第十六話 山崎の血戦
天を衝くような鬨の声が、山崎の野に響き渡った。
石堂頼房は数多の兵を従え、直冬の陣を指差して嘲笑を浮かべる。
「見よ、あの醜態を! 楠木の残党を愛玩し、腑抜けとなった足利の恥知らずよ!
者共、あの小倅ごと踏み潰せ!」
石堂の命を受け、郎党たちが一斉に牙を剥く。
だが、その先頭を切り裂いて現れたのは、復讐の鬼と化した多門――結であった。
「……石堂頼房! その醜悪な舌、二度と回らぬよう切り捨ててくれる!」
結は馬を飛ばし、石堂へと肉薄する。
石堂は鼻で笑い、剛力に任せて太刀を振り下ろし、激しく火花を散らす。
「っ……、やはり楠木の女よ、腕力だけではこの俺は通らんぞ!」
石堂は力で結を押し込み、吐息が混じる距離で、どろりと濁った声を吐きかけた。
「昨夜も直冬に鳴かされていたのか? 案ずるな、奴の後はこの俺が存分に可愛がってやる。その晒の下、秘所まで俺の指で抉り尽くして、屈辱に濡れる様を拝んでやろう……!」
その言葉が、結の内なる炎を爆発させた。
結は敢えて石堂の力に逆らわず、身体を僅かに捻って太刀を「流した」。
石堂の刃が空を切り、前のめりになったその瞬間――。
結は石堂の懐へ鋭く踏み込み、刀の柄頭で彼の顎を烈しく打ち据えた。
激痛に石堂の意識は一瞬で白濁し、堅牢であったはずの構えが大きく瓦解する。
結は即座に刀を横一文字に払い、石堂の籠手を切り裂いた。
悲鳴を上げ、太刀を落とす石堂。結は逃さず、崩れ落ちる彼の首元へ向けて、魂を込めた切っ先を突き入れた。
「が、あ……っ」
喉元を貫かれた石堂の口から、どす黒い血が溢れ出す。
結は石堂の瞳から光が消えるまで、その刃を引き抜かなかった。
「……石堂頼房、多門が討ち取ったり!」
結の声が戦場に轟く。
直冬はそれを見届けると、烈火のような笑みを浮かべ、自らも愛刀を振り上げ、敵の陣中へと躍り込んだ。
「見たか、父上! 俺が囲ったのは腑抜けではない、貴様の首を狩る牙だ!」
石堂を失った軍勢は、算を乱して敗走を始めた。
戦いが終わった静寂の中、直冬は血塗れの結の肩を抱き寄せ、その頬に付いた返り血を、己の指で乱暴に拭った。
「……よくやった、多門。奴の汚れた言葉ごと、その刃で断ち切ったな」




