(15)
「では月読さん、お願いします」
「じゃ、ちょっといってきますね」
そして月読さんは、超高速で弾道上の衛星軌道に向かいます。その時間・速度、エンジニアとして口惜しいですが、なかなか「ひとが乗れる乗り物」には出せません。G的な。
「セリゼちゃん、状況はわかりましたね?」
私はあの「脳内無線」でセリゼちゃんにコンタクトを取ります。
「迎撃したっていいんだけどね」
いたって平静な彼女の声が聞こえてきます。頼もしい。
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「ハハッ、高度魔導実験施設のオーバードライブだ。全開だ、レールガン二百機分、……これでもどうにかならないとで」
「だから?」
言葉を遮ってキギフィはいった。その若さが罪だとでもいわんばかりに。
「完全に神討ちナメてるでしょ。ほら、そこのおじさんもレクチャーしてあげたら?」
「……」
「ま、いいや。どうなるかその目でみて、その結果を各国のウラに流すのも一興か。見せしめというのも、フレアらしくないなー……そんだけ怒ってるってことかー」
そして少女、厳しい目をする。
「この後あんたらがどうなるか、までは私知らんし、弁護するつもりも更々ないけど、今からおこることは一生忘れられんから、ゆめゆめ油断せんように」
こちらの少女ものんきである。が、
「私たち敵に回したらこうなるんだから」
そこに慈悲はなかった。
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バリッ、という電撃音とは別の、むしろ何か陶器が割れた音。
それが極大レールガンが空間に響かせる異音。空気が破裂したかのような。
そして雷撃は星をつらぬく。きっかり数十秒後に、待ちに待ったかのように、雷電の速度、時間の尺度を超越して、ただの「神鳴り」として、ほうき星町向かって破壊の一撃を見舞う!
だが月読は。大気圏上の月読は。
両手をその暴虐極まりない光に向け、すっと息を潜め、静かになる。
そして……
なんということだろう、破裂音と蹂躙の意志を、疾走とともに推進する光は、月読の手に、水のように、空気のように吸収されていくではないか。
その光景は、あまりに自然で、暴虐さと穏やかさが同居していた。月読はその穏やかな顔を少しも歪ませることなく、淡々と「吸い込み」を行っていた。
時間にして、一分。それだけの莫大な電気魔力エネルギーを、月読は「食い」きった。
莫大な魔力を有する施設の全魔力を。ひとつの発電所に相当するエネルギー……それも攻撃指向性をもったエネルギーを吸いきったのだ。
それは、人間の魔術師ができる範疇を、遙かに越えていた。
「さて」
なんでもなかったかのように月読はいう。
手のひらをそっと胸のあたりまで持ち上げる。そこに光球が宿った。
しかしその球には、秒を追うごとに、指数関数的にエネルギーのポテンシャルが、大気をふるわせるかのごとく集中していった。
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「月読さんのエネルギーがいまどうなっているかわかりますね?」
最後通牒を私は彼らに告げます。
「あれが『汎エネルギー吸収』……月読さんのデータを漁ったのならわかるでしょう? あらゆる五行八卦のエネルギーを、自分の中で自在に変換して、行使することができる、反則技にもほどがあるものです。そのオーダーは、今のような巨大さなど、ごくごく簡単に御することができるほどです」
本当に、これが神討ちの力なのだ、と思うと、恐ろしいものがありますね。
「さて」
私は努めて冷静に彼らに告げます。
「この光球を攻撃に使ったら、どうなるでしょうね?」
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完全な絶望とはこのことだろうか。
経験を積んだ男と、若気に走った男は、自分たちが「ふれてはいけないもの」に、それこそ神に近いモノにあらがったことに、絶望を抱いていた。
組織は俺たちを切るだろう。だがそれ以上に、こいつらは組織ごと、いやもしかしたら、国ごと葬りさるのかもしれない。
「ねえ、助けがあるとでも思った?」
キギフィは淡々という。
「まあフレアのことだから、虐殺とか、蹂躙とか、そういったことはしないよ。ただ、全世界のウラのちょーしこいた連中に、ナシつけることはあるかもね。で、そこで相談、というか命令なんだけど」
「……なんだ」
「フレアはここのデータを全部ハックしたし、ここと関連したとこのデータも洗ってる。で、そこいらがなんか悪さしようと思ったり、ここ発信のデータが出回るようなら、凶悪なウィルスばらまくことは……初歩だね。で、だ。あんたら、もう手引かない? ていうか、この稼業から」
一気にまくしたてるキギフィ。
「ウラで生きていくなとはいわない。ただ、ほうき星町に手を出そうとするならば、こうなる、ってことを喧伝してもらえばいい」
「……」
「ていうかやれ」
問答無用。
「フレア、聞こえる?」
「はい、聞こえますよ?」
「どーする?」
「計器を見ていてください」
そして通信は途切れた。
「なにをするつもりだ……」「どうするんだ……」
弱々しい二人の質問。
「んー、きっと、アブソリュート、という意味かな」




