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(9)

「よーしそれじゃ酒盛りだー!」キギフィが高らかに宣言する。

 

「いきなりだなオイ!」セリゼが突っ込む。


おお、こういうセリゼも珍しいぞ、と月読は思った。このキギフィという少女はフレアに負けず劣らず大物らしい。


 「まあまあキギフィさん、まだこんなゆるい時間ですし」

時刻は午後三時。いくらなんでも早すぎる。

「私もまだ料理作っていませんし」


 「……え? 料理されるんですか?」その意外な家庭性に驚く月読であった。


 「今日はコロッケなんかを」


 「やったー! 月読さんもその味に喜ぶといいよ!」

もう早速タメ口である。天真爛漫というか、兎角大物である。しかしそれに嫌味は全然ない。むしろ見ていて清々しい。


 「やったー! 食いまくるぞー!」セリゼもそれに引き続く。


 「あのー、相変わらずセリゼはよく食べるんですか?」


 「『よく食べる』なんて形容じゃ通じませんね」フレアはしみじみと言う。


 「ですよねー」


 セリゼは血が吸えない。生まれついての異常体質である。

どう頑張っても体が受け付けない。

吸血鬼としては、明らかな問題であり異常である。

その代わりとして、莫大な膂力と魔力がセリゼにはある。

セリゼはそれを使って――彼女はそれを魔術ドーピングと呼ぶ――吸血鬼が苦手とするあらゆることをカバーする。

彼女の師から受け継いだ、遺伝子ごとの書き換え法という高位魔術。

日光、十字架、ニンニク、流れる水、すべて彼女の前には意味をなさない。


 それであるがゆえに、セリゼは吸血鬼の中でも段違いに強いのであり、同時に、迫害される理由でもある。

吸血は吸血鬼のアイデンティティである。

そこのところの異形性は、吸血鬼にとってどうにも許し難いもののようだ。

セリゼの能力が高いだけに余計に。


 「とはいえ、目の前の吸血鬼の見かけ女の子が、モリモリガーリックライスを食べているのにはさすがに……」


 「それを言いだしたらキリないよ月読さん」

キギフィが言う。

「まあとにかく、月に一回満漢全席食べてるようなのさこいつは」


 「またそんな無茶な食道楽を……え? 中華料理屋ここにあるんですか?」


 「あるよー」


 さらっと間延びした口調でキギフィは言ったが、これはとても珍しいことである。

この世界においては、中華料理(筆者たちの世界と呼称・内容は変わりはない)というのは、全世界に広まっているメジャーな食べ物であり、その普遍性ゆえに、この世界ではより全国に広まっている。が、それにしたって、こんな片田舎にあるとは。


 「この町はですね」

フレアが言う。先ほどと同じく、何だか案内人のようだ……ってそうか、自分は異邦人なんだから、と納得する月読であった。

「とにかく『辿りつく最果て』なんです。ですから、いろんな人たちが集まるので、ニーズというものも千差万別で」


 「それから、イーシィ湖から分かれている大小様々の川があるでしょ?」

セリゼが言う。

「月読も見てきたと思うけど、あれが物資を運ぶ流通運河としての役割を持ってるから、意外とその方面での便利度ってのはいいんだよね、この町。田舎とは言っても。日に何度も船が通るから」


 それは確かに意外であった。てっきり、完全に外界とは隔絶された町なのか、と思いかけていたからである。


 「なるほどね。じゃあ、セリゼも自重しないで食道楽ってわけだ」


 「そう!」

すごく嬉しそうな顔である。

「昨日のランチはパスタを五人前!」


 「……いいけどね、慣れたけどね、そういう風に言うの」相変わらずの食いっぷりに感嘆するやら呆れるやらの月読である。


 セリゼは血が吸えない。となるとどこからエネルギーを補給するかとなったら、これはもう食物以外にない。

なので、人型の生命体としては、尋常でない量の食べ物を食すのだが、しかしそれにしたってこれはないよなぁ、と月読は毎回思う。そのあたりはこの家の住人も納得しているようで、「いつものことか」としている。


 「ペペロンチーニで軽く前菜、たらこで副菜、ミートソースでメイン一、ペスカトーレでメイン二、それから……」


 「パスタしか食べてないじゃん」キギフィが呆れている。


 「呑んだくれに言われたくない」


 「えっと……そんなに呑むんですか、キギフィさん?」


 「呑む、それは私の人生。呑む、それは私のジャスティス……」


 「カッコつけてるようだけど、結局はただの呑んだくれってだけだからね」



 「ちくしょー!」


 それをフレアは穏やかな笑みで眺めている。ただそれでも屋主として言うことは言うようで、


 「まあでもこんなゆるい時間からは早いです。せめてコロッケが出来上がるまで待ちましょう。これから作りますから」


 「あ、じゃあ手伝います」さすがに客人の身である。それくらいはしないと忍びない。


 「いいんですよ、それよりセリゼちゃんにこの家の説明でも聞いておいてください。荷物もおありでしょうし」


 「うーい了解―」セリゼが言う。「じゃあ月読、まずは二階に来なさい。あんたの部屋があるから」


 「わかった」


 「布団敷いといた方がいいよ、潰すから」笑うキギフィだった。「じゃあ私はゲームでも……」


 「仙人相手によく言うよ。それから、仕事しろ呑んだくれ」セリゼが冷ややかに言い放つ。

ホント、どれだけ呑むのだろう……と思う月読であった。どうにも酒豪というイメージが当てはまらない。


 「やっと仕事が一段落付いたんだからいいじゃん。と、今ふと思ったんだけどさ……」

キギフィが怪訝そうな顔付きで言う。

「ぶっちゃけ、月読さんって、どれくらい凄いの?」


 「わかんない?」何を当たり前のことを、といった感じでセリゼは言う。


 「いや、魔力が凄い、ってのはわかるよ? それから、セリゼからも話はよく聞いてるし。私が知りたいのは、『どのように凄いか』ってこと――追々分かってくるもんだ、っていうのは承知の助だけど、やっぱり興味あるじゃん? フレアもそうでしょ? ……まあ、私よりは知ってるか」


