第三話 暴かれた真実
「……貴様、一体何を隠している」
直冬の低い声が、至近距離で鼓膜を震わせた。
肩を掴む剛力の前に、多門として抗う術はない。
直冬の手が、多門の直垂の合わせ目にかけられた。
「やめろ……! 離せ、足利の修羅!」
悲鳴に近い拒絶も虚しく、凄まじい力で布地が引き絞られる。
ぶちり、と紐が千切れる音が静まり返った室内に響いた。
「っ……!」
はだけた襟元から、冷たい夜気が肌を撫でる。
だが、その下に現れたのは、瑞々しい肌ではない。
腹帯とも、傷の処置とも違う。胸元を無残なほどに、ただひたすらに固く締め上げる白布――晒の層だった。
直冬の動きが、止まった。
その双眸が、異様なまでの執念を持って、白布に刻まれた多門の絶望を見つめている。
「……これほどまでに己を封じて、何を守ろうとした」
直冬の手が、晒の結び目に触れた。
結は、もはや声も出なかった。
(ああ……終わる。楠木の誇りも、私のすべてが……)
結は絶望に瞳を閉じた。
次の瞬間、強引に引き解かれた布が、さらさらと音を立てて床へ滑り落ちた。
解放された重力に従い、隠されていた柔らかな肉体が、しどけなく零れ落ちる。
雨に濡れた黒髪が肩に散り、松明の火に照らされたその輪郭は、戦場に立つべき「将」のそれとは、あまりにかけ離れていた。
「……楠木の、珠か」
直冬の口から、驚愕とも溜息ともつかぬ声が漏れた。
そこには先ほどまでの殺気はない。代わりに、手に入らぬ名刀を初めて手にした時のような、底知れぬ独占欲が宿っていた。
直冬の大きな手が、剥き出しになった肩を包み込む。
多門という仮面を剥ぎ取られた結は、もはや睨み返すこともできず、ただ小刻みに震えることしかできない。
「……武士の情けだ。今ここで、殺せ」
結は、消え入りそうな声で、それでもなお毅然と告げた。
女として汚される前に、せめて楠木の将として果てたい。それが彼女に残された最後の、そして切実な願いだった。
だが、直冬は嘲笑うかのように顔を近づける。
「情けなど、とうに捨てた。……石堂のような俗物ならば、貴様を安く食い散らかしただろう。だが、俺は違う。貴様のその眼差し、その気高さ……一息に枯らすにはあまりに惜しい」
直冬の腕が、結の腰を強引に引き寄せた。
肌と肌が直接触れ合う熱に、結の思考は混濁していく。
「名は」
「楠木多門」
「楠木多門は、死んだ。……今日から貴様は、俺という檻の中で、ただの魂として生きろ」
「名は」
「……結」
結は悟った。
この男は、自分を殺すつもりも、解き放つ心算もない。
武士としての死さえ奪われ、結は直冬という、より深く抗いがたい深淵に囚われたのだ。
結の目から、一筋の涙が零れ、直冬の腕に吸い込まれていった。




