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君だけに恋を囁く  作者: 煙々茸
君恋 第三章
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 そして、翌日の試食会。

 二時には店を閉めてスタッフ全員に集まってもらい、木村さんが用意してくれたメニューを少しずつ食べながら意見交換をしていく。

「――と、いうわけで、他に意見のある人ー?」

「はい」

 日野がスッと手をあげた。

 それに俺は頷いて意見を促す。

「あの、これにゼリーを加えてみてはどうでしょうか」

 日野の言葉に促され、テーブルにあるかき氷の入ったパフェにみんなが注目した。

「ゼリーいいっスね!」

 と、小笠原が賛成した。

「確かに、一口サイズにすれば女性や子供受けもするだろうし……。味もいろんな種類を提供すれば、全体的に華やぐ」

 俺も意見を交えながらふむふむと頷いた。

「なら店長、一口サイズのゼリーを凍らせてみるのはどうでしょう。また違った触感のシャーベットになって楽しめると思いますよ」

「それいいっスね!」

「そうしましょう!」

 木村さんの意見に小笠原と日野が声を揃えて賛成してくれて、片山さんも静かに頷いていた。

「じゃあ決まりだな。あと、昨日言っていたユニフォームの件だが、オーナーに伝えたら用意してくれるそうだ。フェアの数日前には届くから、そのつもりでいてくれ」

 無事にフェアのメニューも数品決まり、予定よりも早く試食会を終わらせることができた。

「よっしゃ! じゃあこのままみんなで飲みに行きましょう!」

 立ち上がって声を上げた小笠原に、他の面々が顔を見合わせる。

「僕は大丈夫です」

「自分も、特に予定は入っていないので」

 日野と片山さんの賛同を得て、小笠原が更にはしゃぎ出す。

「てんちょーは強制参加ってことで!」

「おいコラ待て。何で俺だけ強制なんだ!」

「てんちょーだから」

「答えになってねーよ」

 ケロッと返してくるコイツには怒りを通り越して呆れる。

 俺は一つ溜息を零しながら肩を竦めた。

「分かった。ただし、明日もシフト入ってる奴は飲み過ぎないようにな」

「優ちゃんは真面目すぎー」

「お前に言ってんだ小笠原!」

 仕事が終わって早々、呼び方を変えてくるちゃっかり者を俺は睨みつけた。

 が、もちろん効き目はない。

「じゃあオレ場所取り行ってきまーす。いつもの店でいいっスよね」

「あ、待って。僕も行くよ」

「日野ちゃんありがと!」

 着替えるためにスタッフルームへ向かう二人を見送る。

(あの二人、仲いいよなー。普段も飲みに行ってるみたいだし)

 前に酔った小笠原を家まで送ったとか、日野が苦笑いを浮かべながら言っていた。

 ふと視線を巡らせると、片山さんはやり残した仕事を片付けていた。

(一番真面目なのはこの人だよな、絶対。明日に回してもいい仕事なのに)

 彼の真面目さが少しでも小笠原にもあればいいのにと苦笑を滲ませた。

「片山さん。俺達もほどほどにして行きましょうか」

 あまり待たせると文句を言う奴が一名いることを頭の隅に浮かべながら、仕事の資料を抱えて席を立った。

「木村さんの方はどうですか? 急がないと小笠原の奴が騒ぎますよ」

 厨房で働くコックコート姿の彼に声を掛けた。

「私は明日の仕込みがあるので、このまま残ります」

「あ。なら、何か手伝いましょうか?」

「いえいえ、店長はみんなと楽しんで来て下さい。一人で事足りるんで問題ないですから」

「そうですか? ……じゃあお言葉に甘えて。戸締りだけお願いします」

「了解ですよ。気を付けて行ってきて下さいね」

 いつもと同じ柔らかい笑顔をこっちに向けてから、木村さんは明日の仕込みへ集中した。

 スタッフルームで着替えを済ませ、片山さんと店を出る。

 行先は良く仲間内で利用する行きつけの飲食店だ。

 定食はもちろん、座敷で焼き肉もできるため、家族連れや俺達のように飲み会なんかで利用する会社も多い。

「まったく。今日飲むって分かってれば車なんかで来なかったのに。今日は店に置いて帰るしかねーか」

 溜息混じりに呟くと、隣から小さな笑い声が聞こえてきた。

「大体予想はつきそうじゃないですか? 小笠原のことなんで」

「あー……まあ、そうなんですけどね……」

 俺は口元を引き攣らせる。

(最近考えることばっかで、アイツのことまで頭回らねんだよっ)

 歩いて十五分ほどの距離にある飲食店を目指し、俺と片山さんは暮れつつある空の下を歩く。

(大体、この人とも曖昧な状態なはず……。って、思ってるのやっぱり俺だけなのか?)

