(11)
いったん滑走路に飛行機を着陸させて、機体のメンテをしている大家さんを尻目に、あの野蛮なふたりは、……なんでしたっけ、殺人野球でしたっけ、それをまだ繰り返しています。
だいたい僕が記憶している限りでは、野球というものには、セーフやらアウトやら、ベースやら走塁やらといったものがあるように思うのですが、あれ、ただ球をぶつけあっているだけですよね。
まあ楽しければいいんですけど。
大家さんは操縦機――専門用語でいうところのプロポ――をもって、こちらにきます。
「もういいんですか?」
「まさか、です。もうひとっ飛びいきますよ。ただ、少し腹ごしらえするのもいいかもしれない、ということで」
「戦はできぬ的な?」
「空中は常在戦場なりけり、です」
「そこまでいいます?」
「翼なき、浮遊術式なき人間にとっては」
「おっと、そうきましたか」
「まあ、だからこそ、ヒコーキが楽しいんでしょうね」
「なるほど」
「……セリゼちゃんや月読さんを羨んではいませんからね?」
「なにかをつっこんでほしいようにしか聞こえませんがなにか」
そういいつつ、僕と大家さんは、バスケットの中のサンドイッチに手を伸ばします。お、これはツナですね。もぐもぐ。おいしい。
「こういうとき、お茶受けと、熱いお茶があるというのは、贅沢ですね」
「まったく。大家さんもそう思いますか」
「この年になると、お金の制約がなくなったら、時間あたりの自由さというか、優雅さのほうが、プライオリティが高くなるんですね」
「大家さんも大人になりましたね」
「あははははは」
子供のように笑う――実際見かけは子供なのですが――大家さんでした。
「まあ、若いころには、思いもしなかったような境地なのかもしれませんね。『のんびり』ということに、ここまで価値をおくということは」
「まるで人生終わったかのような境地ですね」
「ふっふふふふふ」
今日の大家さんは笑い上戸ですね。
「ええ、ええ……そうですね、これじゃもうおばあさんですよ。まあ、そんな自分が、さして嫌いではないです」
「かつての日々よりもよほど?」
「今日の月読さんは切り込んできますね――いえ、過去を否定はしませんよ、あのころの私に、今と同じことをしろといっても、それはそれで無理というものでしょう。つまるところ、人間、『思い至らないと』むりなんですね。なにかになろうと思ってなるというよりは、自然になっているというか。これもまた、若い私には、受け入れがたい考えだったと思います。そして受け入れなくてよかったとも思っています。だからこそ頑張れたわけですし」
「今はそうじゃない、と?」
「猪突猛進なジダイは去ったということでしょうか」
「年寄りですねえ。まだ四十じゃないですか」
「人間にとっての四十というのは、それなりなものなんですよ?」
「そういえばそうでした。僕も人外が長いから……といっても、大家さんも、もう人外じゃないですか、もう不老不死じゃないですか」
「そうなんですよねー」
遠くを見つめる大家さんでした。
「……ひょっとして、後悔したりしてますか?」
「なるべく、後悔することのないように生きよ、というのが、龍家の家訓でして」笑う大家さんでした。「ただまあ、なにぶん初めてのことですからね」
「ふむ」
「人外になるのも、不老不死も、長生種も、このような生活も、まだはじまったばかりなので。不慣れです。結構、いろいろなことを知って生きてきた自負はあるのですが。まあ、天才なんて、こんなものなのかもしれません」
「すごいこといいますね。世の一般のひとはなんだというのか」
「ふふふ」




