(13)
時刻を同じくして、星の裏側。
この組織は諜報を専門とし、巨大なスリバチ状の建物で、高感度の衛星システムを使い、全世界を網羅して、様々な情報を集めるとともに、このスリバチ自体が、巨大な電磁
キャノン射出の役割を果たしている、攻防一体の軍事施設であった。
「おだやかだな……これほどの実力者がのんきにしているとは」
「一線はしりぞいたのだろう?」
「化け物は所詮化け物さ」
「……で、我々はこの化け物を滅殺するとでもいうのか?」
「まさか。俺だって命はおしい。俺たちはこの情報を売る。神討ちは国家レベルの案件だ。その対策だけでも、宣戦恐々してるのが、各国の闇だ。……そこに、相手の構成、ユーイルトットや剣崎、GMP3、龍博士、といった化け物連中の情報をリークするのさ。それだけでも、俺らの組織のキャリアになる。それだけの秘密性を有しているのが、こいつらだ。……あわよくば、この町の特異性までさらえればいいのだが……」
「……もう少し、探るか?」
「そろそろ限度か、というのが安全側の見方だ。だが……これほどまで気づかれなければ、おそらく大丈夫だろう……フェイズを一段階あげてみろ」
「アイ・サー。伝達物質のフレキシビリティをあげるぜ。……風よ、目を持ちし風よ、汝、不可視のアトモスフィアでもって、彼のものの万象をしらしめよ……」
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ここで、僕の脳内に、大家さんからの伝令が入ってきました。
これはこの家の家族専用の回線です。それはセリゼにも伝わります(キギフィさんには伝わりません。あくまで彼女は人間ですから。この秘技は、不老不死という、「通常の生の理」から逸脱したものにのみ試行できる技ですゆえ)。
(彼らが踏み込んできましたよ)
大家さんの思念です。
(バカじゃねえの? 私たち相手だぞ?)
セリゼはあきれかえります
(まあ、ともかく手練であることは確かでしょう。大家さん、準備は?)
(できています。ただ、もうちょっと相手がこっちによってきてくれないと、逆ハッキングしようにも、ちょっと情報が足りませんね。……まあ、ちょっとボロがでたら、即座に座標は導き出せますが)
(……わかった。私たちはいつでも準備いいから)
「っと。きましたね」
そう、僕、セリゼ、大家さんは、あそこに「目」があることがわかりました。
「彼ら」は我々の挙動を知るために、よりこちらに接近することを選んだようです。
愚かな。
彼らがうまく立ち回っていたのは、水や空気といった、不可視の媒体でもって、ごくわずかなデータを得るだけにとどめて、あくまで慎重にことを進めていたからなのです。
が、ここにきて、我々が「なにもしらない」ということを過信したか、リアル媒体……モノでもって、我らを監視するフェーズに移ったことです。
それが、彼らの命取りでした。
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大家さんがそれを逃すわけはありません。
即座にプロポの脇においてあるノートパソコンをいじりだし、ここからでは見つけようもない、その「目」に逆ハッングを一斉に行います。
ほどなくして、大家さんの笑みが認識されました。それは「やった!」ではなく、ごく当たり前のこととして。
「どこの誰だか知りませんが」大家さんの声は冷ややかです。「回線は、ハッキング返ししましたよ」
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「!!!!!」
遠くの秘密組織のアジトでは、もっとも起こってはならないことが、一瞬にして起こってしまったことに戦慄した。なぜだ! ここまで完璧だったのに! それがこうも一瞬で覆される?
「回線を切るんだ!」
「わかってる! ……なに? ……追跡されてる!?」
「……! 逆ハッキングか! なぜこんな短時間に!」
「なぜこんな短時間に?」
どこからか、フレアの声が、ふたりの男に聞こえてきた。それは死刑宣告にも近い。
ほとんどふたりは狂乱していた。なにが起こっているのだ?
