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 いったん滑走路に飛行機を着陸させて、機体のメンテをしている大家さんを尻目に、あの野蛮なふたりは、……なんでしたっけ、殺人野球でしたっけ、それをまだ繰り返しています。

 だいたい僕が記憶している限りでは、野球というものには、セーフやらアウトやら、ベースやら走塁やらといったものがあるように思うのですが、あれ、ただ球をぶつけあっているだけですよね。

 まあ楽しければいいんですけど。

 大家さんは操縦機――専門用語でいうところのプロポ――をもって、こちらにきます。

 「もういいんですか?」

 「まさか、です。もうひとっ飛びいきますよ。ただ、少し腹ごしらえするのもいいかもしれない、ということで」

 「戦はできぬ的な?」

 「空中は常在戦場なりけり、です」

 「そこまでいいます?」

 「翼なき、浮遊術式なき人間にとっては」

 「おっと、そうきましたか」

 「まあ、だからこそ、ヒコーキが楽しいんでしょうね」

 「なるほど」

 「……セリゼちゃんや月読さんを羨んではいませんからね?」

 「なにかをつっこんでほしいようにしか聞こえませんがなにか」

 そういいつつ、僕と大家さんは、バスケットの中のサンドイッチに手を伸ばします。お、これはツナですね。もぐもぐ。おいしい。

 「こういうとき、お茶受けと、熱いお茶があるというのは、贅沢ですね」

 「まったく。大家さんもそう思いますか」

 「この年になると、お金の制約がなくなったら、時間あたりの自由さというか、優雅さのほうが、プライオリティが高くなるんですね」

 「大家さんも大人になりましたね」

 「あははははは」

 子供のように笑う――実際見かけは子供なのですが――大家さんでした。

 「まあ、若いころには、思いもしなかったような境地なのかもしれませんね。『のんびり』ということに、ここまで価値をおくということは」

 「まるで人生終わったかのような境地ですね」

 「ふっふふふふふ」

 今日の大家さんは笑い上戸ですね。

 「ええ、ええ……そうですね、これじゃもうおばあさんですよ。まあ、そんな自分が、さして嫌いではないです」

 「かつての日々よりもよほど?」

 「今日の月読さんは切り込んできますね――いえ、過去を否定はしませんよ、あのころの私に、今と同じことをしろといっても、それはそれで無理というものでしょう。つまるところ、人間、『思い至らないと』むりなんですね。なにかになろうと思ってなるというよりは、自然になっているというか。これもまた、若い私には、受け入れがたい考えだったと思います。そして受け入れなくてよかったとも思っています。だからこそ頑張れたわけですし」

 「今はそうじゃない、と?」

 「猪突猛進なジダイは去ったということでしょうか」

 「年寄りですねえ。まだ四十じゃないですか」

 「人間にとっての四十というのは、それなりなものなんですよ?」

 「そういえばそうでした。僕も人外が長いから……といっても、大家さんも、もう人外じゃないですか、もう不老不死じゃないですか」

 「そうなんですよねー」

 遠くを見つめる大家さんでした。

 「……ひょっとして、後悔したりしてますか?」

 「なるべく、後悔することのないように生きよ、というのが、龍家の家訓でして」笑う大家さんでした。「ただまあ、なにぶん初めてのことですからね」

 「ふむ」

 「人外になるのも、不老不死も、長生種も、このような生活も、まだはじまったばかりなので。不慣れです。結構、いろいろなことを知って生きてきた自負はあるのですが。まあ、天才なんて、こんなものなのかもしれません」

 「すごいこといいますね。世の一般のひとはなんだというのか」

 「ふふふ」

 

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