 今まで忘れていたが、カフェで彼と話して以来、事務室のパソコン画面が変更されることはなかった。

 片山さんが変えていたのは確かなはずだが、その理由が分からないままだ。

(――つっても、今更訊けるわけねぇしな……)

 訝しむように視線を向けていると、片山さんの視線が合わさってきて一瞬焦った。

「どうかしました?」

「あっ、いや、何でも……」

 俺は視線を戻して軽く拳を握る。

 もう考えないと決めたはず。

(いきなり二人きりになったせいだ! 今日は小笠原に奢らせてやるっ)

 怒りの矛先を無理矢理変えて、漸く見えてきた飲食店の入り口を睨みつけた。

「お。優ちゃんたち遅いっスよー!」

「……遅くはねぇだろ」

 入って早々、小笠原が俺達を見つけて手を振って来た。

「あれ? 木村さんは?」

「仕込みがあるから残ってくれてる。本当なら俺も残るべきだったんだけどな」

 座敷を陣取っていた小笠原と日野の間には、既に注文してくれていたらしい肉が煙を上げていた。

 グラスに飲み物は注がれていない。

 ちゃんと待っていてくれたことには微笑ましく思う。

「ダメっスよ! 優ちゃんはちゃんと来てくんないと!」

「お前は一々喧しいな。……片山さんもいるんだぞ」

 少しは気を遣った発言をしてもらいたい。

 俺は小笠原の隣に腰を下ろして、そう彼に耳打ちした。

 片山さんは日野の隣、俺の向かいに胡坐を掻いて座った。

 特に気にした様子がないことに安堵する。

「あ、もちろん片山さんも来てくれて嬉しいっスよ!」

(バカっ! なんでコイツは一々口にするんだ!? まったく)

 平気な顔して言って退ける小笠原。

 悪気がないことは分かるが、それがまた厄介でもある。

「それじゃあみんな集まったんで、始めましょう!」

 それぞれ飲みたい物を注文してグラスを持ち、勝手に進行する小笠原に視線を集める。

「フェアの成功を願って、かんぱーい!!」

 そして小笠原の音頭でグラスを打ちつけ合った。

「……って、なんで片山さんノンアルコール⁉」

「あ、本当だ。――今日はどうしたんですか?」

 彼がアルコールを避けることは珍しくはないが、それにはいつも理由がある。

「明日は俺も出勤なんで、飲まないようにしようかと」

「え……あー、アレは小笠原に言ったんですよ。気にせず飲んで下さい」

 店を出る前に確かに飲み過ぎるなと言ったが、飲むなとは言っていない。

 それを律儀に守ろうなんて、さすが片山さんだ。

(一番守って欲しいのはコイツなんだが……)

 視線を小笠原に向けると、既にビールを半分以上呷っていたことにげんなりする。

「そうですよー。僕は明日休みですけど、片山さんが飲んでくれないと申し訳なくなるじゃないですか」

「日野もこう言っている事ですし、一杯だけでも飲んで下さい」

 俺はビール瓶を片山さんの方へ傾けて勧めた。

 しかし、それを片山さんは手で制した。

「俺は本当に結構なので、お構いなく」

 プライベートでもこの真面目っぷりには感服する。

(いや、真面目ってより、堅過ぎるよな。店長命令って言ったところで、この人の場合そう簡単には折れないだろうし)

 傾けていたビール瓶を引っ込めて、俺は日野と顔を見合わせる。

「まあ、仕方ないですね」

「そうだな」

 日野と肩を竦めて小さく笑い合いながら、焼けた肉を器へ上げて行く。


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