20 大賢者
▽イギリス ロンドン
「ルイス、隣がダンジョンになってる……潜ってみるが、来るか?」
「ダンジョンか。悪いが遠慮しておこう。そんなことより食料調達が先だろ、チャールズ?」
「だが、放置してると何が起こるかわからない。ダンジョンは隣の店だ…………調査しないとじゃないか?」
「分かったよ。だが、やるのは調査だけだ。すぐ戻ってこい」
「了解だ」
隣の店は服屋だった。こんな世界じゃ服に価値などない……遠慮なくぶっぱなせるだろう。
魔法を。
「ヘイ!戻ったぜ」
「ああ、おかえり。どうだった?」
「弱い悪魔ばかりで大したこと無かった。だが、みてくれ……status!」
「なんだ?レベルでも上がったか?」
「違う違う、職業だ。確かに俺は魔法使いだったろ?」
そこに記された職業は、”魔法使い”ではなかった。
「Wizard Master?」
▽摩耶山、御影泰介
拠点を発って3日後、儂らはようやく摩耶の山までたどり着いた。
真っ直ぐに行けば5、6時間で辿り着いたじゃろうが、主君の命で避難所への食料支援をして回っていたため、かなりの遠回りになった。
避難所の中には深刻な食料不足に陥っていたところもあり、たいそう感謝されてしまった。
普通に考えればこの街の全ての者に食糧支援などやってられん。
黒木様は、支援は今だけと仰ったが……
お人好しではなく、中立状態を解除するためだそうじゃ。
「日が落ちるまで1時間と言ったところか……1戦いけるかの?」
「無理ですから、大人しくしてくださいね」
「おじいちゃん、この付近一帯のダンジョン化が済んだって黒木様が」
「では、少し戻って適当な家にお邪魔させてもらおうかの」
さて、明日の為に今日は早めに寝るとしよう。
「明日の朝は気合を入れて料理しますからね」
「俊敏上がるやつお願いー!」
「儂、筋力がいい」
美禰子の料理には一時的なステータス強化や特性を付与する効果がある。
黒木様は残念そうに「割合強化になったら教えて」と仰ったが、儂らくらいのステータスでは十分な強化になる。
▽
翌日。
スケルトン達と共に、オーガの巣窟へ向かった。
「ゴアァァァァァァァッ!!」
「うっさいわい!ほれ!」
正三が槍でオーガの首元を貫いた。そのまま横へ払い、首を裂く。
口元には隠しきれない凶笑が浮かんでいた。
「まだ動くぞ、そいつ」
「分かっとる!」
オーガは斬られた首を抑えているが、指の間から漏れる血はとても首を斬られたとは思えないほど微量だった。
「皮膚が硬い、肉が分厚い……やはり仕留めるには時間がかかるの」
オーガの攻撃は早くない。
儂らくらいなら簡単に見切れるが、やはりその生命力が厄介極まる。
肉を切らせて骨を断つと言わんばかりの猛攻に、正三でさえ少し手こずっているようだ。
「うむ、息子らはともかく孫達には少々キツいかのう?」
オーガを倒しながら、山へと向かっていった。
「上位種が増えてないかの?」
正三がそんなことを言ってきたのは、昼すぎの事だった。
「うむ、奴らの巣に近づいているのじゃから当然、じゃが…………ふむ、少し数が多すぎるのう」
オーガの1つ上程度なら数人がかりで何とかなるが、もう1つ上となると…………
「撤退すべきか?」
「ふむ……」
その日は結局、それ以上進まなかった。
次の日も、その次の日も。
▽
16万人には、基本避難所の近くで生活してもらうことにした。
ダンジョン化により地上にはモンスターは湧かないが、外からの侵入と空のモンスターへの警戒のためである。
見回りのスケルトンも多く配置しているが、完璧な対策にはなっていない。
それでも、確実に安全性は増しているので”私物”の調達は容易になっただろう。
店も大量に配置しておいた。
彼等にはなるべく早くなにか仕事をさせてDPを納めてもらいたい。
今は貯金を切り崩している状態だ。
モンスターと俺の破壊で一文無しの人もいる。
早急に生産を開始しなければいけないが、それには安全が必要だ。
せめて、神戸市全域くらいはダンジョン化しなければ。
552.3km²か…………
まだ半分……はぁ。
「ま、それはあとだな。目下の問題は摩耶山の掃討か」
じいさん達が摩耶山へ着いてもうじき半月。
彼等はまだ、オーガ達の巣まで辿り着いていないのだ。
数が多すぎるって。
ゴブリンとかオークとかの鬼系モンスターがアホみたいに湧いてくるそうだ。
だから、いくら倒しても進めない。
これはダンジョン化でモンスターになれなかった魔素が流れて行っているせいなのか?
初日からそうだと言っていたから多分違うのだろうが…………
さて、日課の掲示板チェック。
どこでどんなことが起こったとか東京はどんな感じとか、そんなことしか書いていない。
「お、俺のことも書いてあるな…………」
次はツイッター。
掲示板では動画と写真が無いし日本の事しか分からないから、字数制限があるとはいえツイッターは非常に有能だ。
あの日から半月以上。
携帯のバッテリーが切れてくる頃だろう。
今投稿できているのは、携帯を充電できる者達……
つまり、蓄電機を使える避難所の幹部クラス、電気が生きている地域の外に出る探索班と避難所に入らず生き延びた者達だ。
「Wizard Master?」
チャールズ・ベケット。
イギリス在住。
「熟練の魔法使い……大魔法使いじゃないな。大賢者……いや、大賢者か?職業スキル…………」
WORLD RECORD
「世界、記録……?」
▽
「ルイス、聞いてくれ…………」
チャーリーが、眉をしかめ、いつになく真剣な口調で呟いた。
俺はその雰囲気に、思わず唾を飲んで静かに続きを待った。
「このままでは半年後、モンスターの数が今の5倍になる」
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