(14)
「第五次警戒態勢!迎撃システム作動!」
館内放送が鳴り響く。アラームがやかましい。
その空間は宵闇に満たされていた。
その暗がりを突っ切るようにして、落下するふたりに、対空ミサイルの雨あられが舞う。
セリゼは、すべての内蔵式銃剣を抜き放つ。
リボルバータイプブロードソード「ト長調(C major)」
セミオートタイプサーベル「ブルーノート」
ガトリングタイプ大剣「教会旋法」
刀身射出型大剣「ペンタトニック」
グレネード射出型マインゴーシュ「変ロ短調(B♭minor)」
計、五振り。もしくは五丁。
グリップを指と指と拳の間に絡ませるようにして、銃口/刀身を四方八方に展開、刹那、空中でふわりと浮いたセリゼのハリネズミのような体から、一斉に弾丸/刀身が発射される!
セリゼの必殺技、最高の膂力をもつ吸血鬼ができる、身体に異常な負荷をかける一斉射撃、名をば、
「NEEDLED24/7!」
その追撃、まさしく全弾丸を撃墜せしめんとする勢いで、果たして、それは確かに撃墜せしめたのだ。時間にして射出一秒、撃墜爆発一秒。甲高い不協和音と振動が鳴り響く。爆炎爆煙の乱気流。
「さっすがー♪」
にやにやしているキギフィであった。
「さて、と」
そうひとりごちて、その美しい特殊部隊少女は、空中で、向きを逆さまにして屈伸する。そして、なにもない空中を、両足で蹴りあげる! まるで板でも踏み抜くかのように。
それは、竜騎士のごとき、ジャンプ攻撃。眼下の敵に対する撃墜行動。落下し貫かんとする勢い、弾丸よりはやく。
閃光といわんばかりの高速となって、キギフィはすり鉢の中心部を貫いていく。サクッ、と、鋼鉄製の建物は、やすやす貫かれる。氷を砕くよりも簡単に。
時空がねじくれるような、ぐにゃりとした異音、そして、轟音。それは破壊。
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「抵抗する奴は訓練されたバカだ! 抵抗しない奴はバカだったバカだ!」
叫びながら、当の二人がいるであろうコンソールルームを向かって、ごり押しのようにバタンバタンと各ドアを乱暴に開け放ちながら、施設内を蹂躙するキギフィ。もちろん抵抗する者は銃殺にして刺殺である。抵抗しない者も戦闘不能程度にはする。
一見無駄なような蹂躙活動だが、これはもといた部隊の教え。
「殺すべきやつはさっさと殺して、どっちでもいい奴には恐怖を植え付けるんだ。逃げ場を作ってはいけない」
――どっちが悪党なんだか。
そう思うキギフィであったが、それを素直に実行している時点で、ひとのことはいえないのであった。
もっとも、彼女はどこにコンソールがあるかは把握している。フレアからの情報もあることながら、彼女自身、長年の制圧作戦の杵柄で、こういった場合「どこを攻めるか」というのは、本能的にわかっている。
そして、当然のように、コンソールルームにたどり着く。それまで蹂躙していたのは、相手の戦意をことごとくこそげ落とすため。
ドアをバタン!と開け、
「抵抗するハッカーはー!」
「動くな!」
果敢にも抵抗する二人の男、その年老いた方のリーダーが持つのは、何かのスイッチ。グリップ式の。
「――最後の手段を使うぞ?」
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「……というわけだ、龍博士」
「なるほど、最後の手段ですね」
セリゼとキギフィさんが行った場所から遠きほうき星町において、ネゴシエーションが行われていました。
相手が行おうとするのは、ごく単純。その施設に蓄えられたエネルギーを凝縮&放出して、ほうき星町自体を壊灰に化そうというもの。
そこに蓄えられたエネルギーは、これだけの秘密理ストーキングを行えるだけの莫大なものがあります。
「いいのですか? そのような、施設ごと立ち向かおうとすることは? この計画も、そちらの組織の総意ではないでしょうに」
「……なぜわかった?」
「自慢するわけではないですが、私たちを相手に回して、ただですむとは思えない、というのは、どのような見地からみても事実でしょう」
大家さんは淡々といいます。まるで今夜の食事の用意でもするかのような簡単さで。
しかし、その言辞は、本当に正しいのですから、もう相手は手の出しようがないと思うのですが、まあ、それなりに腕があったというのは、逆に罪ですね。
