表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/107

(10)

「それで月読はどれだけの国を廻ってきたわけ?」

 

「七割ですかね、国連によって『国』と指定されているところは。エルフ界や幻獣界にも何度か足を踏み入れましたけど、『限界』までは行ってない」


 「それでも凄いなぁ……凡人じゃ頭おかしくなるレベルじゃんか」


 キギフィはこの来客に対して好奇心旺盛のようであった。いつの間にか「さん」付けがなくなっている。矢継ぎ早に質問を投げかける。月読はそれに答える。


 しかしそれにしてもこの美少女は良く呑む。瓶が次々に空いていく。けれどへべれけになることなく、酒を楽しむことを心得た呑み方だ。話はよく回り、楽しい方向へと持っていこうとする。いい呑み方だな、と、月読はキギフィに好感を抱くのであった。


 「でもエルフ界や幻獣界って、まだこの星が丸いってこと知らないんでしょ?」

キギフィが問う。

「よく言われてるけど」


 「少々古い認識かもですね」

月読は見聞きしてきたことを、誇張することなく自然に話す。その何の飾り気のなさが、とても説得力を持つ。

「若い世代では日常的に魔法コンピューターを駆使するような世界になりつつありますよ」


 「へぇ……時代の趨勢ってやつだね」


 「もっとも、奥地であったり、『古株』の人達はそういったのに馴染めないようです。そのあたり、これからの博士たちの課題では? より様々な種族に馴染む形でのインターフェイスの開発」段々と月読の話し方も砕けてくる。確かに丁寧語であるのは変わらないが、少しずつ。


 「というよりもっと深いところで……古参の方々に興味を持ってもらえる、訴えかける形での『工業デザイン』をしなければなりませんね。結局、必要がない、大したものではない、と認識されてのことでしょうし。あと、博士、っていうの、もういいですよ。堅苦しいですし」


 「そうですね、フレアさん……いや」月読は考え直して、先ほどウケたあれを持ち出してみる。「『大家さん』で」


 「あはははは」

ころころとフレアも笑う。義体でもアルコールは回るのだろうか? 生体箇所は残っていると言っていたが――いや、それよりも、場の雰囲気が楽しくてのことだろう。

「すっごい形式ばった言い方ですね! いいですね。そうやってきちんとしてくれるのは月読さんだけですよ」


 「わ、私だってちゃんとしてるぞー!」セリゼが弁解する。「家賃とか!」



 「「「それは当然でしょう」」」

一同から総ツッコミを喰らう。



 「ぐっ……」


 「そういえば、セリゼって何してるんです? 仕事的な意味合いで」


 「基本的には、これといって何も」


 「ニートですか」


 「あ、さっき私仕事しろって言われたけど、セリゼに言われる筋合いないじゃん! 今思い出した!」


 「あんたらも知ってるでしょうが! 私は貴族だから金に困ることなんてないの! 貴族の仕事はひとつ!」セリゼは言い放つ。「優雅に生活すること!」


 「前近代的な」月読が言う。


 「近代市民社会に反していますね」フレアが言う。


 「仕事しろ」キギフィが言う。


とにかく総ツッコミである。


 「こいつら……どうしてくれよう」苦々しい口調でセリゼは呟く。


 「まあ、とは言っても、セリゼちゃんが何もしてないってわけでもないんですけどね」フレアが補足する。


 「でしょう。セリゼは旅先でも、数々のトラブルバスターをしてましたから。惑う者、弱き者を救う、この高貴な義務(ノーブレスオブリージュ)こそ貴族の勤め、とか言って」


 「は、恥ずかしいこと暴露すんな!」

真っ赤になるセリゼであった。酒とは特に関係なく。


 「そういうのをこの町でもしてるんですよ。たまにどこかから素行の悪い人や魔物(モンスター)が来たら、殴って追い返したり、魔法関連の仕事を請け負ったり」


 「平たく言えば、用心棒、兼、胡散臭い魔女、と」


 「そうなんです」


 「嬉しそうに言うなー!」


 そのやりとりを見て、キギフィは笑っていた。フレアも笑っていた。セリゼは、弄られながらも、それでも楽しそうだ。

月読は、乾いた旅の果てに、このように安らげる場所に辿りつけたことに、小さな、けれど確かな満足を得ていた。


 食事も酒ももちろん美味しかった。けれどこの幸福もまた。

「一日目」は、これで終わります。

次の更新(二日め)は、月読がセリゼにつれられて、ほうき星町の案内をしてもらう話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