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(9)(月読視点)

 本当に穏やかな天気です。

 月読です。(筆者補足:ここから視点がさらに変わる)

 大家さんと僕は料理を作り、バスケットに詰めて、で、僕がそれを運んできました。

 セリゼとキギフィさんはその間、なんだかわけのわからないことを語り合いながら、倉庫にいって、どたばたしていました。「あったあったー!」とか叫んでいました。その後、大きなリュックに、いくつかの荷物を持ってきました。ふたりで。

 本当に優しい気候です。

 大家さんは、ついに出来あがった模型飛行機を手に、御満悦です。大きな機体(本物よりはずっとずっと小さいですが)を両手で抱え、さりとて慎重に、家の裏に広がる湖畔――草に満ちた、広々と、牧歌的に、平和に広がる草っぱらに持っていきます。僕はそのあとをついていきます。お弁当が入った、籐で編んだ品の良いバスケットを持ち。

 なんて平和なのでしょう。

 大家さんはラジコン操縦機を片手に、機体の最終点検でしょうか、模型のあちこちを弄っています。ちょっと声をかけづらい雰囲気です。

 あれはただのおもちゃじゃないのだ、と、誰もが認識するような。大家さんの本気。それは、ものづくりにおいて最大限に発揮されます。それには、この場の誰もがついていけません。ゆえに彼女は天才なのでしょう。

 繊細と大胆さを兼ね備えた技巧。芸術と工芸の狭間の素敵な位置に存する傑作の数々。それが、あの小さな手から生まれ出るのです。古い神は、触れるものすべてを黄金に変えたといいます。しかし、作るものすべてが傑作と達した彼女の手は、はたしてどのようなものなのでしょう。

 おもちゃなんだから、適当に作っているんでしょう、みたいなことを言う人もいます。その度に、大家さんはムキになって反論します。いつもの大家さん――とても人格が出来たひと――からは、想像も出来ないような。

 あれが大家さんの本音でしょう。

 それは、僕にもなんとなく理解できます。

  自分の人生を楽しむこと。それこそが人生を楽しむコツだということ。だって、人生は有限なのですから

 それが、極端な生き方ということは、承知しています。

 が、この町にくる人は、どこか逸脱した生き方をしているのですから、今更、みたいな感すらあります。少なくとも、僕になにをかいえましょう。神すら殺した人間――おっと、もう人間はずいぶん前にやめました。そう、そんなやつに、なにがいえるのでしょう。なにが正しいかなどと……

 大家さんの準備が終わったようです。この瞬間の大家さんに声をかけることはできなくても、皆おだやかに見つめています。家族とは、なじみとは、そういうものではないでしょうか。

 で、セリゼとキギフィさんは、手元に長いものを……吸血鬼のほうは、あれなんでしょう、釘バット? 美少女のほうは、あれなんでしょう、ラケット?

 「いっくよー」

 「こいや小娘ー」

 そしてキギフィさんから打ち出されるのは、野球の球でした。それも、さあ、なんという豪速球! それも、なんということでしょう、顔面狙い!

 ぜんぜん悪びれてないキギフィさんです。それをみて、セリゼ、ニヤリとします。

 「だあらっしゃー!」

 野蛮なかけ声(彼女は本当に貴族でしょうか?)でもって、ガギン! と、鋼鉄音を響かせて、釘バットでそれを打ち返します。

 その速度、よけいに殺人的になり。大気をふるわせ、ゴォッ、と風すら生んで、キギフィさんに迫ります。

 が、さすがに人類最強、手持ちのラケットでもって、その球速(というか殺気)を殺します。ふつうだったらラケット全壊、当人も致死ですが、球と戯れるがごとく、それをなんなく受け止めます。

 そして打ち返すキギフィさんでした。

 「殺人野球とは……まあ確かに、ふつうの人間相手だったら、この一回で何十人もの死者が出てるだろうけど……」

 物騒です。

 カキンガキンガゴッズガッ、と、重金属と打撃の音が聞こえます。お互いがお互いの致命傷をねらっています。物騒な……

 とはいうものの、こういったことをふつうにできる間柄、というのは、あの二人にとって……とくに、「力」「技」「肉体」で会話することが、事実上困難を極めるセリゼにとっては(暴走するトラックとお茶を飲むことを想像してみてください)、こうして「バトルあそび」できるひとがいる、ということは貴重なのです。

 あんまり手加減してませんしね……

 これは完全に上から見た論なのですが、僕らレベルの使い手となると、ただのんきに力使って遊ぶことが出来なくなるのです。

 僕らはみんな戦車みたいなものですから、それがゴーカートの競技場に入ったら、「空気よめ」になりますからね。そういった感じなんです。

 が、僕らは暇を、それはそれは持て余しているものですから、そうやって「遊び」を封じられると、退屈というか、フラストレーションが溜まって溜まって仕方がないのです。

 ああ、いきいきとしていますね、今のセリゼ。本当に楽しそうな笑顔です。鮮烈に、輝いて、率直で、暴力的な。とてもセリゼらしい。……ほめているんですよ?

 そういった相手が、セリゼにいるということは、友人として、うれしいことです。

 孤独なひと、というのを、それなりにみてきました。そういつ人ともつきあってきました。

 傲慢ながら思うのは、「このように人に、せめて、ひとりの親友がいたら」ということでした。

 僕は? ええ、ひとりの友人であるとは自惚れています。それは、この百年で変わらないことです。が、それと同時に、このような人外の者とは別に、限りある人間と――ああ、何という傲慢な物言いでしょう――心からの友情が結べたら、と。

 それは、僕らのような者にとっては、とても難しいのですよ。実は。

 神に友達ができないように。僕が神というわけではないです。むしろ僕は、その名の通り、神を殺した者です。

 世界の反逆者、仇なす武力の徒。狂った神を殺しし、世界のバグ。それが神討ち、です。

 あるいは。

 たとえどんな大儀があろうとも、この世のパワーの源、秩序の源泉である神を殺したということは、なにかしら「異常」であるのです。異常すぎるのです。ほとんど神並みに。

 そのような者に、ただの人間の友達ができるものでしょうか――もっとも、大家さんにせよ、キギフィさんにせよ、ただの人間の範疇を多いに越えているのですが、まあ。

 それでも友達が、気遣いなく、遠慮なく、ふつうに接せられるひとがいるというのは、とてもうれしいですし、楽なのです。ふつうを大分逸脱してしまった者としては。

 

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