第十二話 上書きの烙印
天幕に戻った後も、結の身体は震えが止まらなかった。
引き裂かれた直垂の隙間から覗く、赤く腫れた肌。石堂の汚らわしい指が食い込んだ尻の肉や腰のくびれには、今もあぞやかな指の跡が残っている。
「……いつまで震えている。それほど奴が恐ろしかったか」
直冬が、苛立ちを含んだ声で言った。
彼は荒々しく腰の刀を放り出すと、膝を突く結の前に立ちはだかった。
「……恐ろしくなどない。ただ、己の不覚が、武士として……楠木として……情けないだけだ」
結は、乱れた装束を必死にかき合わせた。
だが、その手首を直冬の剛力が掴み、強引に床へとねじ伏せた。
「楠木、楠木と……。まだそんな死者の名を口にするか。今の貴様は、ただ汚されただけの惨めな女だ」
「っ……離せ、足利の……!」
「離さぬ。貴様の身体には、あの俗物の脂が残っている」
直冬の瞳が、暗い欲望と怒りで濁っていた。
彼は結の胸元を締め付けていた晒の端を掴むと、一気に引き解いた。
さらさらと音を立てて床に広がる白布。
解放された豊かな双丘が、荒い呼吸に合わせて、暗がりに白く波打つ。
石堂が触れようとしたその先端は、恐怖と寒さで硬く凝っていた。
「やめろ……貴殿まで、私を貶めるのか」
「貶める? 違うな。奴の残した跡を、俺がすべて消し去ると言っているのだ」
直冬の熱い舌が、石堂が触れたはずの結の首筋から、鎖骨のくぼみへと這い降りた。
結は、あまりの熱量に背中を反らせ、声を漏らした。
直冬の大きな手が、結の豊かな胸を再び鷲掴みにし、その柔らかな肉を強引に形作る。
石堂の冷酷な手つきとは違う、熱く、重く、すべてを焼き尽くすような主権の主張。
「あ……く、う……」
「忘れるな。貴様の肌を、その熱を、一番奥まで支配するのは俺だ。石堂でも、楠木でもない」
直冬の指が、結のくびれた腰から、石堂に掴まれた尻の肉へと深く沈み込んだ。
赤く残っていた指の跡を、より深い自分の指の熱で塗り潰していく。
結は、涙を零しながら、天幕の天井を見上げた。
憎い男。一族を滅ぼした足利の修羅。
それなのに、彼に触れられ、石堂の汚らわしさが熱に上書きされていくたび、心の一番脆い場所が、甘い疼きに屈していくのを感じていた。
晒を奪われ、剥き出しにされたのは、肉体だけではない。
結という一人の女の魂そのものが、直冬という名の「烙印」を刻まれていく。
「……殺せと言ったのに。なぜ、これほどまでに私を……」
結の微かな囁きは、重なり合う二人の荒い吐息にかき消された。
夜の帳の中で、楠木の珠は、ただひたすらに足利の深淵へと沈んでいった。