「ハッキングはすみました。すでにこの回線は私の管理下にあります。同時に、そちらの管理システムも掌握しましたので、まあ、単純に音声通信もつながるわけですね」
まさしく丸裸。
「さて」きわめて冷静な口調でフレアはいう。「どちらの組織がバックなのかはわかりませんが、どちらにせよつぶさせていただきます。私たちの隠れ家を、世界に喧伝されようなど、許されることではありませんから。ああ、音声通信はつないでありますので、何か質問あればどうぞ?」
「どうして……わかった」
壮年の男が、苦虫をかみつぶすようにして口にする。
「ずっと前から、うすうす感づいていました」あっさりとフレアはいう。「見られている、との感覚があるということは、私のレーダーで感知されていました。衛星あたりを使いましたね? そして、大気のふるえを月読さんから聴きました。……よいプログラムを組んだと思いますよ? 風や水のわずかなふるえでもって、糸をたぐるがごとく、超強迫神経症的に、ソナーをかけるという。私でさえ最初は気づきませんでした。……が、まあ、ぶっちゃけた話、そのプログラムの基本となったものですが、私がずいぶん前に組んだものなんですよね。それをそこまでのレベルに育て上げたことは、素直にすごいと思いますが」
「……くっ! しかし、このデータを『組織』を介して世界にバラまくということは、すぐにでもできるのだぞ?」
男性は恫喝をする。ほぼ敗北の色が濃い状態で。
「ほう、やるのですか?」
「もとより俺達の主眼はそこさ」男はここにきて、やはり自分たちの有利性を、ほのかに感じつつあった。
しかし。
それを許すフレアではなかった。ほうき星町の人間ではなかった。
「わかりました。潰しましょう。月読さん、四時の方角です」
電光石火の一撃であった。月読は肩に羽織っていたストールを、勢いよく、無限に延ばしていった。
なにもないところに延ばしたかのように見えた。が、月読のストールは、握り拳のように、何かを包み込んだ。
不可視の極みにある、カメラである「眼球」。それを、月読は魔力の感でもって認識し、捕まえた。
「それをください」
月読はゲットしたそれを、魔力を加えることにより、可視化、マテリアライズした。それは確かに、機械で作られた、義眼のような、「目」であった。カメラであった。
「閉じろ! 閉じろ!」
上司の男は反狂乱になって、「目」と、コンピュータとのリンクを切ろうとする。
だがその程度のこと、天才プログラマであるフレアにとっては稚技である。フレアは一瞬にして、その「目」のプログラムのソースを解析、同時に相手の位置を正確に把握、次の瞬間には、セリゼと月読に、こういった。
「セレーヴェ自治区の東南です。そこの魔術実験施設。……セリゼちゃん、やりましょうか?」
「よっしゃ、いくか」セリゼは凶悪な笑みを浮かべる。「ぶっつぶすぞ」
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「逃げるぞ!」
上司がいう。ほとんど絶叫である。
「とはいっても、あいつらがここにくるまで、相当の時間がある……」
若いプログラマは冷静にことを告げる。
が、
施設内全域に警報が鳴り響く。
「エマージェンシー! 上空に強大な魔力保有者確認!」
「……まさか」
二人の男は戦慄した。
テレポートでここに来たというのか?
空間圧縮・転移魔術は、およそ魔術体系のなかでも、相当に高度なものであり、術式展開にも時間がかかる。
それが、さきほどの「脅し」の数分後である。
そこに、フレアの無慈悲な声が響く。
「敗因は、目によるものでしたね。勝因も目によるものでしたが。よくできていますよ、この盗撮アイテムは。水を伝って、大気を伝って、さまざまな情報を無尽蔵に吸収しながら、神経症的にまで細かい情報を収集して、目的地に移動するという。そのような機器を製造するのも狂気の沙汰ですが、コントロールするのも、また狂気です」
淡々とフレアはいう。
「しかし、使い方を謝りましたね……しかもこれだけの情報量を行使するものは、より大きな管理システムのもので動くものでしょう。……逆に、それだけのシステムは、大がかりなものになりますから、そのぶんだけ場所の特定が容易であるともいえました。具体的には、この『親機』である衛星システムと、それの母体である巨大アンテナ施設。……こちらには裏の業界に通じたひとがいますからね、そういった施設の概要は、手に取るようにわかるのですよ」
「……だとすればわかるだろう? 俺達の組織がどういうものか、を」
「そのお言葉、そっくりそのままお返しします」
瞬間、彼らの建物の上空に、セリゼとキギフィが現れた。
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パッ、と現れた。ふたりは。
フレアが位置解析をし、月読が大地の龍脈に道筋を作り、そしてセリゼと月読が転移魔法を簡単に編み上げ、この星の裏側に一瞬にしてたどり着いた。
セリゼは何振りもの刀剣を腰や背に、キギフィはいつもの戦闘ルック――鬼のゴーグルに、槍、銃、それらをいつの間にか身につけていた。
二人は勢いよく落下する。常人ならばその勢いでもって落死である。
だが。
悠々と会話するふたり。
「んじゃ、あんたは下手人しょっぴいて」セリゼは落下しながらのんきにいう。
「りょーかい。突っ込むけど、セリゼはあれだよね?」
「もちろん、我こそは破壊の権化である」
眼下にそびえる建物は、ちょうどスリバチ型をしている。コロッセオのように。あるいは、その周囲に尖塔がモスクのように立っていて、それは櫓台というよりは、魔力吸収・放出のためのアンテナといえた。
真っ白で、やたらとウロコのように各種プレートや配線が敷き詰められている建物だった。構造的美観より、研究用の実務を重んじる。
ふたりは、そこをいままさに、
破壊しつくそうとしていた。




