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(2)【表】

【表】とあるのは、これがほうき星町の方だからです。

次の回が【裏】です

(五月十三日、ほうき星町、イーシィ湖湖畔の高台の家、天気は呆れるくらいの平和な晴れ、気温は小春日和、初夏のそれには至らず。風はほとんどなく、絶好の飛行機日和である。湖畔の花がきれいだ)

 


 「一週間……工作が楽しかったです……っ! 工作の神様ありがとうございました!」


 ラジコン飛行機が完成しました。


 時刻は見事なまでに朝と、脳内時計(文字通りの意味、デジタル)が告げます。見事に徹夜です。おはようございます、フレアです。テンションが妙なのは自覚してます。


 手元にある工作用の鏡(反射させて見なければならない死角用に準備しているのです)で顔を見てみます。それなりに普通です。悲壮感はありません。


 私のような年代になると、徹夜がキツくなるとしばしば聞きます。奥様がた、というよりは、同業の研究者たちから。


 彼らの業務は過酷を極めます。頭脳をフルに動かし続けるのが職業なのですから。それが「頭脳労働」の意味です。身体を使わないから疲れない、よって頭脳労働……などとは、全然違うのです。


 「ロリババア……ですか」


 先日キギフィさんに告げられた真実。


 まああの場はノリでorzのポーズなんかとってみたりしましたが、確かに私もババアと言われてしかるべき年代なんですよね、冷静に考えてみれば。


 そういうことを意識せずに日々を過ごしているのは、もとからの性格もあるでしょうが、何よりこの身体――サイボーグの身体、これによるのでしょう。


 とりあえず三十分ほど「睡眠風」の強制デフラグと、いつもは自動ですが、急ぐ場合の手動オイル交換を済ませれば、徹夜の疲れもすぐに吹き飛びます。そんなサイボーグです。


 理系のみなさんだったらある程度理解していただけると思うのですが、身体の制約というものは、基本的にデメリットです。頭脳を酷使するということは、酷使するだけの価値があることをやっているからで、楽しいのです。それが、肉体などというものに拘束されることは、不自由です。非論理的とは申しませんが(因果ははっきりしていますから)、楽しくありません。


 よって、大体の研究者にとっては、サイボーグの身体こそが理想と考えます。「そんなの人間らしくない!」と言われるかもしれませんが、つまらない会議、不条理な出勤、神経症的な人間関係に肉体と神経を疲れさせることと、自分の本当にやりたいことのために自分をサイボーグにするのと、どちらが人間的でしょうか?


 まあ、ひとにはひとの人生がありますから、これ以上いうのは僭越でしょう。ええ。


 それに、私はいずれ延命処置の一環としてサイボーグ化は避けられないと思っていましたが、まさか「あの事故」のせいで、十代のころからサイボーグになるとは……人生とは不思議なものです。


 悲しいか?


 いえ。


 命があっただけでありがたいです。私はあのとき死んでいておかしくありませんでした。そう、それを思えば、何もかも楽しめます。いわんや、自分の趣味をや。おっと、古語が出てしまいましたね。さすがロリババアですね。


 理系の……といちいち前置きするのは、私が工学分野の研究者であるからであって、まあ世間では一応理系中の理系とされていますが、個人的には人間を理系文系で区別するのはいかがと思うのです。たいした区別ではないでしょう?


 それよりは、自分に誇りを持てているかとか、上品か下品かとか、楽しいことがあるか否か、とか、そっちの方が有益な判断基準と思われるのですが。いかがでしょう。


 ひとそれぞれですけど。そう、ひとのことにかかずらっている暇があったら、自分の楽しいことをしましょう。それが趣味人というものです。


 ロリババア。年齢と年恰好の著しい差異。

 それと今生きて楽しんでいることを天秤にかけて。


 明らかに、今の方、ロリババアであることの方が楽しいじゃないですか。前向きに考えましょう。おそらく研究者には前向きであることが望まれます。傍から見て順風満帆でも、当人的には「引き返さなきゃな……」と思っていることは、研究ではよくあることです。何が彼/彼女をそうさせるのか。真実のため。何が真実に彼/彼女を駆り立てるのか。そこに真実が、きっと潜んでいるのではないか、という、かすかな予感。残り香のような、淡い朝露のような。


 それだけで酔えるのが研究者です。そのためには、肉体の束縛など、きわめて些事といえましょう。


 ……私は幸せ者なのでしょう。きっと。そのために、誰もついてこれない場所にいようとも。

 それが体感として、断崖絶壁の先の先としても。

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