第十一話 汚された誇り
戦火の余熱が冷めやらぬ夕闇の中、多門――結は軍令の伝達を終え、本陣の奥へと足を進めていた。
だが、その背後から音もなく伸びてきた手が、彼女の口を乱暴に塞いだ。
「むぐっ……!」
「……騒ぐな。若君の覚えがめでたいからと、澄ました顔をしおって」
石堂の声だった。
結は必死に抗ったが、背後から数人の郎党に抑え込まれ、人目に付かぬ兵糧庫の影へと引きずり込まれる。
「この陣では、強き者が弱き者を喰らうのが掟。
……その、嬌奢な面を歪ませてやりたいと、ずっと思っていたのだ」
石堂の合図で、郎党たちが多門の身体を組み伏せた。
乱暴に直垂が剥ぎ取られ、荒々しい手つきで下帯にまで手がかけられる。
「やめろ……汚らわしい……!」
「……ほう。男にしては、この腰つき、いささか細すぎはせぬか」
石堂の手が、多門の腰のくびれをなぞり、その下の豊かな肉付きを確かめるように尻を強く掴んだ。
結は、石堂の指が自身の柔らかな曲線に食い込む感触に、激しい悪寒と屈辱を覚えた。
さらに、郎党が強引に上衣を裂いた瞬間、石堂の動きが止まった。
「……何だ、この晒の厚みは」
石堂の手が、男の胴とは到底思えぬほどに膨らんだ胸元に触れる。
固く締め付けられた布地の上からでも、隠しきれない柔らかな重みが石堂の掌に伝わった。
「貴様……まさか」
石堂が興奮に瞳を濁らせ、晒を切り裂こうと小刀を抜いた、その時だった。
――凄まじい衝撃と共に、木扉が粉砕された。
そこに立っていたのは、返り血を浴びたままの直冬であった。
その瞳は、戦場の修羅をも凍り付かせる烈火の怒りに燃え上がっている。
「石堂……。その汚い手を、誰に伸ばしている」
直冬の放つ殺気は、石堂の郎党たちをその場に縫い付けた。
直冬は一歩、また一歩と距離を詰めると、石堂の首を無造作に掴み上げ、壁へと叩きつけた。
「ぐはっ……! 若君……待たれよ、この小倅は、実は……!」
「黙れ。俺の物に触れていいとは、言っていない!」
直冬は腰の太刀を抜き放つと、石堂の頬を刃の峰で力任せに打ち据えた。
石堂の口から血と歯が飛び散る。
「去れ。次はない。……貴様の汚らわしい血で、俺の陣を汚す前に消えろ」
石堂たちが逃げ惑うように去った後、庫の中には重苦しい沈黙が降りた。
結は、引き裂かれた直垂をかき合わせ、床に膝を突いていた。晒が半分ほど露わになり、そこから零れんばかりの白い肌が、暗がりに浮かび上がっている。
直冬はゆっくりと結に近づくと、その震える肩を抱き寄せ、無理やり己の方へ向かせた。
「……見せろ。どこを汚された」
「……貴殿には関係のないことだ。なぜ、助けた……。いっそ、ここで……」
結の声は震え、瞳には涙が滲んでいた。
直冬はその震える唇を、自身の指で強引に塞いだ。
「関係がないだと?」
直冬の声は、低く、そしてどこか陶酔を孕んでいた。
彼は結の腰を強引に抱き寄せ、石堂が触れた場所に、自らの掌をさらに深く、力強く重ねた。
「貴様を汚し、壊していいのは、この世で俺一人だ」
直冬の手が、晒に押し込められた豊かな胸の起伏を、暴力的なまでに鷲掴んた。
晒に守られていたはずの結の心が、直冬の熱によって無残に暴かれていく。
屈辱。だが、同時に襲ってきたのは、この修羅の腕の中にしか、もはや自分の居場所がないという、恐ろしいほどの確信であった。




