(4)
鬱蒼と茂る山々の中の木々の中の草と土に覆われた……囲われた空間。開けてはいない。拓けてはいない。
それでいいのだ、これから起こることは隠すべきこと。
私は懐に入れていた当の本を出す。名もなき本。厳重に封印された本。
私はその本の表紙に手をあて、魔力を入れる。封印の解き方を知っている私は、手順に沿って呪文を頭の中で想起し、念じる。この場合、口にすらできない。高レベルの術師でないと、唱えただけで狂死するからだ。……まあ、人間だと、ギルド認定第一級の術師が、慎重に、ってな具合(ちなみに第一級とは、ありていにいえば国家級の賓客扱いをされる)。ムルダウ式は、そのレベルの封印術式――ま、禁呪なんだな。
んなものを町中でおっぴろげるわけにはいかんから、レルエリィが私を頼ったのだ。……で、私が引き受けたのは、もうひとつ。なんか、この本、私向けの、私嫌いな、なにかがあるような気が、みたときからずーとしとるのだ。
私は禁呪封印をとく。そこに記されているものは……、はたして、本はひとりでに開かれ、高速でページが、風によってめくられるかのような挙動。高位魔術書の、オートモードだ。それも、ほとんど荒ぶれる獣だ。
嫌な風が吹いている。泥水を流し込んだような風だ。ちりちりしたノイズがきこえる。
もちろん術式をとく前段階で、結界は張ってある。……念のため、もう一段階、グレードあげとくか。よ、っと。
そして、
洞窟の響きのような暗い音とともに、
その場にのっぺりと、
真っ黒なひとの形が現れる。
いきなり、そいつは右腕をふるう。結界にそれは阻まれるが、チリッ、と、結界外に、どす黒い電流がでた。すなわちそれは、これがフツウに放出されていたら、幹線道路クラスの大きさの範囲を壊滅せしめる威力。
暴れだせば、それだけでイーシィ湖流域壊滅、か。
……だが、そののっぺりした「ヤミ人型」が……ヤミを固めたデク人形のように見えるそれが、「悲しそう」なのは――? なんだよその目は。なんで泣きそうなんだよ。
「頼ム……」
声を出す。カタコトに聞こえる発音、まがまがしく。
「殺シて……く、レ、アァ……、コロ……」
わかった。
目の前の「彼」は、「ひと」だ。
だから、私は、彼を人として葬ってやる。




