はいらないっスね~」
「遠慮はしろ!」
「ンゴッ!!」
今度こそ、小笠原の顔を押し退けることに成功した。
そこへ、日野が苦笑いを浮かべながらやって来た。
「もー。絡み酒はダメだよ、清ちゃん」
「日野ちゃーんッ。優ちゃんが構ってくれなーい」
「僕が代わりに構ってあげるから、ね?」
「ひ、日野ちゃん……」
苦笑を浮かべながらも小笠原の頭を撫でる日野。
この構図はもう見慣れた。
「あ、そうだ」
「店長?」
俺はあることを思い出して視線を巡らせた。
そんな俺に日野が首を傾げた。
「あー、いたいた。前川!」
フェア期間中、アルバイトに入ってくれていた前川に手招きした。
俺に気付き、ジュースの入ったグラスを置いた前川がやって来た。
グラスの中身が酒だったとしても違和感のない、高校生離れした風格だ。
「何ですか?」
「みんなに伝えておこうと思ってな」
「あ、はい。お願いします」
何のことか本人には分かったようで、俺の一歩下がったところに前川は腰を下ろした。
「前川のことだけど、引き続きバイトに入ってもらうことになったから、みんな宜しく頼むな」
「おお。マジっスか! すっげー助かるじゃん♪」
日野に慰めてもらっていた小笠原がテンション高らかに声を上げた。
隣にいる片山さんも、少し驚いているようだ。
「急に決まったんですか?」
「本人も少し迷っていたようですが、折角いろいろ覚えてもらったので、迷っているなら是非にと、俺がお願いしました」
俺の答えに、片山さんも異議はないといったように前川と挨拶を交わした。
日野も予想通りの反応を見せる。
「これから宜しくねー」
ニコニコしながら告げる日野に、前川も表情を崩している。
(初めて見たかもな。前川がこんな優しい表情するの……。まあ、日野は誰にでも好かれるタイプだしな)
ふたりを見ていたら微笑ましくなった。
「久し振りに飲み過ぎたか……」
トイレに立って、少しだけ外の空気を吸おうと店を出る。
(ここって結構暗いんだな。周りに店があんまり無いせいか)
店から少し離れれば、きっと星が綺麗に見えることだろう。
この時間は入る客よりも出て行く客が多い。
それだけ時間が過ぎていた。
(そろそろ高校生の前川は帰らせて、残ったやつは二次会か? あれ、二次会やんの?)
小笠原辺りが騒ぎ出しそうで少しだけ口元が引き攣った。
(……ん?)
少し離れた物陰で、何かが動いた気がした。
「猫……か?」
(いや、それにしては大きかったような…)
見に行こうと一歩踏み出した時、店の戸が開く音がした。
「あ、榊さん。榊さんも空気吸いに来たんですか?」
何も言わずに俺の隣に立った彼をちらりと一瞥する。
「まあな」
「そうですか……」
「……っていうのは口実で、真意は優一と二人きりになりたかったからだ」
ギョッとして彼を見上げる。
(え、それ、サラッと言っちゃう!?)
「お前にはハッキリ言わないと、伝わらないからな」
(っ!?)
ぷぃと顔を背けて、榊さんには聞こえないようにぼそりと呟く。
「……勝手に(心)読むなよなっ」
酒で少し火照った体を冷ますどころか、変に熱くなってくる。
(落ち着け! 俺!)
下を向いて石段を見つめながら時間をやり過ごす。




