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「お前、まだ好きなのか?」
「――え……」
「雪乃のこと」
一瞬息が止まった。
(――はあああああ!!?)
衝撃的すぎる発言に、目を大きく見開いて榊さんを凝視する。
(え? なん!? バレてた!!??)
金魚の如く口をパクパクさせる俺に、隣から溜息が聞こえてきた。
「俺が気付かないわけがないだろう。一応お前の教育係だったわけだしな」
そうだったとしても、他のスタッフにもバレていないようなことを、この人はそんな最初の頃から気付いていたというのだろうか。
知られていた事の事実に、恥ずかし過ぎて頭が真っ白になりそうだ。
「……その様子だと、まだ好きってことか」
「ちがっ! ……あ、いえ……」
(俺は今何を言おうとした?)
確かに、神条さんのことを考えると、まだ引っ掻かるところがある。
でも、もう好きの意味が違ってきている気がするのだ。
それをどう伝えたらいいのか、俺には分からない。
パクリっ。
俯いて甘いパンを頬張る。
「もう少し何かが必要ってことか」
「……?」
何気なく呟かれた榊さんの言葉。
俺はもぐもぐと口を動かしながら怪訝そうに彼を見た。
「雪乃に恋人ができたことは、知ってるんだろ?」
俺は静かに頷いて先を促す。
「なら、他の人間に意識が向けば、自然と雪乃のことも忘れられるかもしれないよな」
「え……それは、そうかもしれないですが……」
――ガタッ。
急に立ち上がった榊さんに俺は目を丸くした。
「さ、榊さん……?」
そして俺の方へ手を伸ばしてきた榊さんが俺の座る椅子の背凭れを掴んだ。
もう片手はテーブルに置かれて、一気に距離を縮める。
「あ、あの……何か……?」
眼鏡の向こうの瞳がジッと俺を見下ろす。
「お前さ。小笠原とどうなってるんだ?」
「――……はい? おが、小笠原……?」
急に出てきた名前に呆気に取られる。
(何の話してんだ? この人は……)
「お前見てるとアイツにだけは甘いように見えるんだが、お前は雪乃が好きなんじゃないのか?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「アイツを使って雪乃を忘れようとしているなら、止めておけ」
「はあ? あの、俺は小笠原のことは何とも思ってないですよ」
「嘘を言うな」
「!? う、嘘じゃないです!」
何をムキになっているのか知らないが、勝手な想像で責められるのには納得がいかない。
(何で俺が小笠原とどうにかならないといけねーんだ!)
確かに親しみやすい相手ではある。
気を許してしまうことも無いとは言い切れない。
でも、アイツにだけ甘くしているわけでは決してない。
「榊さんも見てたでしょう? 棚卸しの時、アイツとのやり取りを!」
残業を突きつけたり。――まあこれはアイツが悪いのだが。
面倒なアクセコーナーをやるよう指示したり。――これは話の流れでたまたまやってもらうことにしたのだが。
コレを見て、どう甘やかしていると思えるのだろうか。