 「そうですね、ご専門における能力というのはわかっています……もう何十年も前の話ですけど、未だに覚えていますよ」


 どうやら、セリゼが伝えているところによると、一応自分のクラス(位階)は分かってもらえてるようだが、具体的には、といったところだ。

当然といえば当然かもしれない。――あるいは、その魔力を感じることが出来るということは、先ほどちらっと聞いたがキギフィという少女もそれなりに何かに精通しているのだろう。


 「んじゃ月読」セリゼが出しぬけに言う。「分かりやすく、顔飛ばすから」


 「え? いきなり?」


 「飛ばすって……セリゼが力入れて殴るわけ?」

少々の困惑を浮かべるキギフィであった。「大丈夫なの?」

 

「『どう大丈夫』なのか、今から実演してみせた方がわかりやすいでしょう」


 そう言って、月読を立たせ、体勢を月読の前に構え、セリゼは右フックを月読の顔面に入れた。


 その速度は、まるで流星の煌めきのようであった。軌跡が見えない。ぶん、と風圧が押し寄せ、次の瞬間には、月読の顔は消し飛んでいた。


 「うわっ! 本気で力入れたし!」


 パン、と風船が破裂するようだった。それほどに、セリゼのパンチは強烈であった。否、強烈なんてものではない。例えるなら車の衝突の衝撃の凝縮。


 これがセリゼの膂力である。通常の吸血鬼の数倍。吸血鬼はそもそも人間より膂力も魔力も凌駕しているものであるが、セリゼはその上を行っている。


 化物。そう形容するしかない。


 しかしその化物性では月読も負けてはいなかった。


 「ホントいきなりだもんなぁ」

顔のない状態で、へらへらと語りかける月読。顔の破片はどこにも散らばっていない。まるで空気に散らばってしまったかのように。

「ま、こんな感じかな? これでも生きてるってくらいのことは出来ますよ?」


 「デュラハン(首無し騎士)デュラハン!」

キギフィは動揺している。

「その姿で居るのは心臓に悪い! ……いやでも、ホント大丈夫なの? 月読さん?」


 「大丈夫じゃなかったらこういう真似はしないって」セリゼは言う。「水でいいんだっけ?」


 「うん」首無し状態の月読が言う。どこから声を出しているのか。


 彼の断面は、肉のそれではなく、透明な何かが首の形となってそこにあるだけだ。


 「はい」水入れに水道水を入れたセリゼが月読にそれを渡す。


 「ありがと」

そう言って月読は顔がもとあったところに水を注ぐ。水は床に零れず、月読に吸収されていく。と同時に、月読の顔が一瞬にして再生する。


 「うわぁ……」キギフィが感嘆する。一種の畏敬すらたたえた顔つきで。


フレアも仰天している。


「こんな形で形態再生する人ってはじめて見る。セリゼ並みの早さ……いやそれ以上じゃない? どういう理屈なの?」


 「五行八卦に通じた者の辿りついた果てがこれ」セリゼが冷ややかに言う。「要するに、月読は人間じゃないからね」


 「……えーと、仙人ってのが、一般的東洋魔術師、道士と違って、人外の存在になるってことは知ってる。けれど、これはないでしょ? これじゃ、言っちゃなんだけど、生き物ですらない」


 「私もそう思います。魔術に通じているとはいえ、魔術師はやはり肉体を第一の媒介にするはずです。でもこれではまるで……ただの水みたいです」


 「当たり」セリゼは言う。「月読には、生物で言うところの『肉体』ってものがない」


 「……どういうこと? イマイチ分からない」


 「僕が説明するよ」月読が言う。「えーと、いろいろあったんです。以上」


 「ざっくりしすぎ!」一同からツッコミを受ける月読だった。


 「冗談ですって」微笑みを浮かべる月読だった。

「まあ、修行の果てに、自分の存在を、五行……つまり、火・水・木・金・土の『エネルギー要素』を基にしたものにしたんです。簡単に言えば、いくら体が破損しても、こうして水さえあれば元に戻りますし、これが火でも同じですね。だから、エネルギーに意志が乗っかった状態。そして、肉体がないわけですから、僕には性別の区別すらもはやありません。当然不老不死」


 「はっきり言ってチート」呆れかえった顔つきでセリゼは言う。

「いくら剣で切ったところで、銃弾ぶちかましたところで、「五行」の純粋な要素があれば即再生。水が一番使いやすいんだっけ?」


 「混じりけがないからね。ここの水はいいね。とっても純粋で綺麗。いつも以上に調子がいいよ。さすがだね」


 「……はぁ」キギフィは、その事実を認識するのに頭を巡らせている。「こりゃ凄いわ」


 「だから言ったでしょ?」セリゼは言う。「月読は東洋系魔術師の中でもトップだって」

 

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