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君だけに恋を囁く  作者: 煙々茸
君恋 第二章
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 ――そして一時間後。

「さすがに疲れた……」

 俺は音を上げた。

 一番疲れたのは目だ。

 目から脳が一番疲労困憊している。

(少し休憩するか)

 眉間辺りを揉み解しながら電気ポットの前まで来てコーヒーを淹れた。

 そのまま中央のテーブルまで運び、椅子に腰かけてゆっくりコーヒーを啜る。

「――はぁ……美味い。けど……」

(あんまりこうしてると寝ちまうだろうな……)

 コンコン……――

 ぐったりと背凭れに体を預けながらぼんやりしていると、扉がノックされた。

(あれ。俺一人のはず……だよな?)

 そう思っていると、次いで掛かる「入るぞ」という声にビクッと背筋が伸びた。

 躊躇うことなく扉が開く。

「! ――榊さん……。帰ったはずじゃ……?」

 驚き過ぎてテンポが遅れる。

 入って来たのは仕事姿のままの榊さんだった。

「一度俺の店に戻って、その足でまたこっちに来たんだ」

 彼の言葉に首を傾げる。

「忘れ物ですか? 言ってくれれば帰りにでも届けたのに……」

「いや、少し用事があってな」

 そう言うと、榊さんがコンビニ袋を俺の目の前にドサリと置いた。

「……なんです? コレ……」

「腹、減ってると思ってな。差し入れだ」

 唐突過ぎて一瞬体が固まった。

(榊さんが……俺に? え、あっていいのか?)

 疑問に思うも、現実に起きているのだから否定のしようがない。

「あ……ありがとうございます。丁度休憩していたところだったんですよ。でも、本当に俺が貰っちゃっていいんですか……?」

 一応謙虚なセリフを投げかけてみる。

「俺がわざわざ買ってきてやったんだ。素直に受け取ったらどうだ」

(いや、頼んでないんだけど……!)

 もの凄く棘のある言い方に加え、呆れを含んだ無表情。

 間違いなく俺の笑顔は引き攣った。

「じゃ、じゃあ……有り難く頂きます」

 袋の中を覗くと、俺一人が食べきるには多過ぎるほどの食料が入っていた。

「こんなに買ってきてくれたんですか?」

 素直な感想が口から零れる。

「さすがにこんなには……――」

「誰が、お前にだけと言った?」

「え……?」

 呆けている俺にはお構いなしに、あろうことか榊さんが横に座って来た。

(はい……? どういう事?)

 自問に自答ができない問題に頭を抱えたくなる。

 いや、この人も一緒に食べると言う事は理解できる。

 が、どうしてそうなるのかが分からない。

 俺が固まっていると、榊さんが先に口を開いた。

「あのさ。優一は俺の事怖いのか?」

「――……はい?」

 この人はプライベートでは下の名前で呼ぶ。

 別にそれを許したわけではないが、拒む事もできなくて……。

 テーブルに軽く頬杖を突いてジッと俺を見据えてくる榊さん。

 その表情は怒っているわけでもなく、責めているわけでもない。

 ただ気になっているから訊いているといった感じの物で……。

 逆に返事に困ってしまった。

(もしかして、苦手意識を持ってる事バレた⁉)

 一気に嫌な汗が背中を伝う。

「っ……どうして、そう思うんですか?」

「いや、なんとなく」

(――なんとなく⁉)

 平然とした様子でビニール袋に入っていたおにぎりを食べ始めた榊さんに、ただただ困惑するばかりだった。

(とりあえず、一つ貰って食べた方がいい、よな? 小腹が空いていることは確かだし)

 袋をガサガサと漁ってホイップクリームの挟まったパンを掴み取る。

 それにしても、空気が重い気がする。

(何か喋った方がいいのか? っつっても、話題なんかねーし……)

 パンの袋を破りながらチラリと隣を盗み見る。

 そもそも、俺なんかと一緒に居て楽しいのだろうか。

(いや、無いよな。笑ったとことか滅多に見せない人だし。寧ろ嫌われているとしか……)

(そんな相手と一緒にお茶?)

 それこそあり得ない。

(ほんと、何考えてんのか分かんない人だよなー)

 つい、小さな溜息を零してしまう。

「疲れてるのか?」

「え? ……あー、はい。少しだけ」

 聞かれてしまった溜息に恥ずかしく思いながら答えた。

 しかしコレは重い空気を壊すチャンスだ。

「頭を使った後は甘い物に限りますよね。買ってきて頂いて助かりました」

 努めて柔らかく告げてから、ぱくぱくっとパンを食べ進めた。

「相変わらず甘党なんだな」

「榊さんは嫌いでしたっけ?」

「嫌いというより、苦手だな」

「苦手?」

「苦手ってことは、克服できるってことなんだろうが……まあ克服しようと思わない限りは嫌いの部類に入るのかもな」

 何が言いたいのだろう。

(甘い物を好きになりたいってことか? でもなかなか克服できなくて、諦めてる……とか?)

「榊さんはどうしたいんですか?」

 俺が尋ねると、榊さんは不思議そうに俺を見た。

「えーっと、榊さんは甘い物、苦手なままでいいんですか?」

「……どうだろうな。このままでもイイっていうなら無理に克服する必要もないのかもしれないが」

 彼の言う事に今度は俺が首を捻った。

 そんな俺を、榊さんが真っ直ぐ見詰めてきて……――。


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