イーシィ湖は、静かにそよいでいます。この町の正反対側で、世にも恐ろしい破壊活動なりテロリズムなり蹂躙なりストーキングなりが行われているとは、ゆめゆめ想像もつかないような、この平和さです。あたりには黄色い花が咲き乱れと、風にふかれては花びらが宙に舞っていきます。
僕はお茶を飲んで、もう一口ツナサンドをいただきます。うむ、いけます。
「もうやめにしませんか? どっちにしたって、キギフィさんから逃れられることはないでしょう」
「だからだ。私たちにしても、後はない。が、ここで一矢報いることにより……」
「報いてどうするというのですか」
大家さんの声に、冷ややかさが混じります。
この手のひとを敵に回してはいけません。日頃穏やかなひとが怒ること、それは、ふつうの血気盛んなひとの怒りと違うのです。「このことについてはしっかりと怒っていいだろう」という考察がしっかりとなされた怒りですから、揺るぎはないですし、容赦もありません。
「ではもし仮にやったとしましょう。次の瞬間、衛星はきちんと破壊して、そこにあるデータもすべてこちらのものとさせてもらいます」
「……ずいぶん余裕のように見受けられる」
「余裕? これはあなた方が、自治区設立より二十五年間採集してきた裏のデータ……なるほど、傭兵部隊『氷中花』をはじめとした、SSS級破壊集団の個人データ、神討ちの詳細、乱神鬼神の御し方およびそのカルト信仰集団の情報リーク、核技術の提供先との密約……いろいろやってますねー、ずいぶんお金になりそうですね」
「な……!」
「先ほどそちらのシステムは『掌握した』と申し上げたはずです」
本当になんでもないことのようにいいますね。相手は国家レベルですよ? その機密情報を、三分とたたずに完全掌握するとは。子供ののぞきじゃないんですから。
相手もバカではないでしょう。本当にバカだったら、神討ちなり龍教授なりの価値というものを把握しないはずです。ですが、身の程知らずではありますね。……ああ、それは頭が足りないということですか。
僕はツナサンドの最後のひとかけらを食べます。おいしかったです。もぐもぐ。
これだけの情報がハックされたとしたら、そこにいくらでもウイルスを入れ込むなり、同業者にそれを拡散するなり、この情報を全世界にばらまくなり、容易なことでしょう。
すでに詰んでいるのです。これであとは相手に理性があれば……
「まさか、国家のために殉じる気などないでしょう? いまこのシークエンスの発動許可あたりもさらってみましたが、完全に独断専行」
「……」
「引くならいまとおすすめしますが?」
おそろしい……ほとんど相手の下着の色までも見透かそうという勢いではありませんか。
さて、心理的にも、行動的にも、相手を詰んだかのように見えるのですが、いかがしたものでしょう。
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「……」
壮年の男は迷っていた。当然である。すでにことここに至って、自己の取りうる行動は限られに限られている。
進んでも命はなく、もはやこうなったら組織からも見放される。
ならば……ここは降伏の意志を出して、少しでも有利な状況を、口八丁で丸め込んだほうがいいのではないか。
プログラマの彼とは違い、壮年の彼は、その手のネゴシエーションで挽回してきた経験はある。鉄火場に身をおいてきたからこその処世術だ。
少なくとも……いま時間は稼げている。ユーイルトットを屠る手段をこちらが一応握っている以上。
が。
この緊張に耐えきれなくなったのは、やはり鉄火場になれていない若人であった。
彼の逡巡のスキに、プログラマは壮年のリーダーのグリップをむしり取った。
そして、押した。
「馬鹿者!」
「こうするしか他にねえだろうが!」
その行動は半狂乱であった。それは場数の少なさによるものであり、同時に「リアルバトル」の血生臭さを経験したことのない者の耐え着れなさだった。
「……発動までにどれくらい時間がかかりますか?」
フレアの無機質な声がルームの中に響く。
「……」
リーダーは語らない。プログラマは逃げようとする。
それを見たキギフィは、彼の肩を槍で貫いた。挙動は一切視認できず、わずかに一秒。絶叫がこだまする。返す刀で、キギフィは槍の切っ先を壮年に向ける。
「……もはや止まらんよ。一分を切る」
「充分です」
「……は!?」




