第十五話 狂瀾の進軍
進軍の列の最前。直冬は馬を走らせることなく、敢えて贅を尽くした輿を陣の中に進ませていた。
石堂が京へ告げた「男色に溺れ、腑抜けになった」という誹謗。直冬はそれを否定するどころか、衆目の前で、多門――結を己の膝元に侍らせ、天下を嘲笑うかのように振る舞っていた。
「……貴殿、正気か。いつ敵が寄せぬとも限らぬというのに」
揺れる輿の中で、結は低い声を絞り出した。
彼女の身体は、いつ戦が始まっても良いように腹巻(軽装の鎧)に身を包み、下半身は大口の袴で固められている。だが、その強固な武具の上からでも、直冬の逞しい足が結の腰を挟み込み、逃げ場を奪っていた。
「士気だと? ……見ろ、兵たちの目を。彼らは俺が狂っているからこそ、付いてくるのだ。父上に捨てられた端くれ者どもが、同じく父に捨てられた狂った主君に夢を見ている」
直冬は結の項に顔を埋め、その柔らかな肌を噛みしめるように唇を寄せた。
具足の冷たい感触と、首筋に触れる直冬の熱い呼気。その対比が結の理性を削り取る。
「石堂が望んだ通り、俺は立派な腑抜けになってやろう。……だが、その腑抜けが京を焼き払い、父上の御所を血で染める時、あの男がどんな面をするか楽しみだ」
直冬の手が、硬い鎧の隙間から、結の直垂の奥へと強引に割り込んできた。
指先が、結のくびれた腰から、袴の中に押し込められた尻の豊かな肉付きを、布越しに力任せに鷲掴みにする。
「っ……、外には兵たちが……っ」
結は、重い袴の股立ちを強引に探る直冬の指先に、身を硬くした。
戦装束の下、固く締められた下帯の隙間に、彼の熱い指が執拗に抉り込んでいく。武士としての仮面が、その指先一つで無残に暴かれ、女としての疼きが内側から溢れ出した。
「構わん。貴様の喘ぎ声が聞こえれば、奴らは俺の健在を知る。……多門、声を殺すな。俺を狂わせた罪を、その身で購え」
結は、自身の内側から溢れ出す熱と、外から聞こえる軍馬の足音の重なりに、眩暈を覚えた。
敵将であり、一族の仇。そして、自分と同じく「親の愛」という光を知らぬ、孤独な修羅。
憐れみは、いつしか毒のように結の芯まで浸食していた。
(……このお方は、壊れようとしている)
父に拒絶された直冬は、戦装束に身を固めた結を無理やり暴き、支配することでしか、己の存在を確認できないのだ。
結は、拒絶するために上げたはずの手を、いつの間にか直冬の首筋へと回していた。
「……貴殿と共に、地獄へ行くと決めた。……ならば、どこまででも堕ちてやる」
結が覚悟を込めて囁くと、直冬の瞳に狂おしいほどの悦びが宿った。
翌日、直冬軍はついに京の入り口、山崎の地に到達した。
そこには、石堂頼房を先鋒に据えた、尊氏直属の精鋭たちが待ち構えていた。
「出ろ、多門。……石堂の首を跳ね、父上への手土産にするぞ」
直冬は輿の垂れ幕を力任せに跳ね上げた。
そこには、わずかな乱れも見せず、凛然たる武士の姿で刀を構えた多門がいた。
だが、その瞳には、昨夜の情事の名残が、昏い火のように宿っていた。




