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(12)

北方の日差しは透明である。


赤道近辺のようにギラギラと照ってはいなく、ひとつ柔らかな膜を通しているかのような、穏やかな光を投げかける。


セリゼと月読は、家を出てすぐ目の前の、湖と草原に沿って伸びていく幹線道路を歩いていく。


真っ白な道。健全さ、まっすぐさ。そのような思想すら感じさせるほど、ひたむきにその道路はまっすぐ町の中心部まで繋がり、やがてまっすぐに他の町へと延びていく。


それだけ、この高台の家は、町の外れにあるのだと言える。


とことこと二人はその道を歩いていく。ここから町の中心部まではそれなりな距離がある。


もちろん、吸血鬼であるセリゼと、旅人である月読にはその程度の距離など歩いた内に入らない。


左手には、澄んだ深いイーシィ湖が広がる。


陽光の煌めきを受けて、魚の鱗のようにキラキラと水面が反射する。時折小舟が見える。釣りでもしているのであろうか。


その大きな湖の彼方には、微かに山脈が見える。目を凝らせば、そこからいくつもの川が分岐していっていることがわかる。


右手には、丘の草原が広がる。緩やかな斜面には、一面に草が萌え、小さな花がところどころに咲いている。


歩を進めていくと、やがて三台の風力発電用の風車が見えてくる。真っ白な柱と三枚の羽。


湖からやってくる爽やかな風が、草原を駆け抜け、風車を緩やかに回す。


月読は思う。

安易に市街地まで飛んで行かないのは、このような景色を楽しませたいからだろうな、と。


そして、彼自身も、この景色を楽しんでいるのだ。静かで、ジグソーパズルが緩やかにはまったように、定められた空間。



「悪くないでしょ?」


そんな彼の胸中を見透かしたかのように、セリゼは言う。


「キギフィさんの服っていつもああなの?」


ガクッ、とコケたセリゼであった。


「普通そこは『そうだね』とか言うとこでしょうが!」


「芸がないと思って」


「まあね、気持ちは分かるけどね! そういうずらし方もアリだと思うよ!」半ばヤケになった感じでセリゼは言い放つ。


「いいところだってのは、言うまでもないかな」


「……ん、そっか」

セリゼはそれに満足しているようであった。

「キギフィの服装はね」


「あ、律儀に答えてくれてる」


「あの娘はどーいうわけだかパンク・ルックしか着ないの」


「そりゃまた徹底してるね」


「もっとフェミニンなのを着た方が似合うと思うでしょ? 抜群に。でも着ないんだ。『これが私の服装だ!』なんつって」


「ふーん、まあ、自分が気にいっている服を着るのが一番だよ。文字通りの『お仕着せ』は嫌でしょ?」


「もったいない、とか思ったりしないのが月読なんだなぁ……ま、前からそうだけどさ」


「それにしても、気持ちがいいね。日差しもいい感じだし」


「そうだね」


――「そうだね」、

この言葉が吸血鬼から出てくること自体信じられないことである。


が、セリゼの体質はもはや日光を好ましいと思えるレベルにまで到達している。

あらゆる吸血鬼の急所を克服した吸血鬼。

破格の存在である。

彼女は、それを魔女魔法(ウィッチマジック)の特有分野「魔術ドーピング」により成し遂げた。


それは、遺伝子レベルから存在のあり方を「書き換える」というチートである。

よって、彼女のクラスは魔女。吸血鬼はそれ自体がクラスであるが、彼女はそこに付随してそれがある。


「さて、そろそろ飛ぼうか」

何もない空間から、ポン、と煙が立ち、セリゼの手元の空中に箒が現れた。

「ちんたらしてたら置いてくぞ?」


「今更」


何でこの少女――月読にとってはいつまでたってもセリゼは「少女」である――はいちいち偉ぶりたがるんだろう、と、もう数百回になる疑問を頭に浮かべながら、

「けどそれを言ったところで『貴族だから』で返されるんだろうな」と反芻する月読だった。

まぁいいけどね。慣れてるけどね。


そして二人は町の中心部へと飛んで行く。

セリゼは箒に乗り、月読は手元の肩掛けをふわりと浮かばせる。

まるで歩き出すかのような自然さで二人は浮遊し、そのまま飛空魔法で飛んで行く。結局、こうした方が一番早いのだ。


